縁
まず、注目すべきは、ポエムの中に出てくるいくつかのワード。

縁
【後ろの席】【帰りの掃除】【渡り廊下】です。

縁
最初のポエムの【後ろの席】ってどんな状況を指しているんでしょう?

縁
これ、学校の教室のことを指しているのでは?

尾崎
ってことは【帰りの掃除】ってのは、授業が終わってからやらされるやつっすね。

尾崎
よくサボったっす。

坂田
【渡り廊下】ってワードも、直感的に学校を想像するってわけだ。

縁
そして決定的なのは――最新のポエム。

縁
【今年も夏がやってくる】と【離れ離れになっているうちに】というワードを組み合わせると、ひとつの事象が想起されます。

坂田
――夏休み。

坂田
夏がやってきて、夏休みに入るから離れ離れになる――ってことだ。

坂田
ついでに言うなら【春が終わる】ってワードがポエムのどこかに入っているが、それを【1年が始まって間もない】と表現している。

坂田
普通、一年の始まりといえば正月をイメージしそうなものだが、これも犯人が学生だと考えると腑に落ちる。

縁
犯人にとっての一年の始まりは年度の変わり目。すなわち4月。だから【春が終わる】頃は、まだ一年が始まってから間もないわけです。

縁
年度基準で動いており、なおかつ学校を想起させる表現が、ポエムのいたるところで散見される。

縁
よって、犯人は学生の可能性が高い。

坂田
……70点だな。

坂田
まだ犯人の年齢を絞り込む情報はある。

坂田
ポエムの一節に【時間を早戻しして】というくだりがあるだろ?

坂田
これ、違和感ねぇか?

坂田
特に、そこのおっさん。

倉科
おっさんか……まぁ、間違っちゃいないが。

尾崎
おっさんじゃねぇっすけど、自分も違和感あったっす。

尾崎
これ、早戻しじゃなくて、巻き戻しじゃねぇっすか?

坂田
これに違和感を抱かねぇのは、お前らがそれなりに歳行ってるからだよ。

縁
あ、そうか……一般的にビデオテープが普及していた頃に生まれた人間は【巻き戻し】のほうがしっくり来ます。

坂田
そう、そもそも【早戻し】って言葉自体が、そこまで古い言葉じゃねぇ。

坂田
昔はビデオテープを文字通り巻き戻すから【巻き戻し】って言葉が普及した。

坂田
だが、今や映像媒体はテープじゃねぇ。

坂田
だから【早戻し】って言葉ができた。

坂田
そして、犯人は【早戻し】という言葉を使っている。

坂田
この情報たったひとつで、犯人はそれなりに若いことが分かる。

坂田
さて、これで犯人像はそれなりに絞れてきたな。

坂田
次は……犯行現場同士の距離から、犯人の行動範囲を推測する。

前から何度か見ているが、この状態に入った坂田は、まさしく鬼に金棒。
なぜ、この男が猟奇殺人などを犯したのか不思議になる。
もし、その能力を正しい方向に使えたら、きっと優秀な人材になっていただろう。
坂田
一人目の犠牲者は、最寄駅から半径で2キロメートル離れた空き地で殺された。

坂田
こいつは学校帰りに殺られたらしく、午後五時過ぎに学校を出た姿が目撃されている。

坂田
遺体が発見されたのが午後八時だから、犯行時間は午後五時から午後八時までの間だ。

坂田
二人目は、その駅からふたつ離れた駅から、半径1キロ以内の裏路地。

坂田
この犠牲者は事件当日、学校を午前中で早退。

坂田
友人と学校をサボって遊び、午後四時に友人と別れた。

坂田
遺体が発見されたのが午後七時半。

坂田
こいつも帰宅途中に殺されてる。

坂田
三人目の犠牲者は、またひとつ先に駅の半径500メートル圏内の旧道。

坂田
その日は休日だったが、犠牲者は午後一時にウォーキングに出掛け、遺体は午後六時に発見された。

坂田
ちなみに、この犠牲者は休日の午後はウォーキングに出るルーティンがあったらしい。

坂田
四人目はさらに先の駅から、半径300メートル圏内で遺体が発見されている。この駅は無人駅で、周囲には田畑しかねぇような場所だ。事件当日、犠牲者の通う学校は創立記念日で、友人と遊びに行くと言って出たきり戻らなかった。最後に姿が目撃されたのは昼前、遺体が発見されたのが午後二時。友人のところには行っておらず、駅のそばにある雑木林の中で発見された。

倉科
そして五人目は、さらに二駅先の駅から半径1キロ圏内の河川敷で発見された。駅の防犯カメラで姿が確認できてる。死亡推定時刻も、他の犠牲者と同じく夕方から夜にかけて。この辺りはまだ正確な数字が出ていない。

坂田
さぁ、お前はここから何を推理する?

縁
まず、すべての犯行が駅から2キロメートル圏内で起きている。

縁
それぞれ、最寄りの駅は異なっていますが、必ずと言っていいほど駅からそう遠くはないところで遺体が発見されています。

坂田
つまり、事件は電車の沿線上で起きている。しかも、現場は駅から徒歩で向かえる距離だ。

縁
えぇ、だから犯人の主たる移動手段は電車である可能性が高い。

尾崎
なるほど、だから犯人は車の免許を持っていないって考えたわけっすね?

縁
はい。それに、犯行時刻も比較的早い時間に集中しています。

縁
これも、犯人の移動手段が電車だと考えると納得できる。

倉科
ほぅ、終電か。

倉科
犯人は少なくとも終電に間に合うように犯行を終えねばならない。だから、犯行時刻も比較的早い時間になる。

縁
はい、このことから、犯人の生活スタイルもある程度割り出せます。

縁
犯人は朝には家を出て、少なくとも終電までには家に帰らねばならない生活を送っている。

縁
その日のうちに帰らないと、家族に怪しまれてしまうような立場だからです。

尾崎
犯人が学生で、家族と同居しているとなれば、簡単に外泊はできねぇっす。

縁
そういうことです。

縁
さらに言うのであれば、犯人はある程度の土地勘があり、しかも入念に下調べもしている。

縁
これまで、防犯カメラに怪しげな人物が映っていないことから、そう考えられます。

坂田
さて、そこまで分かっているなら、どこから重点的に調べるべきだ?

縁
最初の犠牲者が出た駅の近く、もしくは五人目の犠牲者が出た駅の近くです。

坂田
それはなぜだ?

縁
それ以外の犯行現場は、比較的駅から近い場所で遺体が見つかっています。

縁
第四の犠牲者なんて、駅から半径300メートル圏内です。

縁
これが何を示しているのか――。

坂田
犯人はその駅の近くの土地勘がないからだ。

坂田
逆に、駅から離れたところで行われた犯行は、犯人に土地勘があったからだと考えられる。

坂田
よって、犯人の居住範囲は、最初の犠牲者が出た地域か、五人目の犠牲者が出た地域のどちらかになる。

縁
犯罪心理学上、人間がいざ犯罪に手を染めようとする際は、土地勘のない場所より土地勘のある場所を選びます。

縁
よって、おそらくは最初の犠牲者が出た地域が犯人の居住範囲になります。

坂田
じゃあ、五人目の犠牲者は?

坂田
どうして駅から2キロも離れたところで殺された?

縁
それはきっと、この駅の周辺もまた、犯人にとっては土地勘のある場所だから。

縁
まだ、推測の域は出ませんが、そこは犯人の職場、または通っている学校があるのだと思います。

坂田
なら、やるべきことは分かるな?

坂田
最初の事件と5番目の事件を洗い直せ。まだお前らが掴んでいない何かがあるはずだ。

坂田
まぁ、分かってれば勝手に動くか。

坂田
これだから警察の馬鹿はあてにできねぇな。

坂田
とりあえず俺は寝る。また進展があったら来い。

坂田
あ、それとプリン、忘れんなよ?

坂田
クリームはカスタードとチョコだ。

坂田
いいな?

坂田はそう言うと、目を閉じて眠ってしまったのであった。