子ども心に 気づいていました
貴方がわたしを見る
温かな眼差し
貴方がわたしに向ける
柔らかな微笑み
それらは全て
わたしへの好意なのだと
初めての告白
そして
初めての口づけ
触れ合った唇が離れると
貴方の声に 困惑の色が混じりました
わたしが小指を差し出すと
貴方はクスリと笑いました
あの時、貴方は 気づいていましか?
先ほど口づけを交わした ばかりなのに
指を絡め合うだけの
“指切り”が
わたしの胸を 熱く焦がしたことに
貴方は笑うでしょうか?
あの日
貴方と絡め合った小指が
どうしても 忘れられないのです
この指が
今も貴方を 忘れられずにいるのです
凄惨な事件に 人々は心を痛めています
けれど、わたしは
殺人事件の恐怖よりも
貴方への贈り物に 興味があります
被害にあう事への 恐れより
貴方と再会できない事を 恐ろしいと思います
わたしは何処か……
壊れてしまったのでしょうか?
貴方に心を奪われた
あの日から
約束の日が近づくと
わたしは一人で過ごす時間を増やしました
貴方は、きっと
約束を守ってくれると 信じていたからです
貴方の柔らかな微笑みに
胸の高鳴りを抑えることが できませんでした
すうっと、貴方の前に
小指を差し出しました
10年前
僕は君に 恋をしていた
醜い男の不気味な思いを
きっと君は 不快に思うだろう
だから、ずっと ひた隠しにしていた
当時10にも満たない
美しい少女だった君への
淡く、おぞましい この思いを
10年前の僕は
どんなに薄気味の悪い 男だった事だろう?
ねっとりとした眼差しで
美しい君を眺めていた
だから、君に 声をかけられた時
どんな酷い言葉で 罵倒されるのだろうと
僕は、脅えた
……だからこそ
君からの予想外の告白にも
甘い口づけにも
恥ずかしい程に 戸惑ってしまった
なぜそんな事を 口走ってしまったのか
それは、今でもわからない
僕は自分の中に住まう
“悪”を恐れた
自分の気持ちを打ち明けて
自分の欲望に従って
君を傷つけてしまうことが
何よりも、恐ろしかった
僕が小指を噛み切ると
彼女は「嬉しい」と 言ってくれた
これで僕の一部になれると
涙を浮かべ笑ってくれた
口の中に広がる匂い
舌を刺激する感触
それらは
あの日交わした 口づけよりも
甘く、柔らかく
この心を潤した
数日後
“それ”は
僕の手に、よく馴染む
それは、きっと
愛する人から譲り受けた 小指で作った
特別な“万年筆” だからだろう
コメント
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意外な結末に驚きました…! 哀しいですが、ふたりが幸せなら ハッピーエンドなのでしょうか…