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紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
病室から窓を見て、彼女は言う
そこの窓には真昼の積乱雲が映り込んでおり、
雨が降りそう。そう言って、彼女は微笑んだ
冬真
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
冬真
紫乃
なにそれ。
言い終えると、彼女はまた、大きな雲を目に写す
紫乃
冬真
紫乃
冬真
さっきから彼女の言うことに混乱しっぱなしだ
紫乃
冬真
《6月》
新年度。新しいクラスになり、皆が慣れてきた頃
開いた窓は風を通し、僕に1枚の紙を飛ばした
冬真
顔中に紙が張り付く
視線が飛んできた紙に塞がれ、
僕はその紙を手に取った
美空往く 遣いの眼 炯々と
冬真
紙の内容が分からず、どうすればいいかもわからず
紙を一方的に眺めていると、
前方から声をかけられる
「ごめん、それ私の、飛ばされちゃって」
甲高くは無い、然れど低くはない
その声の主は、
冬真
紫乃
冬真
紫乃
納得したように目を落ち着かせ、
僕は彼女に紙を渡した
紫乃
冬真
紫乃
冬真
こんな
風が届けた偶然
風に吹かれた切欠
それが出会い。
《8月》
本格的な夏が始まる
それは虫たちの声が告げ、
僕は夏休み、だらだらとすごしていた
部屋でごろごろしていると、
母が、偶には出かけなさい、と言った
面倒くさい。
母は、何故か僕が否定的な態度をとると、
了承するまでとことん説得しようとするのだ
冬真
僕は家を出て、宅前で靴を鳴らした
冬真
とりあえず歩き始めた
そうだ、久しぶりに森でもいこうかな。
昔祖父とよく行ってた、近くの森
季節を束ねたような虫の鳴き声がする、
故に村の人から演奏の森と呼ばれている森。
いってみよう。
僕は、陽射しに殴られながら森に向かった。
森につくと、例年通り虫や鳥の鳴き声が飛び交っていた
小さな木々や長い草を掻き分け、
どんどん、呑まれるように奥へ行く
そして、懐かしき光景をみた
明るい木々を写している大きな瓢箪のような池
池の周りの木々、竹
よく祖父と来ていた所だ
僕は祖父と見た景色に懐かしんでいた。
すると、後ろから草をかきわける音が聞こえる
…熊とか?
やばいじゃん……
逃げようとしたが、その前に正体を表し、僕は安心した
冬真
紫乃
目を互い見合わせ、首を傾げた
………。
紫乃
紫乃
冬真
紫乃さんは、川柳が好きで、ここに来ると言いものが浮かぶそう
冬真
紫乃
冬真
紫乃
冬真
紫乃
紫乃
冬真
冬真
紫乃
紫乃
紫乃
冬真
まあ、これなら出かけなさいって、言われることなくなるかな
冬真
紫乃
それを始めに、僕達は毎日ここで詩を詠んだ
紫乃
冬真
紫乃
紫乃
紫乃
冬真
紫乃
また別の日
紫乃
また別の日
紫乃
また、別の日、別の日。別の日、……
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃さんは、毎日ここに来ては詩を詠んだ
そして僕も、川柳が好きになってきていた
そして、ある日
僕たちが帰っているとき。
紫乃
冬真
横断歩道で別れ、紫乃さんは青信号が見守る中歩いていた
すると、
バンッ!
大きな衝撃音がなる。
そして鳴くクラクション。
僕は横断歩道の前、立ち尽くしていた
2日後
僕は病院にて、紫乃さんと話していた
冬真
紫乃
紫乃
冬真
紫乃さんは車に轢かれ、下半身が動かなくなった
移動の時は車椅子が必要だ
紫乃
紫乃
冬真
冬真
紫乃
紫乃
僕は病院の中庭で車椅子を押しながらいった
冬真
冬真
紫乃
紫乃
冬真
冬真
紫乃
紫乃さんはそう言うと、
紫乃
冬真
そういった
移動中、ずっと無言だった
病室に行くと、紫乃さんは、
窓の外を見つめていた
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
紫乃
冬真
紫乃
紫乃
紫乃
…どうゆうことだ
冬真
紫乃
紫乃さんは笑う
紫乃
窓の外には大きな入道雲
冬真
紫乃
冬真
紫乃
冬真
紫乃
紫乃
紫乃
冬真
紫乃
冬真
それから、病院に行かない日が続いた
そして、夏休みも終盤になったころ。
紫乃さんは、自殺した
車椅子の首後ろに付いている金具に縄をかけ、
その縄を自分の首にまきつけ、
前屈みになり、体重を前にかけて行き──。
冬真
僕は電話口の向こうからその報告をされた
紫乃さんの親御さんから、葬式に出て欲しいともいわれた
冬真
葬式にでる。
葬式で、最後の紫乃さんにあうのだ
冬真
僕は、短歌にしようとした
けど、、難しい
理想の形を再現することは難しく、
紫乃さんの凄さが身に染みるようにわかった
そして、葬式前夜
眠くなり、意識朦朧
脆弱な意識の中、僕は紫乃さんを浮かべた
冬真
冬真
冬真
冬真
冬真
……
そして、僕の意識は遠のき、机に突っ伏してねてしまった
起きた頃にはもう葬式の時間で、そそくさと準備を済ませて家を出た
車の中では、差程悲しんでないように見える親戚。
そんな人達が話していた
白鷺の、口の汚れは、穏便に。
影も時には、身より大きく
冬真
悲しみのない車の中。
長月の、世に叫ぶ犬、正義感。
然れど諸行は、至ることなし。
僕は、この中で、
紫乃さんに、別れを告げなければならないのだろうか
繋ぎ花、葬る明日は、決別へ
また憧憬を、訳あり続く
あの日、病室で話していたように。
僕は紫乃さんの代わりになれないだろう。
賽の目は、いつかり借りし、まほろばへ
芋蔓燃えたと、ごく粗み屋根
代われぬ身を抱き続け、僕は生き続けるのだろうか。
…
そんなことに思考を巡らせたことは、
はじめてだった。
そして、葬儀場
くらい雰囲気だが、
その会場には、涙ひとつ零れることがなかった。
数分後。
棺に入っている紫乃さんをみた
その顔は、
とても苦しそうで、
首絞めの苦しさに最後まで耐えたと言わんばかりだった
そんな苦しそうな顔して、死ぬなよ。
紫乃さんの顔を見つめていた。
ずっと、ずっと、帰るまで、ずっと。
数日後
また自堕落な生活に戻ってしまった。
森に行くと、虫の声は変わらず飛び交っていた
そして僕は、草木をかき分けて、池に向かった
月面に、忍る影よ、閑散と
奇怪な心は、猫の目仇。
森は、静まり返り、
ただ虫の声だけが喧しく聞こえる地と化していた
いつも紫乃さんと見ていた池も、
今では単なる母胎の演奏に変わった
この森にもう彼女がいることは2度としてないだろう。
病室を思い出す
短歌のことも、川柳のことも。
……
「どうしてはやくきてくれなかったの」
それは川柳や短歌を作ってから。
僕の脳には彼女の声がずっと回っていた
然れど、いずれはこの思いも風化していくのだろう
今苦しむだけ苦しんで、
苦しみ疲れた脳は出来事を風化させ自分を守る
悲劇には予定調和が付き物だ
そして、決別には。
忘却と正当化が付き物だ。
だからこの思いも、
《一夏の淡い記憶》として残り続ける
この出来事で僕が死のうとすることは、ないと思うから
美空往く、遣いの眼、炯々と
然れど囲は、赦すことはない
ほんとは絶望に近いものを感じる
死にたいってくらい虐げられている
それでもダメだ
過去の人の縛めが刺さる
心地よくない血の気の布団だ
ただ生きる僕に願うのは、
思い出にしないで欲しいということ
これは未来の僕にとっての、過去の人の戒め。
ずっと生きていかないと
脳も愛も換えず棄てず
ずっと
冬真
冬真
冬真
冬真
冬真
冬真
冬真