ビンタしてやった。
彼氏があまりにもクズだったから。
初めて出来た彼氏。 バンドマンを目指して頑張ってるんだって。
夜な夜なクラブでウェイウェイするのも勉強の内なんだって。 __こんな言葉本気で信じてた自分が凄い。
いい歳して定職に就かず、私の家に住みついて時々 私からお金を借りる彼氏。 __いやもう本当気づけよ。昔の私。
やたら私の帰って来る時間とか知りたがるなー……とか思ってたら、、 ええ、はいご想像通り
ある日の仕事帰り。 いたんですね。知らない女が。
ベッドの中に。 居候の分際で!彼女の家で!白昼堂々……信じられる!?
そして床に散乱していた高級ブランドのバッグや化粧品。女に買い与えてたんだね。
無職なのにどこからお金が…………私だね。私から いっぱい借りてたね。
とりあえず女にはお帰り頂いて、彼氏を問い詰めた。
「これは単なる悪フザケと言うか……アソビだ。アソビ!」 「俺が本当に愛してるのはお前だけだ!」 「あの女とは別れる!だからさ、」
「あと1万円貸してくんね?なんか服が欲しいらしくてさ」
はい。ビンタ。 さようなら。 すると私の腕を彼氏が掴んだ!
「ま、待ってくれ由依」
「せめてあと5000円!ねっ、お願い」
逆の頬にもビンタしてやった。
怒りの制裁から はや2年。
もともと地味で冴えない私。特別なイベントが起きる確率なんて余裕で小数点。
__私の仕事場は都内の猫カフェ。 人より猫に接する時間が長い。
いいもん。猫かわいいし。 幸せです。幸せ幸せ。
しかし、、
「てらぁ のおかげで告白出来ました!てらぁ は恋愛の神様です💕💕」 リプ数:203件 リツイート数:2,501件 いいね数:1.2万件
「てらぁ」とは私の職場にいる猫のこと。黒猫。
肉球がハートの形に見える、と一部で人気だったんだけど あるお客様のツイートが話題を呼び
全国からお客様が殺到するようになった。 「猫の手を借りて恋しよう!」なんてキャッチフレーズまで出来る始末。
もう私の目の前で何組もカップルが成立しちゃって…… 営業終了後にフラッシュモブまで手伝わされたこともある。
いや全然羨ましくないんだけど。本当本当。 人生満喫です私。
らぶらぶカップルのお客様が増えたから何だって話。へっ………………
……………いいなぁ。
そんな私の前に、今日も男女2名様が来た。
北村 由依
男女2名…… 女性は大学生くらいに見えるけど…
男………の子はどう見ても中学生くらい。同い年には見えない。
姉弟にしては似てないな……。 気になるけどお客様の素性を詮索するのは私の仕事じゃない。
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
………… あーはいはい。察しました。
この2人クロですね。姉弟とかじゃないですね。
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
席に着いたお二人はドリンクを注文すると一覧表を眺め始めた。
…………すごく仲がよろしいんですね。あの2人…。
白い猫が気持ち良さそうに瞼を閉じている。
男の子の細い指が白猫の喉や背中を優しく撫でる。
あの中学生くらいの男の子、たぶんモテる(猫に)。
男の子の膝の上で撫でて貰ってる白猫が恍惚の表情を浮かべている………気がする。
店内のメス猫が チラチラと男の子に視線を送り さりげなく順番待ちをしている………気がする。
上手に猫を撫でている男の子も何だか楽しそうだ。
あ、今 男の子の膝の上にいる猫は「のぞみ」です。 メスだから のぞみちゃんです。
あと隣の大学生くらいの女性がめっちゃ照れてる。
……………… ……………… ………………
堀内
北村 由依
堀内
堀内
北村 由依
北村 由依
堀内
どうもなってない。 全っっっっ然羨ましくない。
しかし てらぁ は呼び寄せる。
らぶらぶドキドキな男女2名ばっかり招き寄せる。
てらぁ が話題になってから、時々こう言うらぶらぶレベルMAXのお客様が来る。
彼らレベルになると視界に入っているのはお互いの顔だけらしい。 今も私がマニュアルに沿って説明してるんだけど聞いちゃいない。
今私が注意事項説明してるでしょ! 聞いて!!
__って言う内心の苛立ちがちょっとだけ表情に出たらしい。 女の人がカレシさんの肩を叩いた。
イラッ
、としたのは私だけ?
実際、彼らの やりたい放題ぶりは凄かった。
そもそも私の説明を聞いていないんだから、イエローカード出しまくり。
アルコール消毒をしない、市販のビスケットを与えようとする、、etc
その度に私が やんわりと注意しに行く。 __仕事終わったら絶対カラオケ行こう。
あと、 あと………
イチャイチャしすぎなんだよ!!
堀内
お昼前。 私がスタッフルームで早めの昼食を食べていると、代わりに店に出ていた堀内君が顔を出した。
北村 由依
堀内
堀内
堀内
堀内
北村 由依
堀内
そして店に出てみると凄いことになってた。
筆舌に尽くし難い。 カノジョさんが、ギャン泣きしていた。まる。
堀内
北村 由依
堀内
堀内
北村 由依
私は営業スマイルを貼り付かせて、わんわんギャンギャン泣いているカノジョさんに近いた。
北村 由依
私の問いに答えずカノジョさんは泣き続けたが、5分もすると泣き疲れたのか嗚咽は無くなった。
カノジョさんが鼻をすすったタイミングでポケットティッシュを差し出すと、ようやくポツリポツリと話し出した。
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
カノジョさんはティッシュを鼻に当てたまま黙っていたが、やがてティッシュを持っている手を下ろした。
店内にいる全員の視線がカノジョさんに集まった。
私の営業スマイルも消えた。 それでも目だけは逸らさなかった。
北村 由依
カノジョさんが驚いたように目を見開いた。 猫カフェで働いている人のセリフとは思えないのだろう。
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
北村 由依
カノジョさんの前に、てらぁが ちょこんと座った。
涙に濡れた目でカノジョさんはしばらく てらぁを見つめていた。
カノジョさんの目から新しい涙が零れ、頷いた。 何度も、何度も頷いた。
北村 由依
目は腫れていたけど、しっかりとした足取りで店を出て行ったカノジョさんを見送ると、店内から拍手が湧き起こった。
感情的…… 取り返しのつかない……
……………昔のことを思い出した。
大学生くらいの女性と中学生くらいの男の子の帰りを見送って、ようやく長い仕事が終わった。
女性は「私メスの猫にあまり好かれてない気がする…」と首を捻っていたけど、何も言わないことにした。
堀内
堀内
北村 由依
堀内
北村 由依
堀内
堀内
堀内
北村 由依
堀内
堀内
ひとしきり騒いだ後、堀内君は私の手を掴んで歩き出した。
北村 由依
堀内君は私の手を掴んで先導したまま、先ほどと比べると随分小さな声で呟いた。
堀内
………… 堀内君も猫の手を借りたのかな
いやいや まさか
………まさかね
コメント
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柚月くんのお母様、すっかりラスボスが定着しておられる...w のぞみさんと柚月くんの会話が幸せなものになっていて...もう...... ラスボスが去った!というか...... 北村さんと堀内くんの恋の続きも知りたいです✨
(´つヮ⊂)ウォォォォォォォ