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必ず死に至る病

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必ず死に至る病

5 - 二章 1話 「貴方にとって僕は何でしたか?」

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2025年04月05日

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言葉にできない悲観だけが降り積もって

言葉を知らない僕には憎しみというには優しくて、絶望というには深すぎる不明な感情

…あ、その…ママ

お母さん

どうしたの?

えと…テストです…

お母さん

返ってきたのね。見せてちょうだい

ど、どうぞ…

今日はお母さんの機嫌が良い。良かった

お母さん

今回も百点ね。次も頑張りなさい

は…はい

お母さん

ご飯置いてあるから食べといね

わ、分かり…ました

机にはラップがかけられたオムレツが置いてあった

…美味しいなぁ

冷たいけど、お母さんの愛情を感じ取れるから手作りオムレツは僕の好物だ

(毎日食べられば良いのに)

お母さんの味に浸っていると「ただいま」という渋い声が玄関から聞こえてくる

(…帰ってきちゃった)

別に帰ってこなくても良いのに、と烏滸がましくも考えてしまう自分が嫌いになる

玄関から言い争う声が聞こえる

お母さん

ちょっとあなた!

お母さん

今日は帰れないって言ってたじゃない!

お父さん

良いだろ別に

お母さん

夕飯用意してないわよ!

お父さん

俺が稼いでるんだから少しくらい良いだろ

お母さん

良くないわよ!家事も零の面倒も誰がやってると思ってるの!

僕の名前を口論で出すのは辞めて欲しい。僕自身の存在意義を考えてしまうから

お父さん

それぐらい当たり前だ

お母さん

じゃあ私が何もやらなくて良いわよね?

お父さん

はぁ?

お母さん

家事も零の面倒も「当たり前」なんでしょ!?

お父さん

俺はお前よりずっと忙しいんだぞ!

目から溢れる液体は僕ですら分かりたくなかった

お母さん

全部勝手にやってちょうだい!

お父さん

おい!…はぁ

ガチャン!という扉の音とお父さんの声を聞く限りいつもの喧嘩は終わったらしい

お、おかえり…な、なさい

お父さん

あぁ…零か。ただいま

きょ、今日のテスト百点でした

お父さん

そうか

ぼ…僕の分のご、ご飯…食べますか…?

お父さん

アイツが作った飯なんぞいらん。零が食え

は、はい…

お父さんはお母さんのご飯を否定する嫌な所もあるけど、ご飯を全部くれる優しい人なんだ

僕は3人で住むには大きすぎる立派な家と大事な家族がいるんだ

(クラスの皆にイジられたって平気)

好きな子をいじるとはよく言うし、僕はクラスの愛され者に決まってる

僕はシアワセだ

まだ幸せが迎えに来ていないというのに、どうして僕はここにいるんだ

はやくかえらなくちゃ

…どうして

……

堵恵

…零

ひゃっ!あ、え…その…はい

堵恵

何か言いたいこととか聞きたいことあるか?

堵恵と言っただろうか

歳がある程度近くてこんなに優しくされるのは初めてかもしれない

あ…え、その…ど、どうして…ぼ、僕らが…あ、集め…られたのかって…

堵恵

なるほどな

堵恵

確かに分からないよな〜…

考え込むような動作をして唸っている

なに考えてるの!アタシにも教えてよ!

堵恵

どうして俺らが集められたのかっていう話だ

翠華

確かに気になる

レパール

こういうのは共通点を探るべきでは無いでしょうか?

レパールが言ってる案が一番良いかもしれない

第一、想像つかないような理由ではないことが前提だけれども

渚央

僕…達の…共通…点です…か?

堵恵

そうだな…

結月

あ…あの…

翠華

どうしたの結月?

結月という黒髪の少女が声を震わせながら上げた

結月

私と翠華はその…言って良い?

翠華

あ〜…良いよ

納得したような声を出した翠華の表情がどこか悲しげだったのは気の所為だろうか

結月

私達は…親が居なくて…孤児院で今まで育って…きたんです

結月

その、えっと…

結月が気まずそうに俯くが、僕はそれどころではなかった

…結月達もなの?

堵恵

…マジで?俺とレパールも施設なんだわ

渚央

僕も…です…

あ、えぁ…う…ぼ、僕…も…

もしかして施設にいることが条件なのだろうか

でも…孤児院育ちなら他にも居るよ!

堵恵

だよなぁ…でも偶然とは思えない

翠華

でも、ある程度は考えておいた方が良いだろうね

レパール

はっきりとした共通点は、まだ見つけられそうにないですね

話がじゃんじゃん進んでいくのを遠目で見つめていれば、時間の流れがほんの少しだけ早くなる

僕は笑うことしかできないから

(何もしないのが正解だよね)

渚央

…会った…ときから、考え…てたん…ですけど

渚央

何で…零さんは…笑って…いるのです…か

えっ、あ

突然かけられた声に驚愕する

堵恵

概ね表情が変えられないんじゃないか?

あ…そ、の…は、はい!

少し声を強めて返事する。軽薄な笑顔だと思われたくはない

堵恵のサポートに心から感謝した

か、鏡に…映…る…僕が…わ、笑って、て…

気づい…たら…た、倒れ…て…ひょ、表情…変えら…れ…なくて…

これで伝わっているのか、上手く発声できない声帯にどうしようもない嫌悪を抱える

レパール

鏡を見たら無意識に顔が笑っていて倒れてしまう

レパール

そして表情が固定されて変わらなくなった…ということですか?

は…は、はい

僕が伝えたいことを短く簡単にしてくれた。非常にありがたい

結月

私も倒れちゃって…ノイズみたいのが掛かっていました

翠華

私は…星空を見て倒れた。身体が燃えたみたいに熱かったのは覚えてる

翠華の顔は今すぐにでも散りそうな花くらい哀愁が漂っている

堵恵

俺も似たようなものだ

渚央

僕も…です…

アタシも多分そうなのかな?分かんない!

レパール

皆さんと同じく心当たりがあります

灯が苦手そうな考え事をしているが、トンチンカンな話にならないか心配だ

うーん…

施設にいて、変な症状?が出る人が共通点?

堵恵

今の段階で言えるのはそれくらいだな

失礼かもしれないが、アホの子だろうと予測できる灯がちゃんと真面目な事を言っている

明日は雪でも降るか?

翠華

こんな事を言うのは急かもしれないけど…

翠華

これまでの人生について教えて欲しい

目の前の少女の言葉を皮切りに、シアワセだった僕の過去が鮮やかに蘇る

家での日常は冒頭の通り

学校生活での僕はいじられキャラだった

クラスのトモダチ

よーっ零!

いつも僕に元気そうに話しかけてくれるクラスメイトが、声を掛ける

や、やぁ

クラスのトモダチ

まーたオドオドしてんのか!キショいわ〜

クラスのトモダチ

マジで笑えるわ

へ、へへ

クラスのトモダチ

ねぇ、またアレやってよ

次は女子が話しかけてくれた

あのネタは僕にとっては面白くないしやりたくはない。でも皆笑ってくれる

わ、私は…か、かよわい…美少女で、です…

女子でもやらなさそうな気持ち悪いポーズ

クラスのトモダチ

あっはは!面白ろ〜!

クラスのトモダチ

うわ〜動画撮れば良かった

クラスのトモダチ

撮れたら送ってよ

クラスのトモダチ

任せとけ!

自分の痴態が晒されるのは嫌だ。でも嫌われるのはもっと嫌だ…我慢しなければ

これが僕の役割なんだから

これが僕のシアワセな日常

立派な家とヤサシイ家族を持っていて、学校でトモダチと笑い合う日常

…え

そんな日常はある日崩れた

お母さん

ねぇ、あなた!単身赴任ってどういう事!

お父さん

言葉の通りだ。しばらくは遠くで仕事をする

お母さん

何で言わないのよ!お金は?零は?

お父さん

金は送るから家事はいつも通りお前がやれ

お母さん

あーもう!身勝手ね?何で結婚なんてしたのかしら

お父さん

それはこっちのセリフだ!俺から金を吸い取る寄生虫のくせして!

お母さん

家事も育児もロクにできないくせに!

お父さん

なんだと!

お父さんが大きく手を振りかぶって

だめっ!

僕が割って入る

鈍い音と痛みが僕に襲いかかった

お母さん

零…!ちょっとあなた私に手を出そうとしたわね!

お父さん

零が割り込まなければ…!何で邪魔をしたんだ!

お母さん

日頃の行いよ!あなたが零の面倒見ないから見捨てられたのよ!

あ…あぅ

目に溜まった水が溢れでてもお父さんはおろか守ったお母さんすら心配してくれない

なんの為に、僕は

お母さん

いいわ!単身赴任は勝手にして!

お父さん

言われなくてもそうさせてもらう!

お母さん

ちゃんと生活費と養育費は払ってよね!

お父さん

分かったから黙っていろ!

お父さんは大きな音を立てて部屋から出ていった

お母さん

零…返事してちょうだい

マ、ママ…

お母さん

1人で歩けるわよね?今日はもう寝なさい

は…はい…

「大丈夫?」の一言が欲しいのに

お父さんが単身赴任に行って1週間もしないうちにお母さんが部屋を片付けた

次の日にはキャリーケースに大事な物を一通り詰め始めた

お母さん

来なさい、零

は、い…

お母さん

ママ、用事が出来たから出掛けないといけないの

お母さん

だから…しばらく施設に泊まっていてちょうだい

ぼ、僕は…ついてきゃ…駄目…です…か

お母さん

連れていけないわ。…零は良い子よね?

…はい

お母さん

迎えに来るまで、待てるわね?

わ、分かり…ました

僕は家に居れなくなった

シアワセな日常が崩れていく

結局学校も離れなくちゃいけなくなって

クラスに一時的な別れを告げる羽目になってしまった事が酷く悲しい

ぼ、僕…しばらく…学校に…い、行けない

クラスのトモダチ

うわ〜マジか

クラスのトモダチ

明日からちょっとつまんなくなりそ〜

クラスのトモダチ

お前のギャグ面白いのにな〜…でも行けないんだろ?

う、うん…

トモダチは僕のギャグを聞けなくて寂しそうなのが、僕の心を痛ませる

クラスのトモダチ

じゃあ…新しい場所で馴染めるようにアドバイスしてやるよ!

クラスのトモダチ

アドバイス?

クラスのトモダチ

悪いところ、たくさん教えてやろうぜ?

クラスのトモダチ

いいわね…面白そう!

トモダチは僕の為にアドバイスまでしてくれるらしい。凄くイイヒト達だ

クラスのトモダチ

要領が悪い、弱そう

クラスのトモダチ

喋り方がキモいし、顔は綺麗だけど表情が鬱陶しい

クラスのトモダチ

分かるわ〜…陰鬱な顔してるよな!

そうやってアドバイスを受けてるうちにクラスメイトが集まってきて

クラスのトモダチ

成績以外取り柄なしよね

クラスのトモダチ

大人になったら犯罪者になってそう

クラスのトモダチ

行動が全部キモい。よく生きてられるよね

クラスのトモダチ

顔は無駄に良いし、身体売ってそうだな

クラスのトモダチ

そういうビデオに出演してそうだな

クラスのトモダチ

ちょっと男子!下品な話辞めて!

クラスのトモダチ

ちぇ…しょうがないな

クラスのトモダチ

とにかく顔だ顔!

クラスのトモダチ

一番ウザいところだよね〜

クラスのトモダチ

分かる!語尾も顔もグチャグチャでキショい

クラスのトモダチ

だよな〜

僕は顔は良くても表情が駄目駄目らしい

アドバイスを受けているだけなのに、どうしてこんな辛いのだろう

やっぱり自分自身は思った以上に寂しく思ってるのだろうか

クラスのトモダチ

お前は一生笑っとけよ

う、うん…

僕は笑う

何かが壊れる音が心で響いた気がした

そ、それで……し、施設…に

堵恵

…辛かったな

翠華

親はまだ迎えに来てないんでしょ?

結月

…最悪の場合が考えられそう

分かってた。親は多分迎えに来ないことに

レパール

アダルトチルドレン…というものですかね

レパール

僕達全員に言えるかもしれませんが…

渚央

アダルト…チルドレン…とは何ですか…?

アダルトチルドレン

聞いたこともない単語が出てきて困惑する

な、なに…それ?

レパール

アダルトチルドレンとは、機能不全家族で育った人のことを指します

レパール

機能不全家族とは、子供が健全に育つ機能がない家庭のことです

む、難しい…

レパール

分かりやすい例を示すなら、身体・心理的虐待やネグレクト、過干渉・過保護に両親の不仲等ですかね

レパール

他にもありますが基本的にはこのようなものが多いです

翠華

詳しいね

レパール

訳あって調べてたんです

レパールのいうアダルトチルドレンの特徴には、嫌と思う程心当たりがあった

堵恵

零の場合はネグレクトと両親の不仲か

レパール

話を聞く限りそうでしょうね

ぼ、僕…愛されて…な、なかった…のか…な

翠華

…学校での環境も最悪だったみたいだし

渚央

僕も…気持ち…分かり…ます。こういう…時は…泣いて…良いと思います

少なくとも私は愛してる!

愛ってこんなに本当は暖かいのかな。僕の話を聞いてちゃんと考えてくれるのかな

う、ぅ…

目から溢れる涙が止まらなかった

顔は氷のように変わらない

ぼ、僕…もっと…あ、愛され…た、たかった

でも今の方が感情を出せているような気がする

結月

何言ったって私達、文句言わないよ

アタシが言うんだから間違いない!よく頑張った!

皆で抱きしめ合った瞬間にとても暖かで、ささやかな幸せを感じた

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