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幸輝
愁斗
春の空はどこか穏やかで、優しい風が校舎の窓からそっと吹き込んでいた。
高校の教室には、いつも通りのざわめきがあふれ、誰かの笑い声、机を引く音が交差する。
その片隅で、森愁斗はそっと額に手をあてていた。
愁斗
愁斗
朝から感じていた違和感は、じわじわと本格的な痛みに変わってきていた。
声を出すのも億劫で、ただ黙って机に肘をついたまま、痛みをやり過ごそうとする。
そんな愁斗の異変に、誰よりも早く気づいていたのが、幸輝だった。
席の前で何気なく振り返った瞬間、愁斗の顔に浮かぶ“違和感”を、彼は見逃さなかった。
幸輝
幸輝
2人は血が繋がっているわけじゃない。 でも――家族だった。
昔、親同士が親友だった。 キャンプにも旅行にも、よく一緒に行った。
そしてそれぞれの両親が相次いで事故で亡くなったあと、彼らは自然と一緒に暮らすようになった。
戸籍も名字も違う。 でも、心は、家族よりも強く結ばれていた。
チャイムが鳴ってホームルームが終わると、生徒たちが一斉に動き出す。
だけど愁斗だけは、机に顔を伏せたまま、びくとも動かなかった。
幸輝
幸輝は迷わず立ち上がり、愁斗の隣にしゃがみこんだ。
幸輝
愁斗
ゆっくりと顔を上げた愁斗は、明らかにいつもと違っていた。 白くなった顔。少し濁った瞳。かすれた声。
愁斗
愁斗
幸輝
幸輝
愁斗
幸輝
愁斗はゆっくり立ち上がるが、ふらついた足取りに、幸輝はすぐ肩を貸した。
幸輝
いつもの賑やかな廊下を、2人だけの静かな空気が包んでいた。
──他の誰にもわからない、 この2人だけの絆が、静かに、強く結ばれていた。
保健室はいつもより静かだった。カーテン越しにゆれる朝の光が、白いシーツをぼんやりと照らしている。
ベッドに横たわる愁斗は、薄く目を閉じたまま、浅い呼吸を繰り返していた。
幸輝は、愁斗が眠れるようにと音を立てずに見守っていた。
幸輝
愁斗
愁斗は目を開けず、小さな声で答える
愁斗
幸輝
愁斗
幸輝
そう言って、幸輝はそっと愁斗の髪を撫でた。 この距離が、彼らの全てを物語っていた。
教室へ戻った幸輝は、授業中も何度も時計を見た。 黒板の文字は頭に入らず、愁斗の顔がずっと脳裏に浮かんでいた。
幸輝
幸輝
2時間目が終わると、幸輝は迷わず保健室へ向かった。
ノックの音に応えるように、カーテンの向こうから微かに声がした。
愁斗
幸輝が顔を覗かせると、愁斗はゆっくり目を開けた。
まだ少しだけしんどそうだったけれど、朝よりも顔色はよくなっている。
幸輝
愁斗
幸輝
一瞬、愁斗は迷うように目を伏せたあと、小さく笑った。
愁斗
幸輝
愁斗
幸輝
愁斗
教室へ戻る廊下を歩きながら、2人の影が並んで伸びていく。
ふとした静けさの中、愁斗は心の奥で感じていた――
───この痛みは、一時のものじゃないかもしれない。 でも、それを口にすることは、まだできなかった。