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春の風が校庭を抜けていく。
まだ少し肌寒い朝、夏色紫雨(なついろしぐれ)は桜の花びらを追いかけるように校門をくぐった。
新しいクラス、新しい季節。胸の奥がふわっと軽くなる。
夏色紫雨
教室の窓際で本を読んでいた濱井瑞葵(はまいみずき)が顔を上げる。
紫雨は笑顔で机に手をつき、勢いよく話しかけた。
夏色紫雨
濱井瑞葵
瑞葵の言葉に紫雨はうれしそうに笑う。
その笑顔がまぶしくて、瑞葵は少しだけ目を逸らした。
胸の中で、彼女の声が音楽みたいに響いている。
昼休み、紫雨は橋本杏悟(はしもときょうご)のところに駆け寄った。
夏色紫雨
橋本杏悟
紫雨は笑って杏悟の腕を軽く叩く。
その無邪気な笑顔を、少し離れた場所から瑞葵が見つめていた。
千藤凛々花(ちどうりりか)が瑞葵の隣に立つ。
千藤凛々花
濱井瑞葵
千藤凛々花
瑞葵は困ったように笑い、言葉を濁した。
放課後。
音楽室から歌声が聴こえてきた。
瑞葵が足を止めると、ピアノの前に紫雨がいた。
目を閉じ、真剣な表情で歌っている。
夏色紫雨
その声が静かな夕方の校舎に響き渡る。
瑞葵は扉の外で立ち尽くしたまま、ただ聴いていた。
濱井瑞葵
彼の胸に芽生えた気持ちは、まだ誰にも知られていなかった。
けれど確かにそこにあった。
春の風と同じように、静かで、優しくて、まっすぐな想いだった。
その日から、4人の季節が動き始める。
そして紫雨の歌声が、これから誰の心を揺らすのか———
まだ誰も、知らなかった。