松崎陸
ここでいい?
浜松イル
はい
浜松イル
あの!
松崎陸
ん?
浜松イル
これ、本当に……私が持ってて……
松崎陸
俺はあんたに持っててほしい
松崎陸
俺もあんたのこれ……お守りだと思って大切にするから
浜松イル
ありがとう……
陸の言葉に
イルは自然と笑顔になっていた
イルの笑顔に
陸も自然と微笑み返す
松崎陸
少しでいいから
松崎陸
強くなれるといいな
浜松イル
うん
松崎陸
じゃあ、また
浜松イル
え、またって……
松崎陸
いや、学校……同じ駅だし……
松崎陸
たぶんまた会うかと思って……
浜松イル
あ、そっか……
松崎陸
じゃあ……また……
浜松イル
また……
帰りの電車内
不思議と人の視線が気にならなかった
まだ少し痛みの残る
陸がつけた傷
でもイルにとってそれは
いつものような苦しみから逃れるためのものではなく
もう二度としないと言う
強い決意が込められたものだった
浜松ミク
遅かったわね……
浜松イル
ごめんなさい……
浜松ミク
圭子ちゃんに電話したら
浜松ミク
イルは一人で帰りましたって
浜松イル
…………
浜松ミク
これからは、遅くなる時は連絡してよ?
浜松ミク
携帯があるんだから
浜松イル
はい……
母親はイルのことを気にかけてはいるものの
学校でのことを聞いても
浜松イル
別に、普通だよ
と言うイルの返答に
それ以上に深く追及することができていなかった
幼なじみの圭子の存在もあり
その安心感からか
何かあれば圭子が必ず知らせてくれる
だから大丈夫だと思い込んでいた
イルは部屋に戻ると
椅子の上に鞄を置いて
部屋着に着替えてベッドに寝転んだ
オレンジ色のリストバンドを じっと見つめる
陸も同じリストバンドをしていた
色違いの
深い緑色のリストバンド
陸の腕にも傷があった
自分と同じことをしている人に初めて出会った
自分のことを打ち明けることができた
浜松イル
松崎君……
浜松イル
また、会えるかな?







