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200×年 6月某日
出張を終え、私は帰りの電車に間に合わせるため山道を進んでいた
咫穏
視線を空に向ければ黒い雨雲が覆っている
咫穏
近道とはいえ、さすがに山の中を強行突破するのは無謀だったかもしれない
咫穏
咫穏
“急がば回れ”とはよくいったものだ
ぽつ…… ぽつ……
咫穏
とうとう雨が降り出してしまった
まあ幸い小雨だ
咫穏
万が一、土砂崩れに巻き込まれたら大変だし
数十分後
本格的に降ってきた……
咫穏
山道のわきにあずまやを見つけ、そこで雨宿りをすることにした
ザー
雨脚が強くなる
それどころが霧が発生
咫穏
確実に遭難してしまう
カー、カー
1羽のカラスが木の枝に止まっている
咫穏
はっきり言って
退屈だ
咫穏
備え付けのベンチに腰を下ろす
咫穏
朝早かったし、少し寝よ
あずまやには私しかいないから、大丈夫なはず
咫穏
意識はすぐに闇へと包まれていった
はぁ……、はぁ……
思いっきり駆けぬける
『外は危険だ。奥座敷から出るな』
耳にたこができるぐらい、何度も言い聞かさせられた
それでも外へ出たかった
震えるぐらい嬉しくて、気持ちが浮ついていた
だから足下の注意が散漫だった
飛び出した先は──
地面がなかった
咫穏
ぱちり
咫穏
咫穏
気のせいか?
ぱらぱら
さっきよりも雨脚は弱くなっている
霧は少し晴れ、視界が見通せるぐらいになっていた
咫穏
ばさばさ
カラスが翼を広げ、その場から飛び立つ
ガアッガアッ
咫穏
尋常じゃない鳴き声
カラスは旋回しながら鳴き続ける
咫穏
急坂の端に立ち、下を覗き込む
目を凝らすと──
人がうつ伏せで倒れていた
咫穏
急坂を下り、そばにかけよる
白い浴衣はところどころ泥で汚れていた
気を失ってはいるが、微かに息をしている
咫穏
見上げると目の前には崖が……。けど、そんなには高くない
草むらと落ち葉がクッションになり、幸いしたんだろう
咫穏
膝をつき、首元を凝視した
まるで人が噛んだような痕
咫穏
まさかヒト咬傷(こうしょう)じゃないだろうね?
「外に出たいだと?」
──うん
「ダメだ」
──…………
「何度も言ってるだろう。外は危険だ、と」
──危ないところには絶対近づかないよ
──少しだけでいいから、僕を……
咫穏
慎重に上半身を起こし抱きかかえる
咫穏
咫穏
ちゃんとご飯を食べているのか、思わず心配になった
カラス
山鳴りは聞こえない
咫穏
ゆっくりと急坂を登る
咫穏
思いの外時間がかかってしまった
抱きかかえた身体を、あずまやのベンチの上に寝かせる
咫穏
咫穏
ぱっと見、小学生くらいだろうか
あどけなさが少しだけ残っている
咫穏
妙な違和感
咫穏
雨で白い浴衣は濡れてしまい、このままだと風邪を引く
咫穏
着替えといっても、あるのは──
予備用に持ってきた山伏の白装束
咫穏
ザー
また雨が強く降ってきた
姿見に映る白無垢の自分はまるで別人のようだった
どこをどう見ても女の人にしか見えない
『ささ、こちらへ──』
手を引かれ、御輿に乗せられる
これから僕は……
婚礼当日の夢を見るなんて
あのときは“花嫁”の実感が今ひとつわかなかった
?
声の方に視線を向けると
カラスの面を被った人物が見下ろしている
驚きのあまり声が出なかった
白装束の山伏に、今みたいに介抱されて
たしか名前は──
咫穏
そういえば、烏面をつけてたことを失念していたな
その上、山伏の白装束を纏ってるんだから無理もないか
通報されてもおかしくはないし
咫穏
咫穏
一応訂正する
咫穏
思わず口に出してしまった感じかな
咫穏
咫穏
ザー
咫穏
そっとため息をつく
カラス
咫穏
カラスに反応するようにつぶやいた