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店で手伝いをするようになって、数日が経過した。 最初はぎこちなかった動きも、グラスの置き方や、客との距離感や、コツを掴んできて慣れてくる。
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hr
じゃぱぱの声掛けへの応答も、忙しい中でも自然とできるようになってきていた。
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じゃぱぱが感心したように言う。
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また照れ臭くなって、下に俯いた。その横で、うりがくすっと笑う。
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jp
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この言い合いが日常になってきている。その空気を、心地いいと感じる。 ここにいると、少しだけ普通に戻れている気がした。
ぬるい風が静かに頬を撫でる。 ヒロは外の空気を吸おうと、休憩時間に店の外に出ていた。階段を上り、そのへりに背中をもたれさせる。
hr
息を吐いたところで、誰かが階段を登ってくる音がした。振り返り、うりがそこにいるのを見て、少し驚く。
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興味があるのかないのか分からない返事だった。 だけど、彼がヒロの隣に並ぶ。肩が触れ合いそうになっている。
hr
心の中で笑いそうになったその時、階段から別の男が現れた。中年くらいの、スーツ姿の男だ。 多分、バーの客。
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うりの声が、人懐っこい甘えたものに変わる。
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ヒロは思わず声を漏らした。 男は何か返事をして、自然な流れでうりの隣に立った。
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いつもと変わらない、軽薄な笑顔。 だけどヒロは、「浅川くん」の呼び方に、胃がずんと下がるのを感じた。
ur
冗談みたいな口調だった。
hr
反射的に頷く。 うりはそのまま男と並んで、ネオンの光る街の方へ歩き出した。人混みに消えて、見えなくなる。 ヒロは、その背中を呆然としながら見ていた。
hr
仕事だから。彼の。 ヒロのことをああいう風に呼んだのだって、客の好感度を下げないためだろう。 頭では分かっている。 だけど、びっくりした。 彼を何も知らなかったような気分だった。 実際、そうなのかもしれないが。
jp
店に戻ると、一段落終えたのか、じゃぱぱもカウンターの内側のスツールに座ってリラックスしていた。 客もさっきよりだいぶ少なくなっている。
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jp
淡々とした口調だ。 そうだろう、分かっている。うりの仕事があれだけじゃないことも、気づいていた。 彼が昼間にこの店に来たことは、ここがバーだからという理由を抜いても、ほとんどない。
jp
引き攣ったような笑いだった。 その顔があまりにも痛々しくて、ヒロは一瞬言葉に詰まった。
hr
結局正直に答える。 じゃぱぱはスツールから立ち上がり、またグラスを磨き始めた。
jp
声がいつもの軽いトーンに戻った。 それが、この世界の普通なんだと示すみたいに。
日付を回ったにも関わらず、客はまだたくさん来ていた。 だけど、この時間になると、未成年だからという理由で、ヒロは働かせてもらえなくなる。 実際、元々の就寝時間が早かったせいか、慣れるまでは仕事中でもかなりうとうとしていた。
jp
半分独り言みたいに、じゃぱぱがぼそっと言う。 ヒロはそれに頷けずにいた。 多分、まだあの男と一緒にいるのだろう。それを考えると、ここが夜の街なんだということを、思い出してしまう。
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少しして、扉が開いた。 何事もなかったみたいに、うりが戻ってくる。
jp
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どこか心配そうな様子のじゃぱぱとは対照的に、うりは相変わらず明るくて、軽かった。 そのままカウンターに寄りかかる。
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随分と唐突だった。 顎で軽く扉の方を示してみせる。
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こんな時間に?どこへ? 思うことはたくさんあった。だけど、この人の頼みは、なぜか断りづらい。
hr
ur
具体的な質問の答えが含まれない、曖昧な返答。 うりはいつだってどっちつかずで、のらりくらりとしていて、掴み所がない。
hr
ヒロが頷くまでのそのやり取りを、じゃぱぱがじっと見つめていた。
ヒロが着替えを取りにいったことで、カウンターに残ったのはじゃぱぱとうりだけになった。 段々と客の数が減ってきている。 そのタイミングを見計らって、じゃぱぱは彼に話しかけた。
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ur
じゃぱぱの低い声にも、うりは軽い態度で応じた。
jp
少しだけ間を置いてから、尋ねた。 彼は一瞬だけ目を細める。 あいつの奥底の闇が、覗く瞬間。 でもすぐにそれは終わって、うりは軽快に笑った。
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jp
いつもそうだろ、お前は。
jp
自分でも、声が固くなるのが分かった。 うりはじゃぱぱを見つめたまま、否定しない。
jp
遠回しに警告する。 うりは分かっているだろうに、肩を竦めただけだった。
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じゃぱぱは眉を顰めた。
jp
引っかかりはあるけど、完全には止めない。 うりは小さく笑った。
ur
その言い方で、うりは辞める気がないんだと分かる。 まあ、この世界は他と比べて刺激を求める奴らが多い。 じゃぱぱは深くため息をついた。
jp
もう引き止めるつもりはなかったから、それ以上は言わなかった。 だって、こっちに入り込んでしまったあの子にも非があることは、間違いない。
hr
できるだけ急いで着替え、待っていたうりに詫びる。
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うりはすぐに立ち上がった。
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さもそれが当たり前だとでもいうように、ヒロの手首を軽く引く。
hr
一瞬だけ驚いたけど、振払うことはしなかった。 そのまま外に出る。 さっき外に出た時より、空気が冷たくなっている気がした。
連れてこられた場所は、想像よりもずっと騒がしい場所だった。 音が近い。 重くて、身体に直接響く。 光が強い。 暗いのに、眩しい。
hr
思わず呟く。
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うりが横で笑った。
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hr
正直に答えた。 あのバイトに深入りせずにいたら、一生縁がなかったであろう場所。 感じたことのない空気感に、自分が小さくなったような気分だった。 だけど、隣にはうりがいる。
ur
やっぱり軽い言い方だった。
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手を引かれて、人混みの中に入り込む。 人と人の距離が近かった。 どこへ行っても、音楽は止まない。 全部が初めてだった。 最初は戸惑う。 だけど、しばらくすると、少しだけど分かってきた。 音に体が慣れる。 人の流れに、身を任せられるようになる。
ur
うりがヒロの顔を覗き込んだ。 頬の凹凸や、髪の一本一本の細さが分かりそうだ。 それくらい近くて、だけど嫌な感じはしない。
hr
そう答えると、うりが笑った。
ur
そのまま肩に手を置かれる。 薄くて、小さい。初めてうりに出会い、手を引かれた時と同じだった。 クラブの熱気とはかけ離れた、作り物のような冷たさ。
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気づけば、音に合わせてヒロの体が揺れていた。
hr
言われて気づき、少し恥ずかしくなる。 だけどうりは、楽しそうに笑うだけだった。じゃぱぱや他の客たちといる時より、彼がヒロの前で笑顔を見せることが多いのは、気の所為だろうか。
ur
耳元で囁かれる。
ur
本当に、少しだけ。
hr
ヒロは、この場所を楽しいと感じていた。