──私には、いつも試練ばかりだった。
家に帰ったら、模試の結果を無理やり奪い取られ、
ここが駄目だ、とか。
どうしてお前はできない子なんだ、とか。
そういう事を永遠に聞かされていた。
…田舎だった。
そう、田舎……。
私の住んでいる地区にある高校は1つだけ。
進学校を歌った、公立高校だった。
勿論、「普通科」。
両親は、私が幼い頃から、
ここへ行け、私達の代わりにここへ行け、と、愚痴を擦り付け、
私の進路を勝手に描いていた。
…私は、それが当たり前だと思っていたから。
言う通りに良い子になり、
参考書を網羅した。
……自分勝手な両親だけの為に。
そんな生活が変わったのは、
留守番中に見たテレビだった。
そこに映っていたのは、透き通った綺麗な硝子作品。
子供の心のように、無垢で、純粋なそれは、
私の心を奪い去るには十分だった。
両親の隙を見て、図書館で「芸術」について学んだ。
高校も、調べてみた。
そうして、「冬華宮高等学校」に辿り着いたのだ。
だが、そこは私立。
「芸術科」、「国際言語科」、「理数科」の3つの学科で構成された所だった。
……私は、行きたかった。
けれど、その期待の裏には、
両親の顔がベットリとこびりついている。
ある日、勇気を出して相談してみた。
被害を被ったのは、
高校のパンフレット。
皿が2枚。
左右の頬だった。
それでも、私は彼らの思い通りになんて死んでもなりたくなかったから。
必死に、毎日、怒鳴られても、
両親を説得し続けた。
……そして、
見限ったように、「勝手になさい」と、
了承を貰ったのだ。
嬉しかった。
油断したら泣いてしまいそうだったから。
もう、両親の望まない子供として振舞った。
学費は、自分でどうにかしなければならなかった。
幸い、努力は得意だった。
見事、特待生として入学することが出来たのだ。
来る日も来る日も、必死に努力したから、
技術は高い方だと思った。
皆も、「天才だ」と口を揃えて言ってくれた。
私は、そんな言葉に踊らされていたのかもしれない。
……この人に出会うまでは。
海月
那谷寺 海月。
副部長だった。
浮かれていた私は、その受賞した作品がどのようなものか気になり、興味本位で掲示物をチェックした。
……その作品を見た瞬間。
彼女が、「天才」だと知ったのだ。
天才、天の才。
そう、生まれながらにして芸術家なのだ。
私がどれだけ描いても、届かない。
天の上の存在だったのだ。
だから、より一層努力した。
天才になる為に。
私の進む路が間違っていないことを証明する為に。
飲料ゼリーで一日をすごしたこともあった。
足りない。
足りないんだ、今の私では。
……努力しないと。
追いつかないと。
……両親に、合わせる顔がないではないか。
───あぁ。
結局、そこに落ち着くんだ。
何て、
何て愚か者なのだろう。
私は、
私が、
夢を見ていなければ─────
寧々
寧々
鮎
鮎
寧々
寧々
鮎
寧々
寧々
鮎
不意に、誰かに真実を告げられた様な気がした。
私は思わず伏せていた目を寧々へ向ける。
寧々
寧々
鮎
私は、努力してここまで上がってきた。
それでも、上には上がいた。
届かない、雲の上の地に存在する「天才」が。
私は、「天才」じゃない。
……なら、
鮎
寧々
鮎
寧々
鮎
鮎
その言葉を言った瞬間。
私にまとわりついていた何かが消え去った。
……あぁ。
そうだ、私は「秀才」だ。
地位に追いつきたい訳では無いんだ。
ただ、好きになった夢を、追い「続け」たいんだ。
その本音を認めさせてくれたのは、貴女だったのよ。
ミラーワールド「美術室」
突然、鮎が隠れている部屋のドアが叩かれる。
鮎
鮎
海月
鮎
鮎
恐る恐るドアの隙間から声の主を見る。
正真正銘、「那谷寺 海月」だった。
海月
鮎
鮎
鮎
先程まで鮎を追っていた人物は、
バラバラに砕け、地面に転がっていた。
鮎
海月
海月
鮎
海月
鮎
海月
鮎
鮎
海月
鮎
鮎
海月
鮎
状況までは理解できなくとも。
鮎なら、寧々に何かが起こっていることを察してもおかしくないだろう。
彼女達は足早に美術室を去った。
異世界研究部 部室前
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
この世界に来てから、私だけ皆と離れ離れになってしまっていたが、
それも、彼女の「無意識」の策略の1つなのだろうか。
かれこれ15分はこのドアの前に立っているが、
鏡合わせが出てくる様子もない。
寧々のドッペルゲンガー
その時。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
よく見れば遥斗の他にも、寧々の知った顔が沢山歩いてきていた。
珀
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
珀
珀
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
庵
海月
寧々のドッペルゲンガー
海月
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
優
珀
珀
遥斗
遥斗
寧々のドッペルゲンガー
遥斗
寧々のドッペルゲンガー
遥斗
平然とした寧々に驚く遥斗。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
庵
庵
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
珀
珀
優
珀
言葉に合わない笑顔でそう告げるやいなや、
珀は躊躇いもなく部室のドアを開く。
中の様子が顕になる─────。
一見すると、ただの部室だった。
その部屋の隅から、何かが飛んでくる。
庵
庵
庵が避けると、「それ」は壁で跳ね返り、「カラン」と金属音がした。
遥斗
優
珀
寧々のドッペルゲンガー
海月
その時、再び机が海月に向かって飛んでくる。
海月
ガンッ
優
優
遥斗
優
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
そう私が懸念すると、
遥斗は眩しいくらいの笑顔で応える。
遥斗
遥斗
優
寧々のドッペルゲンガー
遥斗
優
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
珀
珀
珀
珀
海月
庵
足早に、私達は奥へ向かっていく。
優達は改めて、ドッペルゲンガーの人数を確認するが、
一体いつの間に集めたのだろう。
大勢のドッペルゲンガーが、優達目掛けてノロノロと歩いてきていた。
遥斗
優
優
遥斗
不意に、横から聞こえた言葉に優は驚いて顔を向ける。
壊す……本人でなければ意味が無いが、無力化はできる。
だが、壊す=殺す、だ。
そんなことを平然と言った遥斗に少し驚いたのだった。
優
遥斗
一瞬、遥斗は僕へ目を向ける。
……あぁ、此奴、本気だ。
優
遥斗
優
2人は、目の前の軍団と向き直る。
何時になく、真剣な眼差しで。
どこから持ち込んだのか分からない。
そんな机が床や壁を成し、寧々達を妨害している。
普段なら秒でたどり着いた扉にも、
地形やドッペルゲンガーに絡まれ足止めされていたが、
何とか、近くまで来ることが出来た。
寧々のドッペルゲンガー
───その刹那。
バチンッ
急に辺りが暗闇に包まれる。
寧々のドッペルゲンガー
「証明を消された」と一行は確信する。
寧々のドッペルゲンガー
珀
庵
ヒュンッ
ガシャーンッ!!
寧々のドッペルゲンガー
突如、硝子の割れるようなけたたましい音が鳴り響く。
海月
辺りを探ろうと、海月が手を動かすと、
海月
声にならない悲鳴を上げた。
寧々のドッペルゲンガー
その時には、丁度暗闇に目が慣れてきた。
……否、慣れてきてしまっていた。
そこに居たのは────。
寧々のドッペルゲンガー
庵
腹部から鮮血を流している庵だったのだ。
珀
珀
庵
寧々のドッペルゲンガー
庵
寧々のドッペルゲンガー
庵
珀
珀
ヒュンッ
寧々のドッペルゲンガー
珀
見れば、珀は降り掛かってきたナイフを叩き落としていた。
珀
庵
庵
庵
そうすると、暗闇からある人物が出てくる。
緑髪で。
その姿は優に酷似していたが、
目つきは鋭く、殺気を纏っていた。
……優のドッペルゲンガーだ。
だが、それだけでは無い。
珀にナイフを振りかぶったもう1人の人物も出てくる。
狂気を感じさせる笑顔。
遥斗のドッペルゲンガーだった。
ここで────
電気がついた。
遥斗のドッペルゲンガー
珀
寧々のドッペルゲンガー
遥斗のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
庵
優のドッペルゲンガー
優のドッペルゲンガー
珀
珀
ドンッ
寧々のドッペルゲンガー
私は突然、背中を押される。
寧々のドッペルゲンガー
珀
珀
珀
庵
珀
珀
寧々のドッペルゲンガー
鮎と私は、ドアの前まで移動する。
珀
そう言うと珀は海月の方を見る。
海月
珀
庵
珀
珀
海月
3人は一斉にドッペルゲンガーに向かって走り出す。
きっと夢だって、何度思い込んだだろう。
無惨にも、目の前の情景はその思惑を否定している。
……貴女が、本物なの……?
ドアに手をかけようとする寧々。
そんな彼女に、「鮎」は話しかける。
鮎
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
にこやかに笑いかけてくれた。
鮎
寧々のドッペルゲンガー
鮎
鮎
分かってる。
私でも、最低なことを言っているということを。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
鮎
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
鮎
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
鮎
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
鮎
鮎
聞いたところによれば、
私が今まで親しくしていたのは、鏡合わせのドッペルゲンガー。
目の前の彼女は、確かに物凄く丁寧で、
壮絶な思いをしてきたのに、それを感じさせず、
私を導いてくれている。
鮎
あぁ。
私は、ずっと焦がれていたのかもしれない。
好きなことを好きだと言える貴女に。
自由に生きている貴女に。
……
鮎
そう。
叶わないし。
敵わないのだ。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
鮎
鮎
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
鮎
寧々のドッペルゲンガー
鮎
鮎
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
鮎
そして、ドアを開ける──────
───白く。
何処までも、何も無い空間だった。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
何も無い空間だから、最初は逆に目につかなかった。
その空間の奥に、人影が見える。
寧々のドッペルゲンガー
彼女に背を向けてたっている人物は、
彼女が、1番よく知る者だった。
寧々のドッペルゲンガー
ポツンと、ただ1人。
「孤独」な「孤高」で、独り立っている。
寧々のドッペルゲンガー
思わず、彼女は駆け寄る。
寧々のドッペルゲンガー
手を伸ばそうとした、その時─────
視 界 が 、 暗 転 す る 。
────テレビを観ているようだった。
私は、第三者視点からこの風景を見ている。
そこは、彼女が嫌ほど「体験」したある家の一室。
ドアを3度ノックする音が聞こえ、そこから緑髪の少女がそっと顔を出す。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
スタイルがいい、と
痩せている、は違う。
彼女は後者だった。
そんな身体でも、まだ脆い希望を持っている瞳で、
枝毛の目立つ、ボブの女に話しかける。
寧々のドッペルゲンガー
寧々
細く高い声でそう話しかけるが、
視線はテレビから動かなかった。
寧々
そう言って綺麗に筒状にされた紙を取り出す。
寧々
もたつくて手で紙を広げると、
可愛らしい色のクレヨンで、数十本の線が描かれていた。
寧々のドッペルゲンガー
依然として、女はテレビを観て、
無駄にパーティー開けられたポテトチップスを食べている。
寧々
寧々の母
寧々
寧々
寧々
バンッ
寧々のドッペルゲンガー
意識に映る視界だけのはずが、
予期せぬ大きな音に、身体が思わず強ばる。
寧々
わっと、彼女は泣き出してしまう。
見れば女が筒のようなものを持っている。
炭酸の抜けた飲料が入っている、ペットボトルだった。
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
大きな泣き声を出している彼女だが、
寧々の母
寧々
物凄い剣幕の女の声で掻き消される。
寧々の母
寧々の母
寧々の母
寧々
抵抗する彼女から髪を取り上げる。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
ビリッ……
無惨にも、「紙切れ」は彼女に降りかかる。
彼女は唖然と、何も出来ずにその光景を眺めている。
寧々の母
寧々の母
寧々の母
汚れたゴミ箱を乾燥した指でさす。
その中には、コンビニのご飯と、
お菓子と、
「懇談会」のプリントと
……。
「彼女の希望」が無造作に詰められていた。
寧々
彼女は絶望感の溢れる顔をしたが、
それも、一瞬のことだった。
寧々
ボソッと、呟く。
寧々の母
ドスの効いた声で女がジロリと振り返るが、
彼女は気にしない。
寧々のドッペルゲンガー
寧々
ビリビリと、脳内に響くような、
呪いの籠った声。
それなのに、彼女の顔は恐ろしく冷静で、
かえって恐怖をひきたてていた。
……何かが割れるような音が響く。
寧々のドッペルゲンガー
何も知らないような、何が起こったのか分からないような顔の女が、
頸と離れて、ゴミだらけの床に転がっている。
それに衝撃を受けたのは他でも無い。
寧々
寧々
寧々
寧々
大粒の涙がゴロゴロと頬から転がり落ちる。
寧々のドッペルゲンガー
そこで、視界は暗転する。
ガチャッ
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々
少女は無言で台所に行き、
コンビニのサンドウィッチを食べる。
そして────
ガチャ
乱暴に扉を開ける音がする。
寧々のドッペルゲンガー
さっき、バラバラになっていた女が出てきた。
そのまま、ソファーに座り、テレビを見始める。
寧々
女は答えない。
少女は頼りない背中で、玄関から出ていった。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
なんで
どうして
むししないで
ぶたないで
「易しく」しないで
怖いから
でも私に煙草を突き刺さないで
見捨てないで
どうして
頼って
しまうのか
こんなに
こんなに
汚れた
憎悪と
哀に
塗れて
なのに
なのに
1人が
独りが
こわい
こわい
こわいよ
翌朝には
みんな、みんな壊れてる
私の
私の所為で
バラバラな
赤と黒の
硝子の破片で
瘡蓋を作る
でもね
痛いの
夢じゃないの
逃げられないの
だって
次の日には
何事も無かったかのような
雑言と
暴力と
愛が
続くんだから
憎い
この世界と
私と
皆が
憎い
憎い
憎い
憎い
憎い
寧々のドッペルゲンガー
そこは、暗く、黒い空間だった。
空気が重い。
彼女の前に、ふと何かが見える。
寧々のドッペルゲンガー
「影」だ。
彼女を象った影だった。
恨みの籠った声で、彼女に向けて言う。
ヒュンッ
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
彼女の頬を、何か鋭いものがかする。
何かは分からない。
ただ、ズキズキと深い痛みがして、
生暖かい何かが流れていくのはわかった。
寧々のドッペルゲンガー
怖い。
でも不思議と、「逃げたい」とは思わなかった。
寧々のドッペルゲンガー
最初は、ゆっくりと。
少し進んで、早歩きに。
やがて、その影に向かって走る。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
至る所が硝子で切れている。
それでも、足を止めない。
止めてしまったら────。
もう二度と、追い付けない気がしたから。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
そう言って、手を伸ばす。
血だらけの、切り傷だけの手を。
亜矢乃 寧々、に。
「私」に。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
そう言って、私は
影の手を掴む。
……刹那、闇が晴れる。
寧々のドッペルゲンガー
もう、ボロボロだ。
寧々のドッペルゲンガー
目と鼻の先に、寧々がいた。
彼女が、顔を上げる。
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
そのまま、視界は白く染っていく。
「───い」
「おい!」
「寧々、寧々!!」
「遥斗、うるさい」
「息してるって」
「これは、大丈夫なの、かしら?」
「あ、部長達来た」
寧々
そんな感じで、皆は口々に何かを叫んでいる。
……私は、帰ってきたのだ。
優
遥斗
遥斗
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々
寧々
寧々
珀
庵
寧々
珀
珀
珀
寧々
庵
海月
庵
庵
寧々
遥斗
寧々のドッペルゲンガー
庵はそこで深刻な顔をして、
「最適解」について説明する。
寧々
寧々
珀
寧々
庵
寧々
何も言えぬまま、彼女らは鏡の前に立つ──────
……はずだった。
鮎
鮎は慌てて隣を見る。
そこには、珀と庵が立っている。
まるで、「彼らも一緒に行く」とでも言うように。
庵
庵
そして、庵は困惑した声色で前方を見る。
そこには────
寧々
鏡とは反対側に立つ寧々がいた。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々
海月のドッペルゲンガー
遥斗
優
優
寧々
寧々
寧々
一同が息を飲む。
庵
庵
庵
寧々
寧々
庵
寧々
寧々
寧々
鮎
寧々
鮎
寧々
寧々
寧々
そう言って、笑う。
「何も、怯える必要は無い。」とでも言うように。
庵
そう言葉を続けようとする庵の口を塞ぐ者がいる。
珀
珀
庵
庵
庵
諦めたような顔をする。
寧々
鮎
寧々
鮎
寧々
そうして、鮎は鏡に飛び込む。
遥斗
優
寧々
寧々
優
優
寧々
遥斗
優
優
寧々
そう言って、彼らも現実世界に帰っていく。
海月も、珀も、庵も別れを告げ。
残ったのは、1人。
「亜矢乃 寧々」だった。
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々のドッペルゲンガー
痺れを切らしたように言う。
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々
寧々
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々のドッペルゲンガー
寧々
そのまま、勢いよく後ろに向き直り、
鏡の中へ消えていく。
少し舞った、輝く涙を残して。
寧々
寧々
……私だから、出来ること。
これが、最適解かは分からない。
でも────
割れて、全部壊れても。
皆と過ごした時間は、
鏡を隔てても、決して変わらないものだから。
……勢いよく、硝子を割る。
途端、世界が傾く。
世界に、私の身体に、ヒビが入る。
痛くは無かった。
ただ、眠るように、
頬に伝う優しさを感じながら、
私はそっと、目を閉じた。
……ある日の放課後。
数人のグループが、和気藹々としたビル街を歩いている。
後方を3人並んで歩いている、内の緑髪の少女がそう話していた時。
コツンと、音を立てて足に何かが触れる。
……それは、綺麗な硝子玉だった。
サッと顔色が変わり、
慌ただしく周囲を見渡すと、
路地の方に、大きな袋を抱えた少女を見つける。
そう言って、控えめに、だが嬉しそうに微笑む。
それを聞いた緑髪の少女は、
ひとりでに涙をこぼす。
泣き顔の赤い目で、目いっぱい笑って見せた。
つられて、私も笑顔になる。
その時、ふと頭にとある声が浮かぶ。
それは、私の声では無い。
…彼女に似た声だった。
「おまたせ」
「ほら、また逢えたでしょ」
───鏡の孤高から、彼女は此方にやってきた。
「愛」を知りに、「友」を知りに、やってきた。
これは、誰かが体験した不思議な話。
自分の鏡合わせと、出逢う話。
その物語は、世界中に語られることは無い。
小さな規模の部活で、菓子を食べながら、
他愛の無い会話の中で話されるだけの物語。
何故なら、
この「奇跡」を知っているのは、
世界でたった、数人しか知らないのだから。
鏡の孤高より
END
コメント
3件
硝子の孤高より 完結です.ᐟ.ᐟ リアルが忙しく、終わらせられるか不安でしたが、無事物語を書き終えることが出来たので良かったです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈) 今回は第2回テノコンに参加させていただきました。 最後まで見てくださった方、ありがとうございました🍬🍭🌧