アカリ
ハカセ、ちょっと待って。
アカリ
今、回答権が残っているのは、ナンバーズと私達なんでしょ?
アカリ
で、残りは4セットと5セットだけ。
アカリ
これって、どちらかが交代で謝れば、絶対に恩赦が受けられるじゃん。
マドカ
考えてみればそうね。
マドカ
確かに恩赦が出る可能性は出てきたかもしれないけど、うまいことすれば私達が負けることはないじゃない。
ハカセ
あぁ、確かにマドカ達の言う通りだよ。
ハカセ
でも、忘れないほうがいい。
ハカセ
あくまでも、主導権はあちらが握っていること。
ハカセ
そして、僕達に有利なルールが与えられていたのは、ナンバーズ達の本音を引き出すためだった――ということを。
ゴミ
ハカセってさ、変なところで勘が鋭いよね。
ゴミ
私が考えていることはお見通しってことかな?
ゴミ
ルールをちょっと変更するね。
ゴミ
5セット目までに私が恩赦を出さないと、私の負けになるってルールあったでしょう?
ゴミ
あのルールを変えたいの。
ゴミ
5セット目が終わった時点で、恩赦が出なかった時は私の負けでもいい。
ゴミ
ただ、それはそっちに回答権が残っていた時――ってことにしようよ。
ゴミ
5セット目を迎えた時点で、私が恩赦を出していなくても、そちらが回答権を使い切っていた場合は私の勝ちってことでどう?
ゴミ
ここまで散々不利なルールでやってきたんだから、これくらいはいいよね?
ゴミ
まぁ、駄目って言われても変更するけど。
ハカセが懸念していたのはルールの変更だったようだ。
主導権を握っているのはゴミのほうなのだから、このような展開も充分に有り得るということか。
セイヤ
5セット目が終わった時点で、こちらが回答権を使い切っていたら負け……。
セイヤ
これってもしかして……。
ハカセ
ゴミは恩赦を出さずとも勝てるようになるってことさ。
ハカセ
もちろん、こちらが回答権を残して5セット目を迎えればいいだけの話なんだけど、これまでと事情がかなり異なってくる。
カシン
簡単に言ってしまえば、僕達とナンバーズでの総当たりはできなくなりましたねぇ。
カシン
あちらが恩赦を出すと考えて、4セット目と5セット目で謝ったところで、恩赦が出ないかもしれない。
ヨウタ
その状態で5セット目が終わった場合は、俺達の負けになるってことか。
ハカセ
……そもそも、このゲームにはあるメッセージが含まれていたんだと思う。
ハカセ
1セット目から5セット目まで理論的に恩赦が出せない状況。
ハカセ
これは恩赦を出せないんじゃなくて、恩赦を出さないと解釈できないかい?
ハカセ
ようするに【絶対に許さない】――そんなメッセージが含まれていたんじゃないだろうか?
セイヤ
そして、今のルール変更で、そのメッセージが貫かれる可能性が出てきてしまった。
セイヤ
もちろん、誰かがゲームの破綻……ゴミが恩赦を出せないことを指摘せず、5セット目までを迎えれば、こんなことにはならなかったはず。
セイヤ
でも、ゴミの思惑通り、ナンバーズが指摘してしまった。
セイヤ
今まで格下として扱っていた人間からの謀反に、過剰なまでに反応するみたいにね。
ゴミ
さすがセイヤ!
賢いねぇ。
ゴミ
みんな、分かってる?
ゴミ
こんなことになったのは、全部あいつらのせいなんだ!
ゴミ
レイのやつは、いじめの主犯格みたいな感じだったから、真っ先に殺してやった。
ゴミ
ミナミはレイの言いなりだったから、さりげなく死ぬように仕向けてやった。
ゴミ
ここまで言ったら分かる?
ゴミ
イチカ、ニコ、シキにはまだ、私は良心が残ってるんじゃないかって思ってた。
ゴミ
もしかしたら、レイが怖くて、仕方がなく従っているのかもしれないと思っていた。
ゴミ
レイ達がいなくなったら、もしかして前みたいに戻れるんじゃないかと思った。
ゴミ
でも、違ったね。
ゴミ
人間は一度見下した人間を、改めて認め直したりしない。
ゴミ
一度格下だと認定した人間とはつるまないんだ。
ゴミ
もしつるんだら、自分の格まで落ちてしまうから。
ゴミ
こんな小さい学校って世界で!
ゴミ
世の中、上には上がいるのに!
ゴミ
さも自分達こそが社会の上級民だと勘違いして!
ゴミ
ヒエラルキーを作る。
ゴミ
世の中に出ても、ひとつも役には立たねぇんだよ!
ゴミ
学校内のヒエラルキーで上位にいたところで、その先の人生には、ひとつも役には立たねぇんだよ!
ゴミ
でも、お前達は和解の道を自ら断ち切った。
イチカ
…………。
ニコ
…………。
シキ
…………。
ゴミ
なんか言ってみろよ。
ゴミ
1人じゃなにもできねぇ凡人どもが!
ゴミ
学校っていう狭い世界でしか偉そうにできない市民Aが、調子に乗ってんじゃねぇよ!
ゴミ
残念だけど、世の中の主人公はあんた達じゃない。
ゴミ
あんた達も外に出れば単なる凡人なんだよ!
ゴミ
それなのに、ヒエラルキーにしがみつくとか、マジでダサいんだけど!
ハカセ
……ゴミ、君の言いたいことは分かった。でも、君のやったことは理解できない。
ヨウタ
でも、確かにゴミの言う通りでもあるんだよな。
ヨウタはそう言うと、ゴミのほうに向かって頭を下げた。
ヨウタ
すまん。
俺、お前がいじめられてるの知っていながら、見て見ぬふりをしてた。
マドカ
そんなこと言ったら、みんなが頭を下げなきゃいけなくなるじゃない。
アカリ
でも、私も自分の立場が危うくなったり、レイ達にいじめられたらどうしようって考えて、やっぱり見ないふりしてた。
ツヨシ
俺も――遠巻きに見てるだけだったなぁ。
カシン
ナンバーズは妙な権力を持っていましたからねぇ。触らぬ神になんとやら……ですよ。
カナ
自分が標的になるのが嫌だったから。
シズカ
私も、自分が同じ目に遭いそうで……。
セイヤ
俺も……自分のことばっかりだった。
セイヤ
自分が楽しく学校生活を送れればいいや――って思ってたんだと思う。
ヒメ
みんながこうしてゴミの話を聞いてあげることができたら、なにか違っていたのかな?
ハカセ
どうだろう。
でも、僕達は自分達がやれることを、知らないうちに放棄していたんだ。
ハカセ
だから、こうなってしまったことに責任はあると思うんだ。
ハカセ
すまなかった。
ヨウタを筆頭として、次々とゴミに向かって頭を下げる。
唯一、今さらになってそれができないであろうナンバーズ達は、ただただ戸惑っていた。
ゴミ
……遅いよ。
ゴミ
今さらになって、そんなことを言われたって遅いよ!
ゴミ
私、たくさん殺しちゃったじゃんか!
ゴミ
もう後には退けないんだよ!
そう言うと、なぜか目元を袖で拭ったゴミ。改めてセイヤ達に向き合うと言った。
ゴミ
決着――つけようよ。
ゴミ
私とみんな、どっちが正しかったのか、決着をつけようよ!
そこでひと呼吸を置くと、ゴミは例のフレーズを口ずさむのだった。
ゴミ
おーんーしゃーたーまーわーるーはー。
ゴミ
だーあぁーれ?