何度も
何度も言い聞かせた。
明日の水族館はあの2人の為に用意されていて、俺の為ではない。
結果的に あの人と2人で行動することになるけど、他意はない。
あの人は俺を「友達以上」として見ない。 俺も望んではいけない。
誰かと誰かを撒いて2人きりにする ことなんて何回もしてきた。
____だから さっさと明日の服を選んで準備して 眠りの淵に落ちてしまえばいいのに
山崎孝太
なかなか寝つけなかったくせに早く目が覚めた。
なのに眠気は感じない。 何をするにも落ち着かなくて、15分も早く待ち合わせ場所に着いた。
当然 俺が1番乗り。 ____どんだけ浮かれてんだよ。
6回くらいスマホを見たけど2分しか経ってない。
___スマホの電源ボタンに触れるのが7回目に差し掛かった時、耳に関西弁が滑り込んできた。
澪
山崎孝太
澪
山崎孝太
澪
澪
澪
山崎孝太
山崎孝太
電源ボタンに触れるのが8回目になった。 手汗で少し湿っていた。
____鼓動がうるさい。凄く主張してくる。
澪
山崎孝太
澪
澪
澪
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
澪
なんてことない 相づち。
だけど俺は頷けなかった。 澪さんの顔を直視することも出来なかった。
俺はその言葉に頷いてはいけない。
どす黒い悪意が自分に向くことを恐れて、俺はたくさん傷つけてしまった。
顔にモップを押し付けた。 鞄に墨汁を投下した。 それらを無かったことにして
俺はその言葉に頷いてはいけない。
本当に人を思ってるのなら 横断歩道の真ん中で困ってる人を見て見ぬフリなんてしない。
__柚月がテスト中に倒れた時は本気で心配して __条件付きで柚月のお母さんに許して貰った時は本気で喜んだけど
俺はその言葉に頷いてはいけない。
山崎孝太
他の誰が たとえ柚月が許してくれても
俺は許さない。 許してはいけない。
だから うるさい鼓動も気のせいで、意味を見出だしてはいけない。
水族館「ヒリア」 (期間限定)ジンベエザメデビュー! 独自のルートで入手したジンベエザメが1週間だけ1番水槽に!!
チケット売場の前に胡散臭い看板があった。
柚月
山川のぞみ
___全員が そっと視線を外した。 考えても栓ないことだ。
「ヒリア」の敷地内には ハート型に切り出された大きな石がある。
気になる人と写真を撮ったら結ばれるとかで有名になりかけている。
そんなパワースポットとジンベエザメ効果で、けっこう人が多い。
澪
澪さんが俺にだけ聞こえる声で呟いた。
山崎孝太
俺の相づちを確認すると、澪さんは 二人に視線を移した。
慈愛に満ちた大人っぽい表情と 子どもみたいな無邪気な表情 が、同じ割合で混ざっている。
彼女が見ていたいのは 俺じゃなくてあの二人。 わかってた。わかってる。
高鳴る いろいろなモノを置き去りにして
俺も彼女から目を逸らした。
捨てないといけない。 捨てないといけないのに。
4人で館内を見て回って、適当な頃合いで2人から距離を取って___
4人から2人になった時に 置き去りにしたハズのあれを
また手繰り寄せてしまった。
イソギンチャクの中を撫でるように オレンジと白の縞模様の魚が泳いでいる。
容疑者としてマークしてるのかってくらい真剣な顔で その魚の行方を追っている女性がいた。
館内に薄くかかるBGMに、シャッター音が連続して重なる。
連写した写真を1通り検分してから、もう1度スマホを構える。
___俺と澪さんが「熱帯魚エリア」の「カクレクマノミ」ゾーンに来てから既に15分は経過している。
目についたクマノミに、「ミケ」だの「ポチ」だのと魚にそぐわない名前を付けていると、ようやく澪さんが戻ってきた。
山崎孝太
澪
おそらく100枚以上のクマノミが納まっているスマホを抱えて、満面の笑みを浮かべた。
テンションが上がっているのか、本当に楽しそうに笑う。
澪
澪
山崎孝太
山崎孝太
澪
山崎孝太
澪
山崎孝太
さらに20分かかった。
何度も
何度も言い聞かせた。
彼女は俺を特別視していない。 俺も それを望んではいけない。
保身に走って傷つけてばかりいた昔の俺を知ったら、きっと彼女は軽蔑する。
だから こんな気持ち、抱いてはいけない。 捨てないといけない。
だけど楽しかった。 たくさん笑った。
捨てないといけないのに、手繰り寄せてしまう。
間違いない、と確信した。
楽しかった。 たくさん笑った。
涙が出るほど笑った。
澪
夏祭りの帰り道のような、 どこか切ない空気だった。
俺の半歩前を歩く彼女の表情は見えない。
「クラゲ」エリアに向かう道中。 途中にいくつか大きな水槽があるけど
俺も彼女も水槽に顔を向けていない。
ただこの余韻に1秒でも長く浸ってたいのか、歩みは遅い。
山崎孝太
澪
どこかで子どもの大声がした。 それに重ねるように、質問の答えを口にする。
山崎孝太
澪
山崎孝太
澪
山崎孝太
澪
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
澪
澪
澪
澪
澪
俺の半歩前を ずっと前を向いて歩く彼女の表情は見えない。
だから俺の表情も見えていない。
___もう無視も置き去りも出来ない。
間違いない、と確信した。
「クラゲ」エリアについた。
大小様々な水槽が10個ほど設置され、その中をクラゲが漂っている。
ピンクや紫、水色のライトが下からクラゲを照らし、ムーディーな雰囲気を作っていた。
一番手前の水槽にはピンクのライトに照らされて、30匹ほどのクラゲが漂っていた。
山崎孝太
澪
____銘銘(めいめい)に漂うクラゲの中に、ぴったりと寄り沿う2匹のクラゲがいた。
寄り沿って たゆたう2匹の海月(クラゲ)に視線を固定して、俺は口を開いた。
山崎孝太
澪
山崎孝太
山崎孝太
澪
もう2匹の海月しか目に入らなかった。
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
澪
澪
ズルくてヘタレな俺は、彼女の顔を見ることは出来ないけど それでも口を動かした。
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
山崎孝太
2匹の海月から目を離した。
隣に立つ彼女の手首を掴む。息を呑む音がすぐ近くで聞こえた。
ゆっくりと海月から視線を外した。
掴んだ勢いからか、澪さんの顔は俺に向いていた。
いつも前を向いている彼女を
振り向かせたくなっただけ。
山崎孝太
コメント
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海◯館っていってるとこリアル笑笑 にしてもキュンキュンさせられまくりですです!
こっちが好きです 「好きです」とちゃんと伝える孝太君が好きです 「好きです」と言われて顔を赤らめるであろう澪さんが好きです この尊い純愛物語が好きです 非リア弟さんが大好きです 本当に本当にご馳走様です…!!!!
孝太くん(* ॑꒳ ॑*) 今日部活だったので帰ってすぐ読めて嬉しいです。゚(゚^o^゚)゚。待ってました