ポトスのオムライスと珈琲を 全て完食した後、 考え無しに走り出した足は、 自分の家の前に居た。 今から会いたい。 そんなことを羞恥心からか ストレートに言えるわけなく、 悶々と蘇枋とのトーク画面を 開け、何て打とうか 悩んだ。
考えれば考える程、 恥ずかしさが漏れ上がってきて、 こんな歳にもなって きっと顔を赤くしていただろう。 家の中にも入らず 少し暑い外でメッセージを 考えていたので、 周りにいた人達は 不思議そうに俺の事を見ていた。
いや、 もしかすれば、 この珍しく奇妙な容姿の 所為なのかもしれない。 そう考えると、 不意に蘇枋の声が 頭の中に聞こえた。
『桜君が、その容姿が大嫌いでも、 俺は君の容姿が大好きだよ その夕日の様な綺麗な黄色い瞳も、 猫の様な綺麗な髪も、 全部愛おしくて大好きで仕方ないんだ。 だから、 自分のことを嫌いだなんて言わないで…』 そう寂しそうに俺の顔を 見てきた蘇枋を、 俺は忘れたことは無かった。
付き合う時に俺が言った。 こんな容姿の奴といたら、 お前が苦労するって、 お前から愛情を貰っても、 きっと俺は、 ずっと自分のことが嫌いかもしれないって、 それでもあいつは俺に 好きだと、 絶対そんな思いはさせないと言ってきた。
大人になった今では、 すっかりあの気持ちもなくなって、 蘇枋が好きな俺が好きになっていた。 この奇妙な色の髪も目も、 前ほど好きになっていた。 呪いの様に思えた両親との唯一の 繋がりの名前も、 アイツに呼ばれる度に、 嬉しくなって、 大好きな名前の1つとなっていた。
最初から最後まで、 俺が愛すのはきっと 彼だけなのだろう。 トーク画面を見つめながら、 送信ボタンを送ろうとする。 指に緊張が走り、 1度深く呼吸をした。
トーク画面に送信された 文章は、 上手くまとめられてなかったが、 あの時あいつが俺を呼び出した時と、 同じようなものを送った。 これなら絶対、 あいつは俺と会ってくれる。 そう思ったからだった。 アイツの様な綺麗に並んだ 文字じゃないし、 少しぶっきらぼうだが、 この文章で 十分伝わるだろう。
この強い信頼は、 きっと長く一緒にいた証拠 なのだろう。
こう言うずるい所も、 アイツに意図せず似てしまったのだろう。 そう思うと、 少し嬉しくなって、 小さく笑みをこぼした。
顔が暑くなった所為で、 差程暑くはなかったはずの 気温が、すごく暑く感じた。 トーク画面に既読が着くまでは、 顔の熱が覚めなかったし、 少しソワソワした。 この緊張感は、 きっとあの時、蘇枋も 俺に告白をする時感じた物と 同じなのだろうか。
青い空を眺め、 アイツと同じ気持ちならいいなと、 少しのお揃いを求めた。
座ってじっと 仕事場のPCを眺めている所、 急にスマホが光った。 誰かからメッセージ が送られた様だった。 名前を確認すれば、 見慣れた名前があった。 その名前を見た瞬間 らしくもない程慌て、 メッセージを押してしまい トーク画面が開かれた。
その時本当に やってしまった、 そう思った。 彼とは今後関わる事がないよう と思っていたので、 トークに既読をつけてしまった事と、 彼との連絡を絶たなかった事を 酷く公開した。
そのまま無視しようかとも 思ったが、 彼の文章が目に入った瞬間 それは出来なかった。
『桜の咲くあの場所で いつまでも待ってる。』
この短い文だけが淡々と 送られてきていた。 その後は何も送られる事は 無く、 メッセージの変動はなかった。
蘇枋
俺の目から溢れ出た物が、 視界を塞いだ。 ボヤっとした視界は、 PCの画面も、 手に持っているスマホの画面も 何も映し出さない。 それでもずっと前から残り続ける メッセージに送られた一文
俺が送った文とは少し違い、 少しぶっきらぼうになった文章を 見つめ、彼らしさが溢れ出ていて、 また少し目から何かがでてきた。 溢れる事のないそれは、 ずっと俺の視界だけを遮っていた。
終わらせた仕事も あと片付けも何もかも放り出し、 俺はただ一心に走った。 あの日彼と約束した場所に。 彼と俺の恋を始めた場所に__
走る度にどんどん時が あの頃へ戻って行く様な 不思議な感覚に襲われた。 あの学生時代をいつまでも 引きずっている俺も、 きっとずっと 未練があり続けていたのだろう。
蘇枋
そう優雅に男は歩いてきた。 眼帯をつけ、 タッセルピアスがシャラリと揺れた。 思わずピアスに目を向けるが、 慌てて地面を見た。
とある高校の門付近にある 大きな桜。 たくさんの思い出と 俺たちの青春が詰まったこと場所に、 こうしてまた来るとは きっとあの頃の俺は 想像することも無かっただろう。
男が発した一言。 その言葉に少し笑ってしまいそうに なった。 『んだよ急に呼び出して、』 そう言って不機嫌そうに 歩くあの時の自分を思い出した。
立場が逆となった俺達は今、 あの頃の出来事を再現していた。 きっと俺達2人、 内心ではクスリと笑いあって いただろう。
桜
あの時のあいつが放った言葉 1つ1つを、 頭の中で思い出しては、 俺の心は満たされた 気持ちになった。 アイツを真似て 喋ってみるも、 やっぱり内心おかしくって、 笑顔を我慢するので精一杯だ。
『ちょっと、ね…』 そう言って照れ臭そうに 桜を眺めるアイツを、 綺麗だと思った。 あの時の甘酸っぱい恋を だんだんと取り戻していく様で、 気持ちが高ぶるのを感じるのと 同時に、心拍数も だんだんと上がってきた。
あの時照れ臭そうに 笑ったお前の体温や、 心拍数は、今の俺みたいだったの だろうか、 そう考えては、 またおかしくって、 笑いそうになった。
蘇枋
『さっさと要件言えよな』 そう言ったあの時の自分は、 この甘い雰囲気に 耐えられなくて、 自分の気持ちを誤魔化すかの様に 言葉を放っていた。 頭上にある桜の来から花びらが 風に吹かれて落ちてきた。
さっきまで青かったはずの空は、 俺が気付かぬ間に オレンジへと染まっていた。 あの時の放課後、 2人きりで話したこの場所を 丸々再現するかの様に。
桜
『この景色、まるで 桜君みたいだよね』 大きく逞しく、 1本立つ綺麗な桜に、 オッドアイの片目の色。 確かにこの光景は 俺に似ているかも。 あの時はまるで何を言っているか分からなくて、 夕暮れに咲く桜を眺めている 蘇枋を、 俺を熱心に眺めた。
沢山アイツをしった 今の俺は、 あの時あいつが言った言葉を ようやく理解した。 今になってわかるアイツの言葉 全て愛おしくて、 嬉しくて、 大人になるのもいいなと思った。
蘇枋
最初に吹き出して 笑ったのは蘇枋だった。 この桜咲く 綺麗な光景に、 腹を抱えて大声で笑う 蘇枋を初めて見たと思った。
桜
そういう俺も、 この瞬間が おかしくって 愛おしくって、 頬が緩み、 大声を出して笑った。
成人男性2人が 腹を抱えながら 桜の下で笑っている奇妙な光景。 そんな光景は俺らからしたら、 甘酸っぱい恋を している最中で、 とても幸せな空間へと 包まれていた。
この時間がずっと 続けばいい そう思った。 けれど今にお別れを するべく、 俺は覚悟を決めた。 そんな顔を見て、 何か言いたげだった蘇枋は、 迷った末、 俺の続きの言葉を黙って聞いていた。
桜
桜
コメント
11件
なんか分かんないけど♡ゾロ目にしときました。この作品はもっと伸びて良いと思う。小説家向いてますよ、なりましょう!買います(?)貢ぎます!ありがとうございます(尊死)
桜の下で大人になっても学生の頃のような会話をしていてちょっと涙出てきました………桜が蘇枋さんを真似るっていうのもいいし、悩み続けた後にちゃんと付き合ってと言うの勇気振り絞ったんだなぁって思ってよし!言った!ってなっちゃってました………
沢山の方に見てもらって、 なんともうすぐフォロワー様が 300人になります。 ここまで応援してくださった皆様のおかげで、ここまで続けられています。 本当にありがとうございます🙇🏻♀️ 300人フォロワー様が達成しましたら、私のできる範囲で皆様に感謝を込め、なにかしたいのですが、何をして欲しいとかありますかね……? 例えばフォロワー様の好きなシチュエーションをかきますとか……