駅でイルを見送った陸は
家に向かって全速力でペダルを漕いだ
何度も頭に浮かぶイルの姿
女子を後ろに乗せたのは初めてだった
女子とあんなに長く話したのも初めてのことで
麻衣子に対して感じる嫌悪感ではなく
安心感があったと陸は思った
松崎陸
自転車を置いて玄関のドアを開ける
出迎えてくれる人は誰もいなかった
ダイニングルームからは楽しそうな母親と空の声が
松崎空
松崎文
あまり時間を気にしていなかったが
もう7時を過ぎていたことに気づいた
松崎陸
そう思いつつ部屋に戻り
着替えてベッドに寝転んだ
ポケットに入れていたイルのカッターをじっと見つめる
そしてイルの言葉を思いだし
頭の中で何度も繰り返した
衝動的に腕を掴んでしまった
でもイルはちゃんと話を聞いてくれて
自分の申し出にも応じてくれた
カッターを交換して
もう自分を傷つけないと約束した
まだ会ったばかりなのに
心の奥で通じ合えた気がした
松崎陸
松崎陸
微かな期待と不安が入り交じる
そんな陸を気にも止めず
母親と空は食卓を囲んでいた
陸の分の夕食はちゃんと用意されているのだが
自分の思い通りにならない陸のことを
母親は避けるようになっていた
松崎文
陸は陸なりに精一杯やってきた
親の期待に応えて進んで行く兄たちのようになりたくて
兄たちには劣るがわりと偏差値の高い高校へ進み
校内での成績は常に上位
しかし母親には認めてもらえず
松崎文
松崎文
松崎文
母親が望んだのは
空が通っている偏差値トップの進学校
母親の思い通りの高校に進学し
母親の言うことに忠実に従う空は
母親にとって誇らしい存在だった
海もそこを受験し受かってはいたが
細かい校則がいくつもあることが嫌で
少しランクは下がるがそれでも偏差値の高い高校へ進んだ
母親はそれが理解できず
せめて大学はちゃんとしたところにと強く望んだが
海はそこでも大学ではなく専門学校への進学を希望
その事で母親と激しく衝突し
進学を完全に諦め出ていってしまった
それから母親は荒れてしまい
追い討ちをかけるように陸は受験に失敗してしまう
それまでの努力を完全に否定され
助けてくれていた海もいないこの家で
一人孤独を感じながら生きている
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