短編

アルバムの中から 見つけたのは

くしゃくしゃになった 3枚の手紙でした＿。

1ヶ月前 マスターは『てんごく』へ 旅立ちました

お空には

『てんごく』という ところがあって

マスターはそこへ

行ったのだと聞きました

ねぇ、マスター

私はそこに行けないんですか？

死なないと行けないんですか？

ひらっ…

ごめんな。 もっと早くに伝えるべきだった でも怖くて言えなかったんだ

病気であることを認めたくなかったから

もっと一緒にいられるかもしれないって 希望を捨てる事が出来なかったんだ

だから、ごめん

5年前、事故で亡くなったアイツの形見としておばさんからお前を押し付けられた時

正直めんどくさい事になったなって思った

お前はわがままばっか言うし、 騒ぐし、すぐ泣くし でも すごく楽しかった

うす暗かった部屋が明るくなった 花や樹や外に広がる世界を 綺麗だと思えるようになった

忘れかけていた曲を作る事の楽しさを 思い出すことが出来た

全部お前のおかげだ

ありがとう 本当にありがとう でもごめん 何もお返し出来ないや

アイツの代わりに 俺がお前に歌を作り続けるんだって 決めてたのに

ずっと一緒にいるって約束したのに

守れなくてごめん 本当にごめん

家の温かさを教えてくれたのはマスターでしょ

外の世界は本当は綺麗で

命が溢れていることを 教えてくれたのも マスターでしょ

沢山の歌を、歌詞の意味を

教えてくれたのはマスターでしょ

…何で

私を、置いていくんですか

もっと一緒に居たかった

一緒に歌っていたかった

一緒に

一緒に

ごそごそっ…

初めてマスターと会った時

前のマスターと違って、ひねくれた人だと思いました

意地っ張りで素直じゃない嫌な人だと思った

でも

勝手に家を飛び出した私を探してくれるような優しい人だった

そんな天邪鬼なマスターのことですから

きっとてんごくでも友だちが出来ずにひとりぼっちかもしれませんね

ソフトをアンインストールします よろしいですか？ 『はい』 いいえ

ばさっ

ねぇマスター、覚えていますか？

初めて出会ったあの日のこと

初めて歌わせてくれたあの日のこと

私は全部覚えていますよ

だって私にとっては本当に

大切な思い出だから

ねぇ マスター

私がずっとそばに居ますよ