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木崎姫歌(きさき ひめうた)
相羽吾蓮(あいば あれん)
男――吾蓮は免罪符(生徒手帳)を振り回しながら叫んだ。
相羽吾蓮(あいば あれん)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
もっともな意見だった。弟をストーキングする兄など、聞いたこともない。いたらただの変態だ。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
相羽吾蓮(あいば あれん)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
わたしの独り言に過剰な反応を示す吾蓮。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
相羽吾蓮(あいば あれん)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
吾蓮は長身を目一杯利用し、上段からわたしを威嚇してきた。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
しかしこうやって近くで見ると、本当に背が高い。
わたしより頭一つ分程高いので、180㎝は軽く超えているだろう。その上、体は細身――いわゆるモデル体型で、女子にモテそうな背格好だ。
相羽吾蓮(あいば あれん)
肩幅も狭い。女装とかさせたら似合うんじゃなかろうか?
いや、ダメだな。細い割に、肩や腕にはしっかりと筋肉がついている。
尊君の兄ということだし、野球でもやっているのではなかろうか。
と、その時だった。
相羽吾蓮(あいば あれん)
苛立った吾蓮の声が、わたしの耳に届いた。返答を待っている。
それを理解した瞬間、わたしは自分でも驚くほど滑らかに、口を動かしていた。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
相羽吾蓮(あいば あれん)
次いで、一言。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
相羽吾蓮(あいば あれん)
吾蓮の顔に、驚きの色が宿る。しかし、それも数秒。吾蓮の見開いた目は、次第に細く、鋭くなっていった。
相羽吾蓮(あいば あれん)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
相羽吾蓮(あいば あれん)
再び見開かれる吾蓮の目。
明らかに、動揺が走っている。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
これにはわたしも驚いた。更なる怒声を予想していた為、用意していた次の句が紡げない。
しかしこれはチャンスでもあった。
わたしは急いで、次に紡ぐべき台詞を模索した。
選択肢1.一緒にタマを転がそうぜ!
選択肢2.貴様の情熱を、あの穴にブチ込んで見せろ!
……。
ダメだ。どちらを選んでも、好感度がダダ下がる予感しかしない。
バスケットボール、何と卑猥なスポーツなのだろう。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
結局、搦め手を使うことにした。急がば回れである。
まあ、何か部活をやっていたとしても、兼部させる気満々なのだが。
要は五人揃えればいいのだ。真面目に部活をやる気は露ほどもない。
相羽吾蓮(あいば あれん)
しかし、いくら待てど吾蓮から返事はなかった。
俯き、目を伏せ、形の良い唇を引き結んで開かない。
わたしはそれを、「今はどの部にも所属していないが訳あり」と受け取った。
きっと、その「訳あり」の内容を聞き出し、解決すれば、相羽吾蓮ルート攻略なのだろうが、わたしには興味がなかった。
欲しいのは部員・相羽吾蓮であって、恋人・相羽吾蓮ではない。
わたしは一切の気遣いを用いることなく、吾蓮に口説き文句を見舞った。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
当然そんな高尚な目標など持ち合わせていない。
だが様式美は必要だろう。見た感じ、吾蓮は熱いのに弱そうだし。
脳内であざとい計算をしながら吾蓮の出方を待つ。すると、吾蓮は数秒で答えを出した。
相羽吾蓮(あいば あれん)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
何故か、辛そうな顔で言われた。
しかしそれも一瞬。吾蓮はすぐに表情を改めると、
相羽吾蓮(あいば あれん)
ビッ。
そんな擬音が聞こえたかと思うほど、綺麗に中指を立てた。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
相羽吾蓮(あいば あれん)
そう言うと、吾蓮は踵を返した。
その時見えた背は丸まっており、悲しみと諦観とに染まっているかのようだった。
その背を見届け、わたしは思った。
通報されなかった。ラッキー。