縁
犯人は名前の漢字全てが、縦に中央線を書いた際に左右対称となる人物をターゲットに据えた。

縁
正確には、そんな綺麗な名前を持っているのに、左右が非対称の人間をターゲットに据えたのです。

縁
しかし、なぜか第3の犠牲者については、犯人が自らレシピのシンメトリーを崩したんです。

縁
それはなぜか?

倉科
山本、ちょっと待て。

倉科
そもそも美里ちゃんは多田美里であって、確かにほとんどの漢字がシンメトリーとやらになるが、肝心の【多】はシンメトリーにならんだろ?

縁
はい、その通りです。

縁
しかし、彼女からいただいた名刺では【多田美里】ではなく【大田美里】になってしまっていた。

縁
この名刺は、本人いわく誤字バージョン……つまり、誤植によって【多】が【大】になってしまったものでした。

縁
加えて、彼女は言っていました。

縁
この名刺を配るのは、私達が初めてだと……。

麻田
で、それがなんだって言うの?

縁
この名刺が配られた後、倉科警部が漢字の違いを指摘していました。

縁
だから、私はこの名刺に誤植があることを知っていました。

美華
…………。

縁
しかし、妙な話です。

縁
なぜ、犯人は【多田美里】さんをターゲットにしたのでしょう?

縁
彼女の漢字を見ても、左右対称ではないことは明らかなのに。

尾崎
……犯人が、彼女の名前を左右対称だと勘違いした原因が、この名刺だったってことっすか。

縁
はい。

縁
犯人は私達にしか配っていないという、誤植のある名刺を見て、美里さんをターゲットにしようと考えたのです。

倉科
でも、その後にオレが訂正をしたはず――あ!

倉科
あの時、ただ1人だけ、先に帰って話を聞けなかった人物がいた。

縁
そうなんです。

縁
本来なら左右対称ではないはずの美里さんの名前を左右対称だと思い込んでいながら、なおかつそれが間違いであると知らなかった人物。

縁
それは、あなたしかいないんです。

縁
中谷美華先生!

美華
…………。

縁
あなたは、美里さんを殺害した後になって、本当の彼女の名前が【多田美里】だと知った。

縁
免許証か何かを確認したのか、その辺りは分かりません。

縁
しかし、このままでは名前の左右対称性を持つ人間を殺害してきた流儀から離れた人間を殺してしまうことになってしまう。

縁
だから、あえてレシピの名前を変えて、文字数を奇数にした。

縁
また、わざとらしくレシピの材料の分量などを変えることで、そもそも左右対称のものを狙ったわけでないように修正しようとしたんです。

縁
これが、この事件の全貌です。

倉科
中谷……詳しく話を聞かせてもらおうか。

美華
……くしくないの。

美華
美しくないの。

美華
だって気持ち悪くない?

美華
全てが綺麗に左右対称なのに、そこにひとつだけ左右が非対称になっていたら。

美華
気にならない?

美華
正さなきゃって思わない?

美華
え、えっ、えっ、えっ、えっくすぅぅぅ!

美華
じじょう。

美華
えっくすわい。

その白衣のどこに隠していたのか。いや、ずっと後ろ手に持って隠していたのか。
倉科
おいおい、まさかあんなもん振り回すつもりじゃねぇだろうな!

倉科
麻田、下がってろ!

尾崎
縁、危ねぇから離れるっす!

同じように尾崎が拳銃を引き抜きながら、縁に向かって叫ぶが、縁は小さく首を横に振った。
縁
先生、ご存知ですか?

縁
人間って、そもそも左右対称ではないらしいですよ。

縁
事実、顔をちょうど半分だけ鏡に映して、それを反転させると、違和感のある顔に見えるそうです。

縁
むしろ、左右が非対称のほうが、人間らしく見えるらしいです。

縁
もちろん、先生ご自身も。

美華
え、え、え、え?

美華
どこ?

美華
どこが対称じゃないの?

美華
どこぉぉぉぉ!

狼狽した様子の中谷に向かって、倉科が飛びついたのは次の瞬間だった。
倉科
ったく、こういうことをするなら事前に打ち合わせくらいしろっての。

鉈を取り落としてしまった美華は、倉科に拘束され、それでも左右対称でないことが気に入らないのであろう。
美華
か、鏡ぃぃぃ!

美華
鏡を見せてぇぇぇぇ!

倉科
一応、公務執行妨害と、俺達に対する傷害未遂ってところか。

倉科
中谷美華、緊急逮捕だ。

――こうして、3人もの犠牲を出した残酷な食人事件は、あっけなく幕を降ろしたのであった。