楠木
【蛍の光】――?

楠木
それって終業時間に鳴るチャイムのことか?

尾崎
あ、惜しいっすねぇ。

尾崎
実はここの終業時間に流れるチャイムは【蛍の光】に似た【別れのワルツ】ってやつっす。

尾崎
【蛍の光】は4拍子で、確か【別れのワルツ】は3拍子だったはずっす。

縁
――では尾崎さん。

縁
今日のチャイムはどちらでした?

尾崎
へ?

尾崎
急に言われても分かんねぇっす。

倉科
……4拍子だ。

倉科
間違いない。

倉科
俺はそれが流れた時、ちょうどダクトを外そうと思っていてな、そのリズムに合わせてダクトをぶっ叩いたんだから間違いない。

倉科
タン、タン、タン、タン――4拍子だった。

坂田
となると妙だなぁ。

坂田
本来なら3拍子の【別れのワルツ】が、今日に限って4拍子になっていた。

坂田
なぜ、こんなことになったのか。それは――。

縁
おそらく、チャイムが何かしらの理由で差し替えられていたんだと思います。

縁
そしてそれは、解放軍側の人間の仕業である可能性が高いです。

縁
そして、ここで使用されているチャイムが【蛍の光】ではなく【別れのワルツ】であることを教えてくれたのは――何を隠そう流羽さんなんです。

縁
もし、彼女がレジスタンスリーダーで、チャイムの差し替えを行うのであったら、ちゃんと【蛍の光】ではなく【別れのワルツ】を差し替えたはずです。

尾崎
あの、縁。

尾崎
そもそも、なんで解放軍はチャイムを差し替えたんすか?

坂田
アリバイを作るためだよ。

坂田
レジスタンスリーダーは、チャイムを差し替えることで、ある事柄を誤認させて、自分に疑いの目がかからないようにした。

坂田
そこまでしているのに、本人は死んだふりをしてやがる。

坂田
あんまり、性格がいいとは言えねぇなぁ……。

縁は坂田の言葉に頷くと、拳銃をある方向へと向けた。
倉科
おい、山本。そっちには誰も……。

楠木
いや、まさか――。

一同が驚きを隠せない中、縁は引き金に指をかけて声を上げる。
縁
これ、入っているのは模擬弾ですけど、当たったら痛いです。当たりどころが悪いと死ぬかもしれないって――あなたが教えてくれましたよね?

坂田
もう死んだふりをすんのはやめたほうがいいんじゃねぇか?

縁
なぜ、こんなことをしたんですか?

縁
答えて下さい!

縁
――中嶋さん。

縁が銃口を向けた先にいたのは、死んだはずの中嶋だった。
しかし、しばらくすると、小さな唸り声と一緒に中嶋がむくりと半身を起こした。
中嶋
あれ、ここは。

中嶋
やっ、みなさんお揃いで。

中嶋
やっと助けに来てくれたんですか?

坂田
へぇ、下手な三文芝居を打つじゃねぇか。

倉科
中嶋、教えてくれ。

倉科
お前がレジスタンスリーダーなのか?

中嶋
いや、何を言ってるんですか?

中嶋
倉科さん、そんなことないでしょう?

中嶋
俺がアンダープリズンで事件に巻き込まれる直前まで、倉科と俺は一緒に飯を食ってたでしょう?

中嶋
その頃には、アンダープリズンはすでに占拠されていたと思うんですよ。

中嶋
まぁ、辛うじてというか、運悪くまだ電源がダウンする前だったから、アンダープリズンに降りて事件に巻き込まれはしましたけど、あの時間に倉科さんと飯を食っていた俺には、解放軍とやらと一緒に食堂を占拠するのは不可能ですよ。

倉科
山本、中嶋の言っていることは本当か?

倉科
ここはいつ、解放軍に占拠された?

縁
――お昼休み終わりのチャイムが鳴る前ですから、1時には占拠されていました。

倉科
だったら、そこに中嶋が居合わせるのは無理だ。

倉科
こいつは1時過ぎまで、俺と飯を食ってたんだからな。

縁
――それが、中嶋さんの仕組んだものだったとしたら?

縁
そもそも、どちらから食事に誘ったのですか?

倉科
それは――中嶋にアンダープリズン内で色々と見繕ってもらっている礼にと、前から俺が誘っていたんだが。

倉科
たまたま暇ができたということで、今日になったんだよ。

縁
それ、おかしいと思いませんか?

縁
アンダープリズンの職員には特別外出という制度があります。

縁
しかし、どうせならお昼に抜けて食事をするのではなく、終業時間が終わってからのほうが、良くないですか?

縁
それならば、時間気にせず食べられるわけですし。

倉科
じゃあ、わざわざ今日の昼を中嶋が指定したのは――。

縁
はい、倉科警部をアリバイの証人として仕立て上げるためです。

縁が中嶋の方を見ると、彼はなぜだか小さく笑ったのであった。
崩せるものなら崩してみろ――そう言っているようにも見えた。