事業撤退して廃業してしまったオフィスの姿というのは、どこか殺風景で寂しささえ感じてしまう。
一宮
それで、七星は?
二ツ木
あの人には別の相手が待ってる。
二ツ木
一宮達は2人で【ストーリーテラー】側の所有者は3人。
二ツ木
あっちは全面戦争みたいなのを望んだけど、人数的にアンバランスだから、どうしても公平な勝負にはならない。
二ツ木
だから、とりあえず1対1でやり合うことになった。
一宮
(二ツ木はこうして勝負をブッキングしてくれた、言わば仲介のような存在だけど、元はあちら側の人間だ。あまり信用しないほうがいいだろう)
二ツ木
それに、一宮と七星を組ませるのは危険だと私が判断した。それは誰よりも私が知ってる。だから、今回は1対1でやらせてもらう。
一宮
(案の定、あちらの都合を考えてのブッキングじゃないか。まぁ、二ツ木がいてくれるおかげで、相手方を探す手間も省けるし、ありがたいと言えばありがたいんだが)
一宮
そうだ、二ツ木。改めてひとつ確認させて欲しい。
二ツ木
なに?
一宮
本当に四ツ谷が【ストーリーテラー】とかいうやつなんだよな?
二ツ木
しつこい。何度同じことを答えればいいの?
二ツ木
そうだって言ってるじゃん。
二ツ木
まぁ、四ツ谷としては正体をずっと隠そうとしてたみたいだけど、ほら――私が彼に勝っちゃったから。
二ツ木
慌てて正体をばらして、なんとか魂を喰らわれることだけは避けたってわけ。
二ツ木
その代わり、絵本は私に譲渡されたけどね。
一宮
(何度言われたって信じられるわけがない。あの四ツ谷が全ての黒幕だったなんて)
一宮
そうか――。
そこで二ツ木との会話も途切れてしまい、沈黙の中待つことしばらく。
ゆっくりと階段をのぼってきたのは、ドレス姿の女性だった。
お姫様が着るようなドレスではなく、明らかに夜の仕事をしている女性が着用するようなドレスだ。
十日市
あー、頭痛い。
十日市
昨日はちょっと飲み過ぎたかぁ。
二ツ木
十日市、相手の名前。寂れたスナックのママをやってる。
十日市
――スナックじゃなくてラウンジね。それに、別に寂れてはいないし。
頭をこめかみに添えるようにして、地面に座り込む十日市。
おもむろに電子タバコを取り出すと、それを吸い始めた。
二ツ木
十日市、こっちが一宮。独身の冴えないサラリーマンらしい。
十日市
へぇー、それなりにいい男じゃんか。
十日市
年収次第ではワンチャンありそうだけど。
二ツ木
十日市、趣味悪い。
一宮
なんか遠回しに馬鹿にされた気がする。
二ツ木
とにかく、こうして集まってもらったのは、婚活のためじゃない。
十日市
そうね、そろそろ決着をつけないとね。
十日市
私達もかなり早い段階から、所有者同士で集まっていたけど、私達の他にも徒党を組んでるやつらがいるなんてね。
一宮
色々あって、こっちのホルダーは2人だけどな。
十日市
ホルダー?
十日市
あぁ、所有者のことをそう呼んでるのか。
十日市
かっこいいー。私も真似しようかな。
十日市
ホルダーって。
一宮
それはともかく、さっさと始めてしまおう。
十日市
お、思ったより好戦的だねぇ。
一宮
そんなことはない。
その、なんというか……。
二ツ木
一宮の場合は場がもたないだけ。
十日市
あはははっ!
結構奥手なんだね。
二ツ木
それじゃ、これから勝負を始めるよ。
二ツ木
私が仲介人として介入する。
二ツ木
2人は私に主導権を渡して。
一宮
主導権を渡すって、どうやって――。
十日市
そう念じればいいよ。
十日市
二ツ木は元々絵本の所有者だったから、上手くやれるはず。
一宮
念じる。
一宮
念じればいいんだな?
十日市
そう。
二ツ木
オッケー。
二ツ木
場所を変えるよ。