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るなはまだ名を名乗っていなかった。
それでも京極屋ではいつの間にか話題に上がる存在になっていた。
白い肌に整った顔立ち。
それだけじゃなく琴も三味線も音が澄んでいる。
一度聞いた旋律をまるで昔から知っていたかのように弾く。
「覚えるのが早い」
そんな言葉では足りないと誰かが言った。
それに最近は――表情が変わった。
最初の頃の控えめで遠慮がちな空気は薄れ
客と目が合えばにこっと笑うようになった。
月
月
そんな言葉も気負わず口にできるようになっていた。
それがまた人の心を掴んでしまう。
名前は知らない。けれどあの子に会いたい。
そんな声が少しずつ確実に増えていった。
その分――周囲の空気も変わる。
すれ違う時の視線。
聞こえないふりをしても耳に入ってくる噂話。
あからさまな嫉妬も隠そうとしない態度も。
るなは気づいていたが前ほど心は揺れなかった。
怖さよりも自分が進んでいる実感の方がずっと大きかったから。
そしてある日。
女将
月
女将
月
女将
女将さんはそう静かに告げた。
続けて言った。
女将
女将
月
女将
女将
るなは察しがいいからずっと前から気づいていた。
女将さんと花魁が新造にしようかとても迷っていたことを。
月
月
女将さんは目を見開いた後クスッと笑った。
女将
女将
新造になると伝えた時周囲はざわついた。
その代わり花魁は驚くほど甘かった。
るなの肩に手を置き離れない。
視線だけで周りを黙らせる。
堕姫
堕姫
低くはっきりとした声。誰も逆らえない。
守られている――そう感じるほどはっきりと。
この先きっと今よりも酷くなる。
噂は大きくなり嫉妬は深くなる。
けれどそのぶんるなの名は広がっていく。
怖さが消えたわけじゃない。
それでももう後ろは見ない。
前に進む覚悟はちゃんと胸の奥にあった。