目覚めると見慣れない景色
嗅ぎ慣れない匂い
窓からは光が射し込んでくる
昨日は上司との飲み会だったはず…
そういえば無理やり飲まされて…
そこからの記憶がない
頭痛い…
とりあえずこの部屋から出よう
肌寒い廊下
マンションかな
まるで誰も住んでいないかのように 生活感がない
リビングにはソファーとテレビ
カーテンは全て締め切っていた
テレビにはホコリが被っていて 使ってなさそうだった
キッチンのカウンターテーブルに パンケーキと置き手紙が置いてあった
置き手紙にはこう書いてあった
おはようございます きっと君は昨日の事を全く覚えていないと思う。 簡単に説明すると、道端で酔って倒れてた君を俺が助けたってことかな。 今は仕事に行ってるから帰りたかったら勝手に帰ってていいよ。 お腹空いてたらパンケーキどうぞ どこかのだれかさん
助けてくれたのか
誰かわからないけど パンケーキまで作ってくれて 彼の優しさを感じる
しかし、どこか引っ掛かる
“どこかのだれかさん”
あなたは本当の名を名乗らない
お腹空いた
訳のわからないまま 彼が作ったパンケーキを机に運ぶ
少し冷めているけれど ふわふわとした生地と シロップのほんのりとした甘さが 口の中に溶ける
なぜ助けてくれたのか
なぜこんなに 美味しいパンケーキまで 作ってくれたのか
なぜ名を名乗らないのか
なぞなぞを解くみたいに すごく頭を使う
とりあえず何かあったときのために カバンの中にあるスマホを探さなきゃ
そこまで 怪しい人では なさそうだけど…
パンケーキを食べ終えて お皿を洗いカバンを探す
玄関、クローゼット、リビング ダイニング、寝室、トイレ、お風呂
しかし、カバンはどこにもなかった
リビングに戻り、テレビをつける
カバンがないと帰ろうにも 帰れないじゃん
頭が痛くてソファーに寝転がり そのまま眠りについてしまった
A.M.1:36
目覚めても私はまだ “どこかのだれかさん"の家の中
どこかのだれかさん
すると見知らぬ男の人の声が
どこかのだれかさん
体を起こすとキッチンに立っている 男の人の姿が見えた
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
俺様すぎて少しムカついたから この人みたいに嘘をついた
川上 愛
少し困ったような顔をしたけど それから笑って
どこかのだれかさん
本当に変わった人に 助けられちゃったな
川上 愛
あっでもカバン…
どこかのだれかさん
やっぱり
この人は最初から 私を返す気がなかったんだ
でもそれくらい私もわかってた
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
お金に困ってたから少し心が揺れた
その一言とこの人へのウザさは 固く守られていた私の心に 深く突き刺さった
川上 愛
川上 愛
川上 愛
川上 愛
そして彼はニヤッと笑った
どこかのだれかさん
私が部屋を出る前に聞こえたこの一言
絶対惚れてやるもんか
一人、お風呂であっかんべをした
どこかのだれかさん
川上 愛
どこかのだれかさん
この上から目線 本当にムカつく
どこかのだれかさん
私が前に座ったのに 何も話さない"どこかのだれかさん"
ただ私をじっと見つめてくるだけ
川上 愛
それでも話さないから 私もじっと見つめるけど 彼は全く動じない
惚れたなら照れるくらいしろよ
それでもダメだから私は目をそらした
そしたらやっと彼が口を開いた
どこかのだれかさん
急に話し始めたと思ったら 彼も目をそらした
どこかのだれかさん
だからパンケーキが あんなに美味しかったんだ
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
俯いて話を止めた “どこかのだれかさん"
自分がわからない “どこかのだれかさん"
普段はあんなに生意気なのに 裏では一人で抱え込んでる
そんな”どこかのだれかさん”の背中を 黙ってさすってあげた
すると一滴、彼の涙が私の膝に落ちた
きっと今まで誰にも 頼ってなかったのだろう
数分後
どこかのだれかさん
川上 愛
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
川上 愛
どこかのだれかさん
川上 愛
どこかのだれかさん
川上 愛
A.M. 2:04
日付がとっくに変わっても このやり取りは なかなか終わりそうにないみたい
ベッドはシングル
私がベッドで、 敷布団がないから “どこかのだれかさん"はソファー
それから”どこかのだれかさん" って言いにくいから 最終的には”どこちゃん”になった
絶対嫌だって言われたけど なんか上から目線な呼び名だから こっちは満足
そしてどこちゃんが 寝る前に話してくれたこと
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
嬉しそうだったけど、部屋を出る前に 私の目に映ったのは
悲しそうな顔だった
どこかのだれかさん
そんなどこちゃんの声で目覚めた朝
今日でどこちゃんの家に 住み始めて二週間
喧嘩ばかりの毎日だけど
なんだかんだ楽しい
毎日作ってくれるご飯は 本当にコックになりたかったんだな と毎回思わせられる
美味しいって言うと 悲しそうな顔をするんだ
だから今日、毎日昼から ホストの仕事へ出かけるどこちゃんに 聞いてみることにした
川上 愛
ほら 悲しそうな顔をした
川上 愛
すると黙ってドアに手を掛けた どこちゃんの腕を掴んだ
川上 愛
川上 愛
川上 愛
そんなこと思ってもなかったけど 口が勝手に動いた
思ってなかったっていうか 普段うざいからだよね
すると、どこちゃんは無視して 家を出て行った
どこちゃんが作ってくれた お昼ご飯を食べようと思い、 キッチンに向かった
ふと、棚にある ダンボールが気になった
なんだかホコリまみれなのに 物がたくさん入っている
川上 愛
ほんとに どこちゃんったら…
普段あまり家にいないから 何もかもがホコリっぽい
中にはぐちゃぐちゃに なった本がたくさん入っていた
しかも、その本は全て料理本
そしてその本の1ページ1ページに たくさんの付箋が貼ってあった
コックになりたいと本気で思っていた どこちゃんの努力
私が惚れたら どこちゃんはもう一度 夢を追いかけてくれるのかな
川上 愛
頭の中のどこちゃんを かき消す用に言ったけど
どこちゃんは頭から離れないみたい
A.M. 1:25
どこかのだれかさん
どこちゃんが帰ってきた
ガチャ
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
そういって疲れた顔をして 荷物を置いた
どこかのだれかさん
その瞬間、どこちゃんは固まった
どこかのだれかさん
川上 愛
川上 愛
川上 愛
そう
カバンはダンボールの中に 料理本と一緒に入っていたのだ
でもどこちゃんはカバンを 見つけたこと、
それよりも料理本を 見つけたことに驚いているみたい
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
そういって私が読んでいた料理本を ダンボールに片付けだしたどこちゃん
そんなどこちゃんに 私はカチンときた
川上 愛
川上 愛
川上 愛
川上 愛
叫んだ
どこちゃんの頭に 叩き込まれるように
どこちゃんは下を向いている
どこかのだれかさん
そして私の方を見て笑って
どこかのだれかさん
って。
普段はニヤけるどこちゃんが ニコッと笑うのは初めて見た
そんな顔されたら 照れるじゃん
川上 愛
川上 愛
どこかのだれかさん
川上 愛
川上 愛
ポンポンっとカバンのホコリを払った
どこかのだれかさん
聞こえたのか気のせいなのか わからないくらいの声で呟いた
気のせいだよね
どこかのだれかさん
本当にそう思ってるの?
だって可哀想だもん
寂しそうだもん
正直、どこちゃんのそばに いてあげたいと思った
この人なら
川上 愛
川上 愛
川上 愛
どこかのだれかさん
どこかのだれかさん
どこちゃんも私も 照れてるみたい
どこかのだれかさん
まだ名前を教えてなかった私
川上 愛
どこかのだれかさん
川上 愛
どこかのだれかさん
川上 愛
どこかのだれかさん
何回も繰り返すから 少し恥ずかしくなって
川上 愛
川上 愛
どこちゃんは少し 考えたようだったけど
どこかのだれかさん
なんて言って
どこかのだれかさん
戸部龍吾
まさか教えてくれるなんて 思ってなかったからついびっくりして 黙り込んでしまった
戸部龍吾
川上 愛
川上 愛
そういったらクスッと笑って
戸部龍吾
なんて言って 私の頭をクシャッっとしてきた
川上 愛
戸部龍吾
川上 愛
戸部龍吾
戸部龍吾
川上 愛
川上 愛
戸部龍吾
やっぱり私
龍吾のことが好きみたい
そして最後の日が来た
この日は龍吾は 仕事が休みだった
戸部龍吾
川上 愛
まだ眠たい私だけど 龍吾は真剣な顔
戸部龍吾
そう言われて ダイニングの椅子に座った
言われることはわかってる
答えも決まってる
戸部龍吾
戸部龍吾
戸部龍吾
不器用な私の答えを 聞いてくれるかな
川上 愛
川上 愛
川上 愛
川上 愛
川上 愛
ギュッ
その瞬間 龍吾の匂いに包まれた
戸部龍吾
戸部龍吾
でも私は龍吾の腕をほどいた
川上 愛
川上 愛
川上 愛
コメント
2件
タピオカミルクティーさん コメントありがとうございます😊きっと叶うはずです!
コックさんの奥さんになることを叶えて欲しいです!