この作品はいかがでしたか?
15
この作品はいかがでしたか?
15
「ただいま」
って。
返事もないのに、
もう、何度も。
繰り返してしまうの。
いっその事、
「病気です」
って。
言って欲しかった。
あの日の
口。
君は、
海を見ては、
「綺麗だ」なんて。
私の横で、そう言うの。
少し開きっぱの、
窓から、頬を撫でる、
海風が、瞬きさせる。
独りきりの車両で、
想いを馳せる。
「最期は、海に行きたい」
君は、そう言って笑ったの。
私に初めて見せる、切ない顔。
それでも、明るく振舞って。
「大丈夫だよ」
「愛しているよ」
いつか終わる時間をそれで費やした。
君は、私と反対に歩いていく。
繋いだ、手の。
骨の感触を忘れられない儘で───。
────砂時計から、
零れた「哀」が、
あの海水に飽和する。
まだ、肌寒いあの春のこと。
吹いた「1番」に哀の後処理を任せて。
桜は、散る。
そして別れが、訪れる。
急いで掴んだ、淡い空色の、
シャツが脳内に遺っている。
ずっと、進んできたのに。
世界は、君に優しくなくて。
管いっぱいの君はそれでも、
「愛してる」と言ってくれたのに。
最期になって。
結局は「ごめんね」って。
「愛してた」って
涙と共に膜をおろして。
「……嘘つき」って、私は笑って。
そのまま部屋を後にしたの。
遺った、のは。
もう葉桜。
愛が終わって、
哀が始まって。
現が終わって、
「幻」 が は じ ま る の 。
────隣に、立っていた君は。
嘘だったのかな。
狂ってたのは、
私だったのかな。
あの日、海に撒いた骨。
1つ奪い去って。
指輪にしてるの。
「綺麗でしょう」
君が愛した「海」だよ。
───ね、逢いに行くね。
じゃ、
お元気で。
また。
コメント
3件
また帰ったら、 「おかえり」 そう言って君は言ってくれる。 そうでしょ? じゃないと 泣いてしまうよ。