一方、その頃――。
いつの間にか姿を消したヒグラシを探していたニッタが戻ってきた。
ニッタ
駄目です。やっぱりヒグラシ先輩、どこにも見当たりません。
セイノ
あの野郎――勝手に現場を放棄するような人間じゃねぇだろうに。
ニッタ
あの、やっぱり本当なんでしょうか?
ニッタ
ヒグラシ先輩が、なぜかカメラマンとして現場入りしているって。
セイノ
さっき、本署から確認の電話が来た。
セイノ
テレビにヒグラシらしき人物が映ったってな。
セイノ
あいつ、こっちに来た理由を適当にはぐらかしていたが、左遷だったりしねぇだろうな。
ニッタ
――この場にテレビがあれば、確認できるんですけどね。
セイノ
お上の連中に上げてくれ。パトカーでもテレビ観れるようにしろってさ。
おそらくだが、ヒグラシは学校内にいる。
いいや、実際にヒグラシらしき人物にカメラを託したという、上野原の放送局の人間からも話を聞いたのだ。
セイノ
今回の事件の概要を聞いた途端、妙な顔つきになったとは思ったが、まさか持ち場を放り投げて、現場に突っ込むなんてな。
セイノ
人は見た目によらないもんだな。
セイノが愚痴っているところ、背後から声をかけられる。
週刊誌記者
あのー、すいません。警察の方ですよね?
セイノ
あぁ、そうだが。
週刊誌記者
週刊【すなっぴ】の者なんですが。
セイノ
なんだ?
セイノ
あれだ、取材は受けてないぞ。
セイノ
しかも週刊【すなっぴ】なぞという、胡散臭い週刊誌――聞いたことがない。
週刊誌記者
でしょうね。
週刊誌記者
いわゆる地方紙でして――。
週刊誌記者
その、取材ではないんです。
そう言うと、男はスマホを操作して、ある女性の写真を見せてきた。
週刊誌記者
あの、この女性を見ませんでしたか?
週刊誌記者
うちの記者なんですが。
写真には物静かそうな女性の姿が映っていた。
セイノ
いやぁ、見てねぇなぁ。
セイノ
ニッタは?
ニッタ
……私も見てないですね。
週刊誌記者
そうですか――いや、参ったな。
週刊誌記者
もしかすると、この子……学校の中にいるかもしれなくて。
セイノ
――分かりました。捜査員には共有しておこう。
週刊誌記者
助かります。
週刊誌記者はそう言うと、どこかへと駆けて行った。
セイノ
どこも大変だなぁ。
セイノ
単独行動をしたがる奴がいて。
セイノはそう呟くと、大きな溜め息を漏らしたのであった。
――まだ校庭には、かつて校長先生だったものが転がっている。
イシカワ
イガラシ、そんなに俺達のことが信用できないのか?
イガラシ
悪い、信用できるか信用できないかの問題じゃないんだ。
イガラシ
大事なのは、事実に対して2人がどう答えるかなんだ。
イガラシ
つまり、事実を確定させなければ、ゲームとしての前提を満たせないんだ。
ヤナギ
――さすがはお若い先生だ。
ヤナギ
ネットで調べればなんでも出てくると思っておられるようで。
イガラシ
(分かってる。そんなことは言われなくても分かってる。でも、事実を確定させないと、ゲームの展開を読むことすら――)
革命軍
どうした?
革命軍
簡単なことだ。
革命軍
罪を認めるか否か。
革命軍
ただそれだけのこと。
【革命軍】の言葉に、ほんの一瞬だけ時が止まったような気がした。
いいや、イガラシの頭脳が、時の速さを一瞬だけ超えたのかもしれない。
イガラシ
(そういうことか――)
イガラシ
(どうやら、俺は前提の前提から勘違いしていたみたいだな)