戸狩が指輪をつけた話

俺の名前は戸狩玄弥、最近ごっつトラブルに遭遇しとる天王寺組の極道や。

新しく指輪買ってん、ちょっとお高めのやつでカッコつけたかったからな。どこの指にはめても同じやと思て、左手の薬指に着けといた。

時計見たら、電車乗り遅れそうやったから急いで家出た。

そんなことを期待しつつ、荷物を持って家から出た。

渋谷が挨拶すると、途中で固まってしもうた。目線の先を見てみると、俺の左手やった。

大声でそう言う渋谷に、ここにいる全員の視線が俺に集まる。

そう言って、渋谷は涙をぽたぽたと流しながら、手で拭っとった。

そう泣きながら言うてくる渋谷に俺は戸惑った。なんでアクセつけただけで結婚してるって思われんねん、おかしいやろが。

そう言うと、今度は室屋が近づいてきた。この時点で嫌な予感するんやけど、もう嫌やわ。

ぽかんとした顔に近い岸本が、そう聞いてくる。そら兄貴がいきなり報告もなしに結婚式なんか驚くやろうけど、俺未だ独身やぞ。

様子を見ていたのか、馬渕が呆れたような困ったような顔で言ってくれた。

その途端、渋谷が馬渕に歩り、がっしりと両肩を掴んでいた。それに馬渕は戸惑いつつも、動かずにいると…

とにかく辞めてくれと話していると、椎名が来た。

こいつも信じてまうのか？と思っとったら、ちょっと黙り込んだ。

みんな怪訝な顔してこっちを向いてくる。まさにその通りなんやけど、よく調べればよかったわ。

こう言うと、みんなポカーンとした顔して、渋谷に至っては放心状態に近かった。

その言った通り、指輪を別の指にはめた。そうすると、みんな安堵したのか大きく息を吐いとった。

呆れたような顔で言ってくる椎名に、ちゃんと首を振っておいた。

言う前に深呼吸をして、みんなの方に真剣な眼差しをおくってみる。

そう言うと、その場にいたメンバーが黙り込んで真顔になってもうた。