ユキノ
ねぇ、聞いて!

ユキノはわざとらしくミノリカワから離れると、上目遣いでシンタを見上げる。
ユキノ
私は嫌だったの……。嫌だったけど、あの人は私の上司で、だから逆らえなくて。

ミノリカワ
な、何を言い出すんだ?

ユキノ
(不倫の事実があったとしても、それが不同意だったことにしてしまえば、こっちが急に弱者になる)

ユキノ
(女って本当便利な生き物よね)

シンタ
それは……関係を強要されたってこと?

ユキノ
そうよ!

ユキノ
私はこの人に無理矢理!

さすがに面白くなかったのか、ミノリカワが土下座の大勢のまま、やや顔を上げる。
ミノリカワ
おい、でたらめを……。

ユキノ
触らないで!

ユキノ
課長……これまでずっと言えなかったですけど、あなたのやってきたことはセクハラの程度を超えたセクハラですよ。

ユキノ
このこと、会社の人事に言いつけてもいいんですよ?

ミノリカワ
お、お前ってやつは……。

ユキノ
シンタに土下座をした――ってことは、課長は自分が何をしてしまったのか分かっているってことですよね?

ユキノ
不同意の不貞行為を認める……ということですよね?

ミノリカワ
ぐ……。

シンタ
あの、司会の人――。

ユエ
MCでございます。

ユエ
なお、ユエとお呼びいただけると幸いです。

シンタ
ではユエさん。

シンタ
この2人のうち、どちらかを赦すということはできるの?

ユエ
残念ですが、それはできかねます。

ユエ
赦すのであれば、2人揃って赦す。

ユエ
赦さないのであれば、2人とも赦さない――という形をとらせていただいております。

ユキノ
ってことは、シンタとやり直すのであれば、シンタは私と課長を赦さないといけないってこと?

ユエ
左様でございます。

ユエ
シンタさん、いかがなされますか?

ユエ
あなたが赦しさえすれば、和解が成立いたします。

ユキノ
(まぁ、やり直すって言っても、また男はつまみ食いするだろうけどね)

ユキノ
(こんな冴えない男に、私の人生を奪われてたまるか)

シンタ
なぁ、あんたがユキノに関係を強要したのか?

ミノリカワの頭を踏みつけると、語気を荒げるシンタ。
シンタ
答えろよ!

ミノリカワ
……先に誘って来たのは、ユキノさんのほうだ。

ミノリカワ
彼女、君との生活にかなり不満があったみたいだよ。

ミノリカワ
夜の生活にも不満があったとか?

頭を踏みつけられながらも、ユキノのほうに顔を向け、小さく口角を上げるミノリカワ。
ユキノ
(こいつ、もう逃げられないとなった途端、ひらき直りやがった)

ユキノ
(そんなことを言ったら、シンタが私達を絶対に赦すわけがないじゃない!)

シンタ
ユエさん、やっぱり赦せません。

シンタ
この2人、どっちが本当にことを言っているのか分からないし。

シンタ
何を考えているのかも分からない。

ユエ
そうですか……では、当番組より、ひとつ提案をさせていただきましょうか。

ユエが指を鳴らすと、2人の目の前にパソコンが運ばれる。
ユエ
さて、こちらのパソコンでございますが、見ていただいて分かるように、お2人の不貞の証拠など、不倫を証明するデータが貼り付けられているメール画面を開いております。

ユエ
お2人は不倫するほど、すなわち男と女としてまぐわうほどの仲でございます。

ユエ
ならば、互いの考えていることなど分かり合えて当然でございます。

さらにユエは、ミノリカワの元に3枚のカードらしきものを投げ、そしてユキノのところにも3枚のカードを持って来て、それを手渡してくる。
3枚のカードには、それぞれ【会社】【両親】【旦那】と書かれていた。
ユエ
さて、今お配りしたカードには、それぞれ全く同じものが書かれております。

ユエ
そして、カードは、お2人の不貞のデータを添付したメールの宛先となります。

ユエ
これより、お2人には、そこから1枚を選んでいただきます。

ユエ
そして、同時にカードを出していただきます。

ユエ
そして、出されたカードと同じ宛先、例えば会社に……。

ユエは試しと言わんばかりに、ユキノ達の会社のアドレスを打ち込む。
誰宛てなのかまでは分からないが、アドレスは間違いなく会社のものだ。
ユエ
送信いたします。まぁ、これはデモンストレーションですから、実際に会社へは送りませんが。

ユエ
ちなみにでございますが、お2人が出すカードが異なっていた場合は、そちらのメールを送信した後、続行させていただき、カードがなくなったら終了といたします。

ユエ
もし、出したカードが一致した場合は、そのカードの宛先にメールを送信して終了。

ユエ
シンタさん、これをもってして、お2人を赦すことになりますが、よろしいですか?

シンタ
なんだか、一発目で見事に一致したら、それはそれで面白くないですが、それで構いませんよ。

ミノリカワ
あの、いいですか?

ミノリカワ
ちょっとどんな内容が送信されるのか確認させて欲しくて。

ユエ
えぇ、構いませんよ。ちょうど、そちらの旦那さん宛に出すメールをサンプルとして画面に出してありますので。

しばらくすると、ユキノのほうへと視線を向けて来た。
ミノリカワ
ユキノ、こっちは【会社】を選ぶ。

ミノリカワ
悪いことは言わないから、そっちも【会社】にしてくれ。

ユエ
……わざわざ説明するまでもないと思っていたのですが、事前に打ち合わせるのは禁止といたします。

ユエ
まぁ、今のはもう仕方がありませんけど。

ユキノ
あのさ、これって何かしらの媒体で放送されているんだよね?

ユエ
はい、今回は限定的な会員しか視聴できないプレミアムな放送でございますが。

ユエ
なので、おそらくユキノさんが危惧されているような情報の漏洩はございませんよ。

ユエ
これから、お2人が情報をどこまで漏らすか……ということをするのに、先に情報が漏れてしまっては意味がございません。

ユエ
間違いなく、選択肢である【会社】【両親】【旦那】の関係者は、この放送を観ておりませんでしょう。

ユエ
まぁ、当の本人である【旦那】のシンタさんをはじめ、その他につきましては、その限りではないかもしれませんが。

ユキノ
(つまり、私達が選んだ宛先以外には、不倫のこともばれないってことか)

ユキノ
(だったら、わざわざわミノリカワと答えを合わせる必要もない)

ユキノ
(もちろん、一発で合致するのがベスト。それが、情報漏洩を防ぐ最善の手ではある)

ユキノ
(でもね、私は賢いの。これから先、シンタと再構築することを考えると、ミノリカワと同じものを一発目で選んで心象を悪くしたくはない)

ユキノ
(だから、ここはあえて【会社】は出さない)

ユキノ
(それにしても、このユエって女も馬鹿ね)

ユエ
それでは、お2人とも、同時にカードをその場で掲げてください。

ユキノ
(【会社】に不貞がばれても、関係を強要されたってことでお咎めはないけど、ミノリカワとかぶる)

ユキノ
(【旦那】に今さら不貞のデータが送られても痛くもかゆくもないけど、実はもっと確実かつ、ミノリカワとかぶらない選択肢がある)

ユキノ
(確かに【両親】に不倫していたことがばれるのは避けたい)

ユエ
それでは、一斉にお出しください!

ユキノ
(でも残念)

ユキノ
(私の両親はどっちも、もう死んでだよ!)
