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4月の風はまだ冷たく、
桜の花びらが校門前をひらひらと舞っていた。
烏野高校。
その名の通り、黒い羽を背負ったようなエンブレムが印象的な、
どこにでもある地方の公立高校。
転校してきたばかりの霧島澪は
教室の隅の席から窓の外を見ていた。
作った笑顔は完璧で、
自己紹介も問題なく済ませた。
けれど、その裏にあるのは、
誰にも見せたことの無い
『無表情』
な自分だけだった。
霧島 澪
誰にも聞こえないように呟く。
もう期待なんてしない。
信じない。
人の優しさも、絆も、
全部_嘘だったから。
放課後。
ふらりと足が体育館へ向かった。
バレー部が強いと聞いていたけど、
ドアの隙間から覗いたコートは
がらんとしていた。
霧島 澪
首を傾げていると、ふと視界の端に人影が映った。
体育館の端、照明の届かないベンチの隅に
1人の青年が座っている。
オレンジがかった髪。
膝を抱えて、俯くその姿は、
まるで_
羽を失った小さな烏
のようだった。
霧島 澪
思わず名前を呼んでいた。
教室の隅の席の男子が
『あいつ昔は凄かったんだよ』
と話していたのを思い出したから。
彼は顔を上げた。
光のない目。
けれど、その奥に、
深い、深い闇を抱えていた。
日向 翔陽
霧島 澪
沈黙が落ちる。
日向 翔陽
静かに、でもはっきりと。
その声は自分自身に言い聞かせているようだった。
その日から澪は毎日、
放課後の体育館に通うようになる。
練習など行われていない。
誰も来ない、誰も見ない、その空間へ_
ただ無言で過ごす時間。
傷を抱えた2人が、距離を取ったまま座っている時間。
言葉が無くとも澪は思った。
(この人も壊れたんだ。)
その壊れ方が、あまりにも自分に似ていて、
怖いくらいだった_