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また帰ったら、 「おかえり」 そう言って君は言ってくれる。 そうでしょ? じゃないと 泣いてしまうよ。
「ただいま」
って。
返事もないのに、
もう、何度も。
繰り返してしまうの。
いっその事、
「病気です」
って。
言って欲しかった。
あの日の
口。
君は、
海を見ては、
「綺麗だ」なんて。
私の横で、そう言うの。
少し開きっぱの、
窓から、頬を撫でる、
海風が、瞬きさせる。
独りきりの車両で、
想いを馳せる。
「最期は、海に行きたい」
君は、そう言って笑ったの。
私に初めて見せる、切ない顔。
それでも、明るく振舞って。
「大丈夫だよ」
「愛しているよ」
いつか終わる時間をそれで費やした。
君は、私と反対に歩いていく。
繋いだ、手の。
骨の感触を忘れられない儘で───。
────砂時計から、
零れた「哀」が、
あの海水に飽和する。
まだ、肌寒いあの春のこと。
吹いた「1番」に哀の後処理を任せて。
桜は、散る。
そして別れが、訪れる。
急いで掴んだ、淡い空色の、
シャツが脳内に遺っている。
ずっと、進んできたのに。
世界は、君に優しくなくて。
管いっぱいの君はそれでも、
「愛してる」と言ってくれたのに。
最期になって。
結局は「ごめんね」って。
「愛してた」って
涙と共に膜をおろして。
「……嘘つき」って、私は笑って。
そのまま部屋を後にしたの。
遺った、のは。
もう葉桜。
愛が終わって、
哀が始まって。
現が終わって、
「幻」 が は じ ま る の 。
────隣に、立っていた君は。
嘘だったのかな。
狂ってたのは、
私だったのかな。
あの日、海に撒いた骨。
1つ奪い去って。
指輪にしてるの。
「綺麗でしょう」
君が愛した「海」だよ。
───ね、逢いに行くね。
じゃ、
お元気で。
また。