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向日葵とバス停 上

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向日葵とバス停 上

1 - 向日葵とバス停 上

2019年03月31日

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延々と続く向日葵畑の、真ん中を歩く一人の少女

風景が変わる気配はなく、人影もない

自分一人だという事実に少女は一抹の恐怖を覚え、

そして察する

少女

…そうか、ここは

少女

…漫画の新刊、買ってないのに…

思わず伏せていた顔を上げると、道の先に何かが見えた

少女

あれは…バス停?

漫画のような屋根付きのバス停があった

少女

ここで待て、ということなのか…な

そっとベンチに腰掛ける

遠くで蝉の鳴き声が聞こえた

少女

ここは一体…

極楽浄土は、もっと楽しいところだと思っていた

少女

死んだ後で暑いと感じるなんて…

彼女の言葉は路上に溶けた

もはやバスが来ることすらも疑って、

少女はしばらく俯いていた

それから、どのくらい経っただろうか

やや固めの足音が、かすかに聞こえてきた

少女は思わず身を乗り出した

足音の方を見ると、スーツ姿の男が立っていた

…あ、よかった

彼は安堵の表情を浮かべる

俺一人なのかと、思った

こつ、こつと無機質なローファーの足音を立てて、

ゆっくりと少女の元に近づいていく

少女

あの、あなたは…

男が少女の隣に座る

…俺は…

…あ

名前を聞いたつもりだった少女は、目を見開いて固まってしまった男を前に戸惑う

少女

…あの?

…名前が

掠れた低い声が、微妙に震えている

…名前が思い出せない

少女

え…?

彼の一言に、少女も目を見開く

君の名前を、聞いていいかな

少女

…あ、私は…

当たり前のことが、出てこなかった

少女

私は…

やっぱり、か

ふう、と息をついて、男が背もたれに体重を預ける

…皮肉なもんだな…

少女

え?

…自分の死因は、鮮明に思い出せるのに

少女

…あ…

沈黙が二人を包む

…なぁ

少女

…はい

聞いても、いいかな

どうやって君が、ここに来たのか

再びの沈黙

少女の喉元を汗が伝う

ゆっくりと少女は口を開く

少女

…事故ですよ

少女

信号待ちで、たまたまクラスメイトに背中を押された

少女

それだけです

無意識に両手を握り込む

…ごめん

少女

…いいんです

気まずそうな彼の一言を飲み込む

意図せず視線が泳ぐ

…こんなとき、なんて言えばいいのか分からないけど

男の言葉に、少女は思わず彼の瞳を見つめる

透き通った焦げ茶色をしていた

…頑張ったね

柔らかく微笑む彼の言葉には、裏も表もなかった

頬が濡れる

…俺に出来ることは…

少女

…ハグしてください

…え

少女

ハグ、してください

思いもしない言葉に、男は腰を浮かす

少女

ほら、早く

でも…

少女

いいから

言葉に引っ張られたように、男の両手が伸びてくる

ぽふ、と彼の胸に頭をつける

背に触れる彼の手が温かい

少女も彼の背に腕を回す

蝉が鳴いている

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