テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

朝のチャイムが鳴る直前、教室の空気はぴんと張りつめていた。誰もがスマホをいじるふりをして、実際は入口を気にしている。

その中で、ひとり。窓際の席にいる廻だけが、にこにこしながらチョコレートを口に運んでいた。

今日も来ないね…

それは誰にも聞こえない独り言。けれど、その声にはどこかうれしそうな響きがあった。

世一が学校に来なくなって、今日で三日目だった。

いつも静かに座っていた後ろの席は空っぽのまま。教師は何も言わないし、クラスメイトも“お察し”モードで話題に出さない。

その中で、誠士郎は今日も淡々と席に着いていた。

彼が教室に入るたび、何人かの視線が彼の背中を刺す。けれど凪は気にする素振りもなく、ただ無表情に座ってスマホを取り出す。

玲王

ねえ、誠志郎

チャイムが鳴って授業が始まる直前、後ろの席から玲王の声がした。

玲王

放課後、ちょっと時間ある?

誠志郎

……ない

玲王

ちょ、まだ何も言ってな──

誠志郎

ないって言った

誠志郎は一切表情を変えずに、スマホの画面から目を離さない。玲王の顔が強張った。

それでも、クラス中の視線はそのやりとりに集中していた。彼らが“付き合っている”ことは、昨日玲王が半ば強引に公開したからだ。けれど、その後の凪の反応が想像よりも冷たすぎて、噂だけが勝手に膨らんでいる。

その日の放課後。誠志郎は玲王を屋上に呼び出した。

春風が肌寒く吹き抜けるなか、玲王は少し震えていた。

玲王

なあ誠志郎……なんでそんな、冷たいんだよ。俺たち、付き合ってたよな?

誠志郎

してたね。でももうやめよう

玲王

え……?

誠志郎

俺、最初から好きじゃなかった。玲王のこと

言葉はやわらかいのに、心には鋭く刺さる。玲王は顔を引きつらせて、無理に笑った。

玲王

な、なに言ってんだよ。お前、あいつのとこに行くの……?」

誠志郎は答えずに、ただ静かにその場を去った。

玄関の鍵を開ける音がした瞬間、リビングにいた世一の身体がぴくりと動いた。

誠志郎の足音。だけど、誠志郎が入ってきた瞬間、その匂いがした。

玲王の香水。その甘ったるい、人工的な匂い。

世一

……っ、うそ……なんで……

ガラガラと何かが壊れる音が、世一の胸の奥で響いた。

次の瞬間、過呼吸の波が襲う。喉がつまる、視界がぶれる、手が震える。

世一

せ、い……しろ……

か細い声で呼びかけるが、誠志郎はすぐに駆け寄ってきた。

誠志郎

ごめん、ごめん……違う、そうじゃない、もう終わった、終わらせてきた……!

誠志郎の腕が潔の身体を抱きしめる。けれど、それすらも世一には毒だった。

世一

う、そ……まだ……匂い、してる……!

誠志郎

すぐ消える。だから……だから、そばにいさせて

嗚咽。涙。崩れる声。誠志郎の服を掴んで、壊れたように泣きじゃくる世一を、誠志郎はただ抱きしめ続けた。

誠志郎

……約束しよう

静かに誠志郎が言う。

俺以外の匂いは、もう絶対つけない。俺の手でしか、触れない。俺の声でしか、呼ばない

世一は答えない。ただ、誠志郎の胸にしがみついていた。

その夜、部屋には鍵がかけられた。

ふたりだけの密室。

もう誰にも邪魔させない、ふたりだけの世界。

next→100♡and2comment

今日もお兄ちゃんはいい子でした

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

223

コメント

5

ユーザー

死ぬ最高神かよ 大好き過ぎます 続き楽しみにしてます 頑張ってくださいぃ

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚