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ごめん

塞がった喉をこじ開けて、ようやくその言葉を引きずり出した。

「もう帰るよ」と声をかけられた子どものような、

痛みに耐えるような微笑を浮かべて 孝太君は掴んでいた手を離した。

直視出来なくて水槽に視線を移した。

___館内に薄くかかっているBGMも シャッター音も話し声も

高速で脈打つ なにか が遮って 何も聞こえない。

息が詰まって喉がカラカラに渇いてるけど 懸命に言葉を絞り出した。

……すぐには結論出せへんから………あの…ちょっと時間欲しい

ぴったりと寄りそって漂う2匹の海月(クラゲ)が視界に入った。

……ちょっと、だけ………

限界だった。

………………ごめん

何を言って何をしたら良いのか分からなくて、逃げるように「クラゲ」エリアを出た。

掴まれた手から全身に熱が広がって、クールダウンする為に1人になりたかった。

孝太君は追って来なかった。どこに行くのか も尋ねて来なかった。

__ただ何か吹っ切れたような顔をして海月を眺めていた。

幸いにも人が少ないトイレの、1番奥の個室に入り鍵をかけた。

ドアを背にして しゃがみ込んだ。

鏡を見なくても自分がどんな顔をしているか分かる。 ____夢じゃない。

口に手を当てて呼吸を落ち着かせる。

………意味分からん

私の震えた声は 吐き出したそばから空気に溶けていった。

意味が分からない。 脈絡が無さすぎて急展開すぎる。

本当に意味が分からない。 「少し時間が欲しい」なんて

答えなんて ずっと前から出てるのに。

返事なんて あの3文字で充分なのに。

なにを求めているんだろう。

__あの人が塾に行くまでの短い距離を埋める話し相手__ それ以上 なんて求めてはいけない。

偶然に偶然が重なって話すようになっただけ。それだけ。

高校に行って大学に行って……きっと私より素敵な女性に出会えるはずだ。

6歳も年が離れてて、流行りにも あまり乗れない私では釣り合わない。相応しくない。

傷つくだけ。そんな傷は負いたくない。

きっと立ち直れない。

答えはずっと前から出てるから。

___呼吸が落ち着いてきた。

ノーと言わないといけない。

私と貴方の為に。

足取りは自然と ゆっくりになった。

私はちゃんと平静を保てるのだろうか。 ちゃんと返事が__

____ふと足の裏に違和感を感じた。

足元を見ると、何かを踏んでしまったらしいことが分かった。

拾ってみると小銭入れだった。結構な量が入っている。

落とし物はどこに預けたらいいのか考えていると___

もぉ ちゃんと探してよ!

吉田クンのせいで小銭入れ落としたんだからね!3000円入ってたんだから!

前方から 派手な服装とメイクの女性が喚きながら歩いてきた。

隣を歩く男性は、しきりに頭を掻きながら困ったような笑みを浮かべている。

いやぁー……でもここにはないんじゃないかなぁー……

絶対にここで落とした!いいから探してよ!

会話の内容から察するに落とした小銭入れを探しているようだ。

私は さっき拾った小銭入れを持って彼らに近づいた。

あの、お探しの物ってこれですか?
さっき拾ったんですけど

女性は 私が差し出した小銭入れを指差して大袈裟に喚いた。

あーーーーー!あった私の!

ほらぁ!やっぱりここに落ちてたじゃない!なにが「ここにはないんじゃないカナぁ」よ

ホンッッット使えないんだから!

探し物が見つかった安堵からか 普段から思うところがあったのか

女性は こっちが気の毒に思うほど男性を罵った。

男性は しきりに頭を掻きながら愛想笑いを浮かべているが、笑みはひきつってる。

よく耐えてられるなぁ、と思っていると男性の頭を掻く手が止まった。

いやぁー……えっと…………

………………騙されてるよレイナちゃん

はあ?

男性は愛想笑いを納めると私を指差した。

こ、この人が……この人が盗んだんだ!

はあ?

思わず声が出た。 ___そんなにも彼女に気に入られたいのか…

拾ったとか言ってるけど
ざ、罪悪感に耐え切れなくなったんだろ!?

お、お、オレ あんたがその小銭入れを鞄に入れてる所 み、見たんだからな!

レイナちゃん騙されたら駄目だ。この人は泥棒なんだ!

「彼女の財布を盗んだ悪者を弾劾するカッコいい自分」を演じるのに熱が入ってきたのか

男性の声のボリュームはどんどん大きくなる。

け、警察に通報してもいいんだぞ

誠心誠意心を込めて しゃ、謝罪したら今なら許してやる

____なんで私が謝らなあかんの

そろそろ面倒臭くなってきたので刺々しい声が出た。

私の反論に男性は顔を歪めて、ひときわ大きな声で喚いた。

関西弁!
レイナちゃんこの人関西人だ!

お、お母さんが言ってた。関西の人はケチで図々しいって!

他人の物でも平気で横取りするんだ!

___また か。

中学の時から幾度も味わってきた 胸が引き裂かれるような感覚_____。

「次の音読あの人からだよ」 「お楽しみタイムじゃん」 「アンタいつも笑いすぎだから」 「次の音読は私語厳禁だからね!」

「あーーやっぱりネットで見た通りだ。[雨]の発音違うね。[め]が高い。もう1回言ってみて。 いーーーよ。無理に標準語にしなくて。逆に変だから」

「相原さん関西なの?じゃあ あの挨拶してる?[儲かりまっか]って。 え、それヨシムラ新喜劇だけ?何マジレスしてんの。ノリ悪いな関西人のくせに」

_____嫌な思いも不快な思いも沢山してきた。

「無理に ここに留まる必要はない」 「望むなら関西の学校に進学してもいい」

高校、大学と進学するたびに両親から そう言われたけど 様々な理由でその申し出を断った。

自分を理解してくれる親友が出来たから。 こっちの学校の方が魅力的だったから。

こんな人達に「逃げた」と思われたくないから。

_____きっと こういうところも 、あの人と釣り会わへん一因なんやろな

今までの話と

私が関西人なことは関係ない。
勝手な思い込みで私を定義しないで

い、いいから謝れよ!

興奮気味の男性は私の肩を強く押した。

思いがけず強い力で、バランスを崩しかけた私を

誰かが後ろで支えた。

なん……なんだよお前

振り返らなくても誰か分かった。 耳の近くで聞き慣れた声が通過した。

山崎孝太

女性に簡単に手をあげるのは

山崎孝太

「ケチで図々しい人」より よっぽど最低だと思いますよ

彼の声は薄暗い館内に浸透していった。

「確かにアレはひどい」「すぐ暴力に訴えるのマジ無理」 あちこちで控え目な声が上がる。

気づかなかったけど、私たちのやり取りは結構注目を集めていたらしい。

周りから非難の目を向けられて、ようやく男性も我に返ったようだ。

ずっと隣にいた女性が不機嫌な顔で 男性の服を引っ張った。

マジ何やってんの

こんな注目浴びて…信じらんない

女性は男性を引きずるようにして去って行った。

山崎孝太

納得出来ないです

山崎孝太

関西弁を喋っただけで どうしてあんなに言われないといけないんですか

ここ関西ちゃうし

同じ日本語でも違うモンは違うんやろ

今に始まったことじゃないし

____でも時々 皆同じ言葉遣いやったら楽やのになって思う時はある

山崎孝太

____俺は関西弁だからって線引きしたりしないし

山崎孝太

「ケチで図々しい」とかそんな偏見持ってないです

山崎孝太

俺は普通に

普通に?なに?

山崎孝太

あー………えっとなんでもないです

怒らへんから正直に言ってみ

山崎孝太

……それで怒らなかった人見たことないですよ

山崎孝太

えっと……………俺は普通に

山崎孝太

…………かわいいと思います

……一般論の話な。びっくりした

よぉそんな恥ずかしいセリフ言えたな

山崎孝太

………正直に言えって言ったじゃないですか

私はズルい人間だと思う。

答えなんて決まってるのに保留にして

釣り会わないって分かってるのに

さりげなく彼女が居ないか聞いて、彼女が居ないと分かった時も 今こうやって慰めて貰った時も

嬉しかったんだから。

捨てないといけないのに、また手繰り寄せてしまった。

たくさん笑った。

涙が出るほど笑った。

間違いない、と確信した。

夕日が白い「ハート石」をオレンジに染めている。

時刻は5時半を回っている。 のぞみ達と合流して夕食を食べにいくことになった。

水族館を出てみたけど、まだ のぞみ達は来ていない。

「ハート石」の近くに設けられているベンチに腰掛けたけど

私も孝太君も「そこ」に行こうとはしなかった。

夕日が照らす中、「ハート石」の前で記念写真を撮るたくさんの人を眺めながら

呟くように声を出した。

___なんで私なん?

今は中学生でもメイク上手い人いるやん

なんで流行りにもあまり乗れてない、6歳も年上の私を選んだん?

山崎孝太

俺を変えてくれたからです

山崎孝太

あの横断歩道で出会えたから、俺は自分が正しいと思ったことを行動に移せたんです

__じゃあ、あの時、私じゃない人が老人を助けてたら、その人を選んだってこと

山崎孝太

それは違います

即答したことが気になって横目で孝太君の様子を伺うと、孝太君も私を見ていた。

山崎孝太

澪さんじゃなかったら あんなこと言わない

息を吐いた。 自然と笑みが漏れた。

いいの?

本気にするで

孝太君も同じような笑みを浮かべて頷いた。

じゃあ結論教えてあげる。耳貸して

山崎孝太

俺耳弱いんですよ。耳じゃないと駄目ですか

うん。貸して

山崎孝太

……………わかりました

密やかに言葉を紡いだ。 貴方だけに聞こえるように。

好きです

山川のぞみ

ごめーーん。待った?カピバラが逃がしてくれなくて

山川のぞみ

____なんかあった?

まぁいろいろ

___5時半に集合しようって言ったのにもう6時やで

山川のぞみ

もう本当カピバラが……ごめんね

罰として写真係になってや

撮りたい写真があるから

山川のぞみ

了解したであります

私は のぞみにスマホを預けると

孝太君の手を引いて「ハート石」へと歩き出した。

女子大生と男子中学生が交際している話

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コメント

11

ユーザー

良かったです…! 本当に良かったです…!!! 孝太君も澪さんもおめでとうございます😭   そして、非リア弟さんのお話ならどんなに長くても全く疲れません 長いとすら思いません

ユーザー

澪「作者がビクビクしてんねん。ちょうどいい長さの物語を作る為に100~130タップで話を作るってルールが一応作者にはあるんやけど 最近破りまくってるから。(今回182タップ)そろそろ読むの疲れるな~って思われてるんじゃないかって作者がビクビクしてる。 次回は番外編やで!読んでくれてありがとう!」

ユーザー

(」’ω’)」オォオォオ!!!ウウゥゥアアォオo(  '-' )ノ)`-' )ボコッ すみませんでした

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