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:(´◦ω◦`):ヒェッ… こりゃあ誰かが死ぬな(当てずっぽう)
その日はいたって普通の、いつも通りの月曜日だったはずだ。
夢なんかじゃない。
だって、アラームの音や、眠気、お母さんの声、朝ご飯の味、空の色……全部鮮明に憶えている。
でも、その日は……いつもの月曜日ではなかったこともまた事実なのだ。
だから、もう少し……大事にすれば良かったな。
ピピピピピ、ピピピピピ……。
どこからか、アラームの音が聞こえる。
私は布団の中に潜り込み、耳障りな音が聞こえないようにした。
これでずっと寝られる。おやすみ今日。また明日────
なんて、都合よくはいかないけれど。
再度アラームが鳴る。スヌーズ機能が無事作用したようだ。
それは喜ぶべき事態なのだけれど、何分毛布とお友達の私は、ここから動きたくないわけで……。
眼を擦り、掛け時計の針を注視する。
時刻は午前六時十五分。
そろそろ起きないと遅刻する。
気合いを入れて上体を起こし、私は制服に着替えた。
麗美(れみ)
お母さん
台所で作業しているお母さんに挨拶し、私は洗面所に駆け込む。
寝癖なし。目の下の隈なし。……よし、最低限の身嗜みは大丈夫。
髪は適当に一つ結びにする。
今日は少し、位置を高めにくくってみようかな。気分上げたいし。
鼻歌を歌いながら地味な色のゴムを取り出し、結い上げる。
我ながら完璧。誰がどう見ても綺麗なポニーテールだ。
リビングに戻って、トーストに齧り付く。
お父さんはもういない。相変わらず仕事が早いのだろう。
甘い苺の味が口一杯に広がる。時間があればバターを一欠片のせてるのだけれど……今日は無理だ。
そんな悠長なことをしていたら、確実に朝練に間に合わない。
無言で、かつスピーディーにトーストを食べ進める。
世の高校生のほとんどは、私と同じで、朝ご飯を味わう余裕なんてないだろう。
トーストを食べ終え、牛乳をコップに注ぐ。
この習慣がどれだけ私の身長を伸ばしてくれるかは知らない。
まぁ、いずれ分かってくることだ。結果が出るのをゆっくり待とう。
伸びろ身長。伸びてくれ身長。頼む身長。
いつも通り牛乳に向かって私が願いを捧げていると、いつの間にかお母さんが目の前の席に座っていた。珍しい。
お母さん
麗美(れみ)
お母さんはいつにもなく深刻そうな顔をしている。
まさか……お弁当作り忘れちゃったとか?
それは重大案件だ。死活問題ともいう。
お昼なかったら私死んじゃうよ……!
お母さん
麗美(れみ)
私の心配は杞憂に終わったらしく、お母さんは私に古いお守りを渡してきた。……本当に何これ。
お母さんが私に渡したのは、『異世界守』というお守りだった。
異世界……安全航海のお守りか何かだろうか。それにしても何で今?
お母さんはやはり真面目な表情で、そのお守りを私の手に握らせた。
お母さん
お母さん
お母さんがここまで言うのだ。何かあるのだろう。
……またお母さんが新手の詐欺に引っ掛かってる可能性もゼロではないけどね。
私が中々受け取らないことを不安に思ったのか、母が不安そうな表情になる。
正直気は進まないけど……仕方がない、鞄にでも付けるか
麗美(れみ)
麗美(れみ)
お母さん
お母さん
麗美(れみ)
麗美(れみ)
水筒とお弁当をリュックに詰め、靴を履いて、私は家を出た。
家を出たところで、空を仰ぎ見る。
清々しいこの空色は、もうすぐ夏が訪れる色だ。
この空は嫌いじゃない。
月曜日でも、頑張ろうと思える。
それから私は家の方を振り返った。
いつもお母さんはお見送りをしてくれるのだ。
もう子供じゃないから、良いって何度も言ったけど、今日もやはり笑顔で手を振るのだろう。
そう予感して、振り返った私は……硬直した。
──お母さんが、泣き崩れている。
何で、どうしてといった言葉が、私の頭の中をぐるぐると駆け回る。
この短時間で、お母さんが何かに傷付いていることは明白だった。
だって昨日の夜までは、さっきまでは、普通だったのに。
……とりあえず、このままお母さんを放ってはおけない。
そう思い、お母さんの元へと足を踏み出し──否、私は踏み出すことができなかった。
地面がガラガラと崩れ去っていく。視界が白に、染まる。
黒一色に、なっていく。
息もできない。温度も感じない。
暗く黒い世界に、一人だけ放り出されたようで、怖い。
お母さんは大丈夫だろうか。
私だけが、こんなところに取り残されたのだろうか。
私の疑問も、真っ黒な闇の中に沈んでいく。
目が霞む。手の動かし方が分からない。体の感覚がない。
段々、意識も、うすらいで……
私はずぶずぶと、暗いところに沈んでいった。