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麻沢 奏さんの いつかのラブレターをきみにもう一度 という作品を元にして書いています
桃青です
地雷さん注意. 本人様とは一切関係ありません.
それではどうぞ
【桃井くん、教室でふたりだけになったときのことを覚えていますか ? あの日に話したこと、あの日交換した本、どちらも僕の宝物です。 僕はあのときから、桃井くんのことが好きです】
中学三年のとき、"書くだけラブレター" が女子の間で流行っていた。
よく一緒にいたグループ内では、それぞれ好きな男子を公表していたから、
あたかも本当に告白するように恋文を書いては回して読み、恋心を共有して疑似的な恋愛を楽しんでいた。
けれど本当は苦手だった。
ときめく少女漫画や小説、アイドルの動画のように簡単に盛り上がれる娯楽の題材として、自分の恋心など教えたくなかった。
でも、あの狭い教室のなかでは、輪を乱さないことがなによりも大事だったから、友達に嫌われたくなくて仕方なく書いて見せたんだ。
『うわっ、オウジ !これ、ラブレターじゃん !』
『誰だよ ?こんな古風なことすんの。 すげーな、オウジ』
もちろん"書くだけ"で、本人に出さないことが大前提の遊びのはずだったのだけれど。
一番会いたくなかった人
「はい、次は…青猿さん。三十五ページの四行目から訳して読んでください」
古文の先生が、僕を指名する。
ゆっくりと椅子を引いて立ち上がった僕は、生唾を飲んでから小さく咳をした。
青猿 青
予習してきたから、訳は分かっている。
あとはそれを読めばいいだけなのに、僕の顔には熱が集中してきて、嫌な汗まで滲み出す。
ずれていないのに何度も眼鏡の位置を整え、ようやく小さな声を発する僕。
教科書をひたすら眺めている生徒、腕で顔を隠して寝ている生徒、ノートに落書きしている生徒、みんな僕なんか見ていない。
けれど、声を聞かれていると感じただけで、唇が震えて何度も言い間違えてしまった。
「えー…と、はい、次の人は…」
自分の番が終わり、僕は心臓の鼓動に支配された体を椅子に沈める。
周りに聞こえないようにため息をつくと、どこかから、「めっちゃ顔赤いし」 と、女子のくすくすと笑う声が聞こえてきた。
青猿 青
別に、いじめられている訳ではない。 高校に入ってから一年半、目立たないように当たり障りなく過ごしてきた。
ただ、緊張しいであがり症、人前で話すことや自ら人に話しかけることが苦手なだけで、それ以外はとくに問題はないはずなんだ。
紫衣 紫
何故か髪を染めており、シャツのボタンを一番上まできっちりと留め、毅然とし た態度でそう言うのは、高校に入ってからできた友達の紫ーくん。
二年に上がってもクラスは一緒だったから、このお昼の休憩時間はいつも彼とふたり、教室でお弁当を食べている。
青猿 青
紫衣 紫
身長が僕よりも十センチも高く大人びて見える紫ーくんは、生徒副会長でもあり、人前での発言も堂々たるもの。
友達でありながら、僕とは真逆の性格だ。
一年のとき、ひとりでいた僕に一緒にお弁当を食べようと誘ってくれた。
それがなければ、きっと関わることはなかっただろう。
なかなか心が開けなくて他人行儀だった僕に、紫ーくんは毎日のように話しかけてくれた。
そのおかげもあって、今では学校で唯一、気後れせずに話ができる存在だ。
青猿 青
紫衣 紫
紫衣 紫
紫ーくんはいつも正論を言う。まっすぐで嘘をつかない。
そんな彼氏に、僕はよく叱られている。
青猿 青
紫衣 紫
橙色 橙
そのとき、紫ーくんの言葉に声をかぶせてきたのは橙色くん。
少し長めの前髪をヘアピンで留めていて、それが可愛いなんて言われて、いつも女子からもてはやされている。
紫衣 紫
橙色 橙
そう言われた紫ーくんは、思いきり眉間にしわを寄せる。
紫衣 紫
橙色 橙
紫衣 紫
橙色 橙
ポンポンと続くふたりの会話に入っていけなくて、僕はバッグからこっそりとポーチを出した。
そして、紫ーくんの制服の袖を橙色くんに見えないように引っ張る。
青猿 青
小声で言うと、「え ?」と言った紫ーくんが、
紫衣 紫
と、呆れた表情を見せながら会話を僕から橙色くんへとパスした。
橙色 橙
急に近寄られたものだから、僕の顔は瞬時に赤くなる。
青猿 青
橙色くんは、クラスの…というか学年の人気者だ。
アイドルのように顔が整っているので、 "橙"というよりも"王子様"と言ったほうがしっかりくる。
そんな人と喋るなんて、僕にとっては とてつもなくハードルが高くて緊張してしまう。
ただでさえ人と喋るのは苦手なのに。
橙色 橙
青猿 青
橙色 橙
そう言って握手を求められ、僕の心拍はいっそう速まった。
すかさず紫ーくんが、
紫衣 紫
紫衣 紫
と間に入ってくれる。
僕は、そこまで言わなくても、と思ってふたりの顔を見ながらあたふたしてしまう。
けれど、橙色くんは紫ーくんの言葉を気にする素振りも見せずに、
橙色 橙
と、笑顔でそう言った。 そして、
橙色 橙
と、他の男子のところへ移動する。
橙色くんがポケットから取り出したそれは、最近流行っている黄色いお守りストラップだった。
全部で六色発売されていて、僕も色違いをひとつ持っている。
紫衣 紫
青猿 青
でも、誰にでも分け隔てなく話しかけているし、いい人だと思う。
その場にいるだけで周りが明るくなるっていうのは本当に人から好かれている証拠だし、持って生まれた才能のようにも思えて、純粋に憧れてしまう。
紫衣 紫
紫衣 紫
青猿 青
青猿 青
紫衣 紫
青猿 青
その場をしのぐように笑って誤魔化しながら言うと、紫ーくんは、
紫衣 紫
と、僕の眉間を人差し指で押した。
紫衣 紫
青猿 青
お弁当のアスパラベーコンを口に運びながら返事をする。
十二月に入った今月から、週末だけバイトをすることになっていた。
買いたい本がたくさんあるというのが主な理由だけど、僕は部活に入ってないし友達も紫ーくんしかいないから、することがなくて時間が余っているということもあった。
紫衣 紫
青猿 青
そう僕が言うと、パックジュースを絞るようにして飲み切った紫ーくんが、
紫衣 紫
とじとりとした視線を向けてくる。
青猿 青
当たり前だ。人前に出るようなバイトなんて、消去法で真っ先に候補から外していった。
紫衣 紫
窓の外では中庭にある銀杏の葉が黄色く色付き、それをつむじ風がハラハラと舞わせながら落としている。
僕は、去年も同じような光景を見たな、とぼんやり思いながら、
青猿 青
と、口先だけでそう言った。
誤字 脱字ありましたらすいません。
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