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遥
教科書を鞄に入れて帰り支度をしていたら、遥(はるか)が近づいてきた。
いつものメンバー、香奈(かな)と菜々美(ななみ)も後ろに立っている。
私は「うん」とうなずいて席を立った。
放課後の喧騒の中を歩き、生徒玄関の階段を下りてしばらく行ったところにある自動販売機に向かう。
階段の先にはグランドがあって、既に部活が始まっていた。
野球部、サッカー部、テニス部、そして陸上部。
それぞれの部員たちが練習の道具の準備や、ウォーミングアップをしている。
とくに飲みたいものがなかったけれど、私だけ買わないわけにもいかないので、紙パックのフルーツミルクを選んだ。
遥
遥がにこにこしながら顔を寄せてきたので、私は「まあね」と笑った。
遥
遥はいちごミルクのパックにストローを刺しながら首を傾げる。
その動きに合わせて、つやのある長い髪がさらりと揺れた。
色素が薄くて柔らかそうな、きれいな髪だ。
遠子
遥
遠子
なにそれ、と香奈と菜々美がおかしそうに笑った。
味が好きなわけではなくて、パッケージの色と組み合わせと、果物のイラストがかもし出す雰囲気が好きなのだ。
でも、そんな理由で飲み物を選ぶのは変だと彼女たちに笑われそうだから、何も言わない。
私たちはグラウンドの横を通って、教室棟に戻る階段へと向かう。
前を歩く遙は、目を奪われたようにグラウンドの方を見つめていた。
それから足を止めて、
遥
遥が唐突に、恥ずかしそうに言った。
香奈がぷっと噴きだし、
香奈
と彼女の肩をぽんと叩く。
菜々美
菜々美がからかうように言うと、遥は色白の頬を赤らめた。
遥
菜々美
遥の顔はさらに赤くなった。
遥
いじわるなんだから、と独りごちながら遥はグラウンドを取りかこむフェンスの前に立った。
その目がうっとりと校庭の片隅を見つめている。
その横顔を見ながら私は、恋する乙女の目だ、と思った。
遥
遥はいつものように小さく叫んだ。
あのときもそうだったな、と思い出す。
私が初めての恋をして、同時に失恋した日。