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王宮大広間は、祝祭の灯りに満ちていた。
磨き上げられた大理石の床は、見ているだけで心が暖かくなるような、オレンジの光を反射している。
招待客は私たちを遠巻きに私を円形に囲んでいる。
私はその中心に立たされていた。
ヴァシュレイ皇子
壇上の王子殿下が私を睨みつける。
ヴァシュレイ皇子
つまり、婚約破棄は本気だということになる。
嘘がないとき……発した言葉と本心にズレがない場合、影は見えない。
ざわめきが広がる。
王子の隣には、淡い桃色のドレスを着た令嬢が寄り添っている。
私の妹、王子殿下の浮気相手、リリアナ・レインフォードだ。
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
リリアナ
リリアナ
リリアナ影
リリアナ影
二人の影は饒舌《じょうぜつ》だ。
声を聞くだけで疲れてくる。
私は長いため息をついた。
そのドヤ顔は、果たして何を根拠に湧いている自信なのか。
ルシア
ルシア
私は目を閉じ、胸の前で指を重ねた。
足元から淡い光が、糸をほどくよにしてように広がる。
そこにまぶしさはなく、陽だまりのようなやわらかな温もりをたたえている。
広間の天井に、金色の粒子が舞い上がる。
それは花弁へと姿を変え、ゆるやかに降り注いだ。
触れた者の頬が、ふっと緩む。
厳めしい顔をしていた老侯爵が、遠い日の孫を思い出したように目を細める。
隣に立つ夫婦が、自然と手を取り合う。
誰もが胸の奥にしまっていた『大切な記憶』を思い起こす、聖女だけが使える魔術だ。
私を見る人々の目からわかる。
私は、聖女としての信頼を得ている。
王子殿下はそれを許さない。
殿下が、ズボンのポケットに手を伸ばす。
私は殿下の隙をつき、距離を詰めた。
ルシア
彼の腕を掴み上げ、衆目に映る場所まで高く掲げる。
殿下の手には紫色の首飾りが巻き付いていた。
ルシア
ルシア
ルシア
広間が一瞬、静まり返る。
そしてすぐ、さっきとは別のどよめきが沸き上がる。
非難の視線が殿下へと向きつつある。
殿下が冷や汗をたらしながら叫んだ。
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
ルシア
ルシア
ルシア
ルシア
殿下が私の手を振りほどき、首飾りを床にぶん投げた。
腰のホルスターから拳銃を抜き、魔力を込めた弾を放った。
首飾りが粉々に破壊される。
ルシア
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
ルシア
周囲の観衆も馬鹿ではない。
明らかに殿下に疑いの目を向けている。
殿下もそれを察してか、ばつの悪そうな顔をしている。
ヴァシュレイ皇子
殿下が命令する。
衛兵たち
衛兵たち
衛兵たちも目を白黒させていた。
躊躇《ためら》っている衛兵の足元に、殿下が発砲する。
ヴァシュレイ皇子
衛兵たちが小さく悲鳴を上げ、私に詰め寄る。
よどみない所作で、私を後ろ手縛り上げた。
衛兵影
衛兵影
衛兵影
衛兵たちの影が口々に言う。
ルシア
そう言ってあげたかったけど、私の口には布が巻かれてしまっていた。
殿下とリリアナが私を見下ろす。
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ影
ヴァシュレイ影
リリアナ
リリアナ影
リリアナ影
ルシア
ルシア
周りを見渡す。
陛下は不在だ。
誰しもが殿下の|欺瞞《ぎまん》に気づいているが、権力が怖くて、声を上げて|庇《かば》うことはできないらしい。
みな無言で見守っている。
――パチ、パチ、パチ。
不意に、乾いた拍手が響いた。
手を横に向けた、余裕のある手つきの拍手。
黒いスーツを纏った長身の男が、薄ら笑いを浮かべている。
ラグナーク
ルシア
手のひらを床に水平にした、余裕のある手つきの拍手。
「ここまで良くぞたどりつきました」と褒めるデスゲームの主催者以外で、あんな拍手する奴見たことないぞ。
ルシア
殿下が苦々しそうな顔で言う。
ヴァシュレイ皇子
公爵の冷たい視線に、殿下の声は震えている。
余裕のある笑みを浮かべた公爵とは対照的だ。
公爵は上品な所作で腕を組んだ。
ラグナーク
ラグナーク
ラグナーク影
ラグナーク影
ラグナーク影
ラグナーク影
ルシア
ルシア
ルシア
ラグナーク公爵は皮肉めいた笑みを浮かべ、妖しく目を細める。
ラグナーク
ラグナーク影
ラグナーク影
ラグナーク影
ルシア
ルシア
ラグナーク
ラグナーク
ラグナーク影
ラグナーク影
ルシア
発せられる言葉と本心が一致しないとき、影はよく喋る。
影が饒舌な人ほど、本音と建前がズレている。
わざとやってるわけじゃないんだろうけど……目に映る黒幕ムーブと彼の本心に、大きなズレがあるらしい。
公爵が私の目の前に立つ。
ラグナーク
ラグナーク
ラグナークが私の前に立つ。
その眼光に射抜かれたか、衛兵たちが手を離した。
手枷を解かれ、ふらふらと歩み出た私は、転びそうになる。
ラグナーク
ルシア
ラグナークが私の手をとって支えてくれた。
微笑みかけてくれる。
至近距離で見るとなおさら、彼の笑顔はいかにも裏がありそうで、怖い。
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
ヴァシュレイ皇子
殿下が叫ぶ。
恐ろしい相手に、勇気を奮わせたのが伝わる声だ。
対してラグナーク公爵は影のある笑みを深くしている。
どっちが悪党か錯覚しそうな絵面である。
ラグナーク
ラグナーク
ラグナーク
ラグナーク
ラグナーク影
ラグナーク影
ルシア
初めての感覚だ。
影が話す本心を、私だけが知っている。
それ自体はいつものことだ。
彼が何も企んでおらず素で傷ついていることを知っているのは、この会場で私だけだろう。
いつもと違うのは、影と本人の言動がズレてないこと。
ラグナーク・ヘルツウォーク。
裏社会を支配する黒幕と噂され、『ジョーカー』の異名をもつ男。
光のない眼をした美形。
ああいうイケメンは影で女殴ってるんだと、友だちが噂していた。
そんな彼は、単に顔と仕草が黒幕っぽいだけの、良い人であったらしい。