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猫屋敷古物商店の事件台帳

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猫屋敷古物商店の事件台帳

10 - 第2話 開かずの病室 問題編【4】

2025年11月11日

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事件当日――夕方。

夕方の引き継ぎも終わり、当直の3人にてミーティング。

稲垣

5号室の合田(あいだ)さんですが、先生の話だともう少し安静にとのことです。

稲垣由美 斑目の母方の祖母

金谷

まぁ、両足骨折だから、あのおばちゃんも自由には動けないだろうけどね。

金谷

口ばかりは達者だけど。

金谷智子 ベテラン看護師

稲垣

そうですね、他の患者さんは経過も良好ですし、急変のありそうな方もいませんし。

金谷

特に曲者な患者さんもいないから、今日は比較的楽な当直かもね。

藤巻

――なら、そろそろいい?

藤巻

僕、ちょっと仕事が忙しいんだよねぇ。

藤巻敦 医師 医院長の一人息子

稲垣

(この人、医院長の息子だからって、いつもそう)

稲垣

(すぐにドクターの部屋にこもって、どうせ朝まで出てこないんだから)

稲垣は新人であり、立場的に物事を強くは言えない。

いいや、彼が医院長の息子である以上、誰も文句は言えないのだが。

金谷

分かりました。何かあったらお呼びしますから、どうぞお仕事に取り掛かってください。

藤巻

そう?

藤巻

それじゃあ、そうさせてもらうよ。

藤巻が部屋に戻ろうとする背中を眺めつつ、先輩の金谷が小声で呟く。

金谷

あいつは適当にあしらっておけばいいから。

金谷

滅多に急患なんて出ないし、いざとなったら医院長か他の先生にどうせ泣きつくんだからさ。

まだ院内のことさえ良く分からないが、一人息子の藤巻が良く思われていないことくらいは、さすがの稲垣にだって分かる。

確かに、横柄な部分はすでに何度か見てきたし、偉ぶっている様子もあったりする。

金谷

えっと、稲垣さん宿直は何度か経験したのよね?

2人になった宿直室。

金谷の問いに頷く。

稲垣

はい、一応見回りもいけます。

稲垣

ただちょっと不安な点があって――。

金谷

不安な点?

稲垣

はい、あの――ナースコールの確認方法なんですけど。

自然と壁にかけられているナースコールの元へと向かう。

金谷

あぁ、これね。

金谷

患者さんがナースコールを鳴らすと、鳴らした部屋のランプが点くから、受話器を取って応答すればいいわ。

金谷

部屋番号は上から順に割り振られているから。

金谷

それと、患者さんの名前が入っていないところは――例の【開かずの病室】だからね。

稲垣

【開かずの病室】――先輩、私怖いの苦手なんですから。

ナースコールには対応している部屋の患者名が書かれている。

これを確認して、どの病室に向かえばいいのか判断するわけだ。

しかし、上から順に並んでいるネームプレートの内、ひとつだけ名前の書かれていない部屋がある。

その部屋は【開かずの病室】と呼ばれ、鍵がかかっているらしい。

金谷

そんな顔しないでよ。別にお化けが出るってわけじゃないし。

稲垣

そうですけどぉ。

金谷

まぁ、緊急を要する時もあるから、ランプが光ったら、直接その部屋に向かうようにしたほうが手っ取り早いよ。

金谷

ほら、特に5号室の合田さんなんて、絶対にナースコールに対して返事しないんだから。

金谷

妙に頑固というか、どこかお客様の気分でいるのよね、あのおばちゃん。

金谷

あ、うちの病院は4号室と9号室はないから、部屋を間違えないようにね。

金谷

とにかく、ランプが点いたら、プレートに書かれている患者さんの病室に直行する。

金谷

それを徹底していれば部屋を間違えることもないから。

4は【死】を連想し9は【苦】を連想させることから、病室に4と9の番号を割り当てない病院は珍しくない。

研修で少し世話になった都会の大病院では、4階部分を5階と呼ぶ始末だ。

入院する側からすれば決して気持ちのいい数字ではないから、仕方がないのかもしれないが、4階をないことにしてしまうのは、力業が過ぎると稲垣は思っていた。

医院長

やぁ、良くやってくれているね。

ナースステーション……とは名ばかりの詰め所で待機することしばらく。

夕食の配膳も終わり、そろそろ見回りをする時間になって、医院長が顔を覗かせた。

息子とは違い、気さくな性格で、スタッフにも優しく接してくれる。

もう歳はそれなりにいってはいるが、一人息子が心配なのか、まだまだバリバリの現役だ。

金谷

医院長、今日は昨日の夜勤から通しで働いておられるでしょう?

金谷

自宅へ帰って少しお休みになられたら?

医院長

ははははっ、ここが僕の家のようなものだから。

医院長

うん、でもまぁ、ちょっと入院患者さんの様子を見たら、お言葉に甘えて休むかな。

医院長

多分、もうここには顔を出さないだろうから――後は任せたよ。

稲垣

はい、頑張ります。

金谷

任せてください。

金谷

敦先生もいますから大丈夫ですよ。

2人が言うと、医院長は少しばかり寂しそうな笑みを浮かべる。

医院長

あの子が当直だから、こうして僕がこの時間帯に往診するんだけどね。

医院長

それじゃあ、お疲れさま。

医院長

稲垣さん、まだ慣れないことが多いかもしれないけど、金谷さんは大ベテランだから、しっかり学んでね。

医院長

慌てずにひとつずつだよ。

医院長はその言葉を残すと、手を挙げて病棟のほうへと姿を消した。

金谷

――どうして、あの医院長からあの息子が産まれるかね。

金谷

不思議だわ――。

稲垣

あの、下手すると聞こえますよ。

稲垣

ドクターの部屋の壁、そんなに厚くないですから。

金谷

おおっと、これは失言だったわ。

金谷

くわばらくわばら。

ドクターの部屋の扉を見つつ、両手で手を合わせる金谷の姿に思わず笑ってしまう稲垣。

しかしこの時の2人はまだ知らない。

つい先ほど見送った後ろ姿が、医院長の最期の姿であったことを――。

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