さつまいも
さつまいも
さつまいも
さつまいも
さつまいも
天気は曇りのようだった
窓から差し込む光は白く いま現在居るこの空間と同化して、どこからが外なのか、どこからが内なのか曖昧だった
真っ直ぐを見ていても 何も分からない
だから、周りを見てみた
ソファー、テレビ、キッチンや洗面所へ通じるドアなどがある
ああ、ここは家のリビングなのだ
私はたったいま、ようやく思い至った
ここは いつも見ている光景なのに
なんでもっと早く 気が付かなかったんだろう
そう認識した途端、視界がクリアになる
物の輪郭がハッキリとして 家具の色味の濃淡が強調されてきた
それでも、ここは真っ白であった
その理由
元々 白で統一されたレイアウトなのだ
採光窓も四方にある 風通しはいいが、それだけ光も通る
つまり 空の色を鏡写しにしてしまう
だから、いまのリビングは 何だか神秘的に映った
不思議な気分で 見慣れた光景を見ていると
音が聞こえた
シュワ シュワ シュワ シュワ
シュワ シュワ シュワ シュワ
これは クマゼミの鳴き声だろうか
そうか
夏なんだな
視覚と聴覚が次第にクリアになると 他の感覚も鮮明になった
今ではもう 微妙に汗ばんでいる
夏の雰囲気を噛み締めていると 蝉の声に混じって何か聞こえる
「出てきてー」
「ねえ、居るんでしょうー?」
家の裏手からだった
「おーい」
「おーい」
私は無意識に裏手へ回っていた
ドアの向こうから声がする
どうやら、私を呼んでいる
「おーい」
声音から察するに、子供の声だ
それも 男の子や女の子の声がする
「ねぇってー」
私は気付いた
一人二人ではない
声の方向を追ってみると 家の周辺を囲むほどの大人数だ
何が目的なんだろうか
「おかあさーん」
私は面食らった
私の性別は男であり 仮に女性だとして、そんな歳ではない
それに、ここは私の家だ
お母さんなど居ない
「おとうさーん」
「おにいちゃーん」 「おねえちゃーん」
「おーい」「おーい」
「あけてー」「ねえー」
「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」「おーい」
「どうやったらあけてもらえるかな」
私は、また気付いた
この子たちは とにかくここを開けてもらいたい
誰でもいい
誰でもいいから 扉を開けて連れて行こうとしている
連れて行く先はもちろん
「あけてみよーよ」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
あの世なのだろう
……
さつまいも
さつまいも
さつまいも
さつまいも
さつまいも