朝のチャイムが鳴る直前、教室の空気はぴんと張りつめていた。誰もがスマホをいじるふりをして、実際は入口を気にしている。
その中で、ひとり。窓際の席にいる廻だけが、にこにこしながらチョコレートを口に運んでいた。
廻
それは誰にも聞こえない独り言。けれど、その声にはどこかうれしそうな響きがあった。
世一が学校に来なくなって、今日で三日目だった。
いつも静かに座っていた後ろの席は空っぽのまま。教師は何も言わないし、クラスメイトも“お察し”モードで話題に出さない。
その中で、誠士郎は今日も淡々と席に着いていた。
彼が教室に入るたび、何人かの視線が彼の背中を刺す。けれど凪は気にする素振りもなく、ただ無表情に座ってスマホを取り出す。
玲王
チャイムが鳴って授業が始まる直前、後ろの席から玲王の声がした。
玲王
誠志郎
玲王
誠志郎
誠志郎は一切表情を変えずに、スマホの画面から目を離さない。玲王の顔が強張った。
それでも、クラス中の視線はそのやりとりに集中していた。彼らが“付き合っている”ことは、昨日玲王が半ば強引に公開したからだ。けれど、その後の凪の反応が想像よりも冷たすぎて、噂だけが勝手に膨らんでいる。
その日の放課後。誠志郎は玲王を屋上に呼び出した。
春風が肌寒く吹き抜けるなか、玲王は少し震えていた。
玲王
誠志郎
玲王
誠志郎
言葉はやわらかいのに、心には鋭く刺さる。玲王は顔を引きつらせて、無理に笑った。
玲王
誠志郎は答えずに、ただ静かにその場を去った。
玄関の鍵を開ける音がした瞬間、リビングにいた世一の身体がぴくりと動いた。
誠志郎の足音。だけど、誠志郎が入ってきた瞬間、その匂いがした。
玲王の香水。その甘ったるい、人工的な匂い。
世一
ガラガラと何かが壊れる音が、世一の胸の奥で響いた。
次の瞬間、過呼吸の波が襲う。喉がつまる、視界がぶれる、手が震える。
世一
か細い声で呼びかけるが、誠志郎はすぐに駆け寄ってきた。
誠志郎
誠志郎の腕が潔の身体を抱きしめる。けれど、それすらも世一には毒だった。
世一
誠志郎
嗚咽。涙。崩れる声。誠志郎の服を掴んで、壊れたように泣きじゃくる世一を、誠志郎はただ抱きしめ続けた。
誠志郎
静かに誠志郎が言う。
俺以外の匂いは、もう絶対つけない。俺の手でしか、触れない。俺の声でしか、呼ばない
世一は答えない。ただ、誠志郎の胸にしがみついていた。
その夜、部屋には鍵がかけられた。
ふたりだけの密室。
もう誰にも邪魔させない、ふたりだけの世界。
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コメント
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死ぬ最高神かよ 大好き過ぎます 続き楽しみにしてます 頑張ってくださいぃ
神作×最高でした.ᐟ.ᐟ 次回も楽しみに待ってます✨ 🫶100にしました.ᐟ.ᐟ 続き頑張って下さい🔥