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「空想上の生き物を、そこで使ってきますか…!」と、何とも言えない気持ちが込み上げてきました 井之上さんの発想に感銘を受けつつも、やっぱりどこか悲しいような… 軽くてふわふわしているようで、読後は重く心に響く作品でした…!
模範解答と本心の齟齬、そして受け入れられない場合の逃げ道を用意してあげる女の子の気遣い、心にチクチクと刺さってくる様な作品でした!
ひとつひとつの言葉が綺麗で美しくて、 もう最高でした🤦♀️
こちらはTwitterで行われた
木野花音さん主催の企画
リプライで送られたキーワードで
作品を書いてみよう的な
なんかそういうあれです!
キーワードは
制服
砂浜
海風に揺れるスカート
ロングヘアー
同性の友人
空想上の生き物
雨
以上となっております
お楽しみいただければ嬉しいです!
制服姿の彼女を密やかに想い続け
遠目で見るばかりだった僕が突如
彼女との距離を縮めたのは、つい3か月前のことだ
同じ委員会に所属しているだけの他人、だったはずが
偶然自分の作業が早く終わったこと
偶然彼女の作業が遅れていたことで
先生から手伝いを指示され
願ってもなく、思いがけず
親しく話せる間柄になれた
胸を高鳴らせて当然の状況だ
きっと僕でなくても、この状況に置かれれば同じようになるはずだ
気に入りの服を用意し、母さんのシャンプーで頭を洗い
万が一、億が一を期待して念入りに歯を磨く
あとは寝不足にならないよう気を付けるだけだ
鼓動のせいで息苦しい呼吸をなんとか静めて、目を閉じる
ただ、朝が楽しみだった
待ち合わせた駅から電車に乗って、1時間
僕らは冬風の吹き抜ける砂浜に立っていた
見える範囲に、風をしのげるような店もない
閉まったままの海の家があるだけだ
だけど彼女がこう言うからには、なにか理由があるのだろう
砂まみれの石段を軽く手で払い、座り込む
尻から伝わる冷たさに身震いしたが
それより彼女が、思い詰めた表情をしているのが気になった
この時点で僕は、期待したような展開とは違うらしいと気づいてしまった
あぁ、話したいことっていうのはこれだったのか
間違いなく、僕は悔しさにテンションを落とした
いわゆる、残酷なタイプの失恋だ
彼女は僕を友人としてしか見ていないし
なんなら、恋の相談や告白の協力を頼まれたり
アドバイスなんかも求められるのかもしれない
ただこれは僕が思う限り
一番やるせない失恋のパターンだった
思い当たる人がいる
髪をとても短くした女の子だ
活発で、ハキハキとしているからなんとなく目立つ存在で
まるで男子のような、彼女の友人
思わず言葉を失った僕に、彼女は困った顔で笑った
僕はなにも言えなかった
セクシャルマイノリティの存在は知ってる
道徳の授業でも何度も見たし、彼らを差別すべきではないと
模範解答を重ねた記憶もある
だけど僕は頭のどこかで、それを自分に関係ない話だと
空想上の生き物のようなものだと、思い込んでいた
だからこそこんなことを思うのだ
僕はそんな訳のわからないやつに負けたのか、と
そして同時に
そんなことを考えてしまった残酷さに、頭を殴られた気分だった
息も絶え絶えな思考に反して、勝手に口が開く
違う、これは一種の防衛本能の発露だ
彼女に、この動揺を知られてはいけない
この残酷さを気取られてはいけない
彼女の隣に、少しでも居場所を求めるなら
そんな僕の気持ちを知らず、彼女ははにかんで笑う
ひときわ大きな、波の音がした
あぁ、なるほどそういうことか
彼女は最初から、僕に逃げ道を与えてくれていたんだ
マイノリティに絡んだ恋愛を蔑む人間が多いのも承知の上で
話を受け入れて友人を続けるのも
話を聞かなかったことにして友人を続けるのも
そして
話を聞いて、友人をやめるのも
この波と風の中に、すべて用意されていた
止める間もなく、彼女は波打ち際に走っていった
寒くないわけがないのに、寄せてくる波と追いかけっこし
波に追い付かれては、はしゃいだ声をあげる
スカートと彼女の長い髪が海風に揺れて
僕は彼女の用意してくれたどの選択肢を選ぶべきかも決められず
ただなぜか、頬に雨を感じていた