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下限の月が淡く光る、深く明るい東京の夜。一際高く、一際煌めくタワーマンション吸い込まれていく不思議と艶めかしい背中があった…

春千夜

おーい、九井いるかー?

そう言いながら三途は血糊のべったりとついた手で梵天本部扉を押し開けた。 カタタタタタタタタ カタタ カタタタタタタタタ 聞き慣れた九井のタイピング音が耳を掠める。

春千夜

こないだの融資の件なんだけdーーーー。

竜胆

九井、今留守。

カタタタタタタタタ カタタタタ カタタタタタタ カタタタタタタタタ 変わらずタイピング音は部屋に響き続けているが、それは九井のものではなかったらしい。

竜胆

今ここ俺しかいないから。九井は商談、他は、まぁいつもの仕事。

春千夜

灰谷兄の方はどうした…お前らが別仕事とか、何かあったのか?

竜胆

お得意さんからのご指名。

春千夜

嗚呼、あいつ顔だけはいいからなぁ…

三途が思わずぼやくと竜胆はおかしそうに笑った。

竜胆

ふっ、ふふっ

春千夜

おまっ、何笑ってんだよ

竜胆

いや、特大ブーメランだなぁって、ふふっ、思って、ふふふっ

春千夜

はぁぁ⁈それはお前もだろうが‼︎

思わず叫んだその刹那、三途は竜胆の浮かべた表情にはっと息を呑んだ。

竜胆

へぇ…三途、俺の顔好きなの?

形のいい唇を真っ赤な唇でちろりと舐めて、上目遣いでこちらを見上げる様は脳を溶かすかと思われるほどに妖艶で。

五臓六腑を突き上げるような感覚が、三途を貫いた。

春千夜

っっぁ。あ、えと。…風呂行ってくる。

竜胆

いってらっしゃ〜い。

バタムッ 三途が風呂場のドアを乱暴に閉める音がした。

竜胆

・・・あぁーーーーっ!

竜胆

やば…まだ心臓どきどきいってる。

竜胆が三途のことを好きだと言うのは、既に梵天では周知の事実であった。さらに三途も竜胆のことが好きで、二人が両想いであるというのは梵天では常識であった。あの灰谷蘭でさえ二人のことは応援しており、マイキーすらちょくちょく九井に進展を尋ねた。それほどまでに二人の恋心はわかりやすかった。

三途は事あるごとに竜胆を目で追い、竜胆は三途に話しかけられる度に耳を染めた。それなのに。それなのに!幸運というべきか不幸というべきか、お互いだけに、互いの想いは一ミリも伝わっていなかった。驚くほどに二人は天然で鈍感だった。

周りの皆は二人の恋を成就させるため本当に頑張った。九井は二人の共同任務をさりげなく増やしたし、望月と明司は媚薬効果のある酒とやらを買い込んだ。蘭は人間のたらしこみ方について竜胆に講説し、鶴蝶は話しを聞いてワタワタした。

しかし、それらも二人の前にはことごとく無力であるかと思われた。 あまりにも鈍感、あまりにも奥手、あまりにも天然。

竜胆

三途…今日会食あるって九井言ってたよな…

竜胆

相手女の人だったのかな。

竜胆

はぁーーーー。

竜胆

三途は、やっぱり…

三途の恋愛対象は女だ。だって、あいつのセフレはみんな、女だったから。 俺は土俵にも上がれていない。その事を思うたび、胸が苦しくなる。俺のことを見てほしい、少しでいい、ほんの少しでいいから。こっちを向いて欲しい。無理だということは重々承知している、けれど、諦められない。

共同任務のとき優しくしてくれたあいつの顔が

飛んだときに甘えるようように縋ってきたあいつの体温が

忘れられない

竜胆

三途…

ポチャン…

三途の白く滑らかな肌を、一粒の水滴が滴り落ちる。

ポチャン…

三途の心をうつしとったかのように、水面が揺れた。

春千夜

・・・

ポチャン…

ポチャン…

春千夜

・・・はぁ

ふと、三途の口から溜息が零れた。

ポチャン…

春千夜

あいつは・・・

ポチャン…

春千夜

俺のことなんて、気にも留めてないんだろうな

ポチャン…

ポタタッ

春千夜

あれ、俺…

ポタッポタタタタッ

春千夜

はは、なんで泣いてんだよ…

三途の白く滑らかな肌を、一滴の涙が滴り落ちる。

春千夜

なぁ、竜胆。俺じゃ、だめなのか?

あの日、天使が降りてきそうなほど、空の低かった日。 俺は、竜胆に恋をした。

秋も終わりかけの肌寒い日、俺は寒いのは特別苦手だったからいつもは完全防備で外へ出るのが定石なのだが、その日は待ち合わせ場所まで車で向かったため、すっかり手袋を家に忘れてしまった。

春千夜

ふぅーー、さっむ。

春千夜

あ…チッ、手袋忘れてきたな…

春千夜

でももうそろそろ丁度5分前くらいになるし、駅から離れた駐車場停めたから急がねぇと

・・・

俺が集合場所に着いた時には、竜胆はもうそこにいた。 俺も時間より早めに来たのに、竜胆はいつから待っていてくれたのだろう。そんな健気なところも可愛らしかった。

思えば、もう既に俺は竜胆のことが好きだったのかもしれない。 金柑色の夕陽に照らされて一人立つあいつは本当に綺麗で、あまりにも儚く消えてしまいそうだったから慌てて声をかけたのを覚えている。

春千夜

っ、り、竜胆!

竜胆

あ、三途!

春千夜

あー

春千夜

待たせて悪かったな

竜胆

ううん、俺が早く来すぎただけだから。

春千夜

本当お前そういうところが…

可愛いんだよなぁ

竜胆

ん?なんか言った?

春千夜

あ、いや、なんでもない。

竜胆

そう?じゃ、そろそろ行こうぜ。

春千夜

あぁ。

春千夜

今日の任務、お前九井から聞いてる?

竜胆

うん、今日は金の引き渡しだけだって。

春千夜

じゃあ、早く帰れるな。

竜胆

・・・そうだな。

竜胆

ってか三途手袋は?

竜胆

いつもあんなに寒そうにしてんのに、

春千夜

あ゛ー。忘れた。

竜胆

いきなり竜胆は自分の手袋を脱ぎ始め、それを俺の方へ突き出した。

竜胆

竜胆

やる。

春千夜

春千夜

いや、いい

竜胆

っ・・・

竜胆

そっか。ごめん

竜胆

俺、余計なこと

春千夜

そのかわり、さ

春千夜

手。つないでくれねぇ?

可笑しなことを言っている自覚はあった。手袋の代わりに手を繋ぐだなんて、三十路に差し掛かろうかという大の男がすることじゃないのはわかっていた。けれど、欲が勝ってしまったんだと思う。

繋ぎたかった。少しでもいいから、近くにいるという実感が欲しかった。

まぁ、当然断られるだろうと、思っていた。

竜胆

・・・わかった。

春千夜

え?

竜胆

だから!

竜胆

手…繋ごうよ。

春千夜

春千夜

あぁ。竜胆、手、貸せ。

竜胆

うん!

そうだ。そうだった。耳まで真っ赤にしながら手を繋ごうという竜胆は息を呑むほど可愛いらしくて。その瞬間、俺は竜胆のことが好きなのだと理解した。

竜胆

あ、焼き芋屋さん。

春千夜

ははっ、竜胆店に「さん」つけるんだな、はははっ

竜胆

なんだよ…そんなにおかしいかよ…

春千夜

は、ははっ

春千夜

いや?、ただ

春千夜

可愛いなって、思って。

春千夜

折角だから食ってこうぜ

竜胆

いいね。

竜胆

石焼き芋なんて食うの何年ぶりだろ。

春千夜

俺は…20年ぶりくらい

竜胆

最後に食ったのどんだけ前だよ。

焼き芋屋のおっさんから受け取った焼き芋はとてもあったかくて、冷えた俺たちの手を温めてくれた。

春千夜

さっき通った公園で食ってこうぜ。

竜胆

さんせー。

竜胆

なぁ、マイキーの分は買わなくてよかったのか?

春千夜

あ…

春千夜

竜胆と一緒に食べることしか考えてなかった…

竜胆

ふふっ。なんだよそれ。

竜胆

まぁ今日くらいいいんじゃねーの。

春千夜

・・・そうだな。

・・・

春千夜

あっちぃ⁉︎

竜胆

三途急ぎすぎ

春千夜

だって…

竜胆

ほら、貸して?

ふぅーふぅー

春千夜

ちょ、おまっ

竜胆

あっ、ごめん。兄貴のときの癖で…

春千夜

いや、別に嫌じゃなかったからいいんだけど。

春千夜

お前兄貴にいつもこんなことやってんの?

竜胆

うん

春千夜

うわぁ。ブラコンきっしょ…

竜胆

ふふふっ

竜胆

拗ねんなって。

春千夜

別に。

春千夜

拗ねてねーし。

竜胆

もう兄貴にもやんないから。

春千夜

ん。わかった。

竜胆と一緒に食べた焼き芋はどんな高級料理より美味しくて。この時間が永遠に続けばいいと思った。

人生好き放題、一片の悔いなし。とでも言い切りそうな男、灰谷蘭は今とても後悔していた。

はぁーーーー。

あれ、絶対俺のせいだよなぁ…

マイキー

蘭、どうした?

竜胆と三途のことで少し…

マイキー

あぁ。あの二人に何か進展はあったのか?

なんで首領ちょっとワクワクしてるんですか…

それに、進展とかじゃなくて

多分二人に進展がないのは半分くらい俺のせいだから。

マイキー

どういうことだ?

蘭は手に握っていた紫紺のカクテルをゆらゆらと混ぜると一気に煽り、ふっと息を吐き出した。グラスの縁が月光に照らせれ宝石のように輝き、淡い影を蘭の膝に落とした。

少し前に、三途が俺に「竜胆は女が好きなんだよな?」って聞いてきたことがあったんですよ。

今まで竜胆が付き合ってたやつはみんな女だったし

まだ竜胆が三途を好きだってことにも気がついてなかったから

「いきなり何聞いてんの、当然でしょ」

って答えちゃって

マイキー

・・・

マイキー

俺はそれよりも

マイキー

お前らに「お付き合い」って言う感覚があったことに驚いてる。

首領は俺たちのことなんだと思ってるんですか。

今からでも呼べば13人くらいは来ると思いますよ。

マイキー

13…

マイキー

多分お前らの思ってるお付き合いはお付き合いじゃない。

まあ、とりあえず。

俺がそう答えてしまったせいで、すれ違ってしまってるんじゃないかと思って。

マイキー

・・・

マイキー

帰ったら、誤解、解いてやれよ。

ふふっ、首領。

あの二人のこととなるとやけに積極的ですね。

マイキー

三途は…三途は最後まで俺を見捨てないでいてくれたから

マイキー

俺がこんな道に引きずり込んでしまったことはわかってる。

マイキー

だけど、それでもまだあいつに幸せになる道が残されているなら

マイキー

せめてその道を歩ませてやりたいんだ。

三途、愛されてるじゃん

首領、それ三途の前で言ってあげてくださいよ

きっと三途跳び上がって喜ぶから

マイキー

やだ

蘭の膝に落ちる影は濃さを増し、街の至る所で無数の星が瞬き始めた。

フットマン

佐々木様、篠谷様、お客様がお見えになりました。

はーい

あ、ここのグラス全部片付けちゃって

あと予定してたワインもう出しといてほしい

フットマン

かしこまりました

フットマン

お客様はお部屋を整えてからの御案内で宜しいでしょうか。

うん

そうして

いいですよね首領

マイキー

あぁ

フットマン

それではテーブル、失礼いたします。

春千夜

ふぅ…

春千夜

あったまった

一人でいると色々なことを考え込んでしまう癖が三途にはあった。

先程頭に浮かんだ考えがこびりついて離れない。

春千夜

俺は、戦力外通告、か…

竜胆の恋愛対象は女。他でもない蘭から聞いた言葉だ、間違いはないのだろう。

春千夜

あ゛ーやめだやめ

春千夜

こんなこと考え込んでてもどうにもなんねぇ

春千夜

てか早く服きねぇと寒い。

・・・

春千夜

あっれ…

春千夜

上着がねぇな…

梵天本部では皆よく血に塗れて帰ってくることが多く、シャワーを浴びるため着替えやら各々の私物(幹部曰くお泊まりセット)が沢山置かれていた。

基本的にそこで泊まった場合の家事などは自分で行うことになっているが、洗濯だけは今年76を迎えた米さんと呼ばれる家政婦さんが行っており。いつも脱衣所とクローゼットに分けて置いておいてくれるのだ。

これは完全に余談だが、米さんはよく人生相談にのってくれたり、ご飯を作ってくれたり、飴ちゃんをくれたりするためとても人気で、マイキーも懐いている。

明司は少し失職の危機を感じたと話している。

春千夜

あー、そういや米さん最近雪続きで洗濯物が乾きにくいっつってたな

春千夜

しょうがねぇ

春千夜

まぁ、部屋は暖房焚いてあるだろうし、平気か。

そう言うと、三途は半裸のまま脱衣所を後にしたのであった。

春千夜

なぁ竜胆、お前もう風呂入った?

春千夜

もう入ったならお湯抜いちゃうけど

竜胆

あー、抜いちゃっていいよ

竜胆

もう入ったか…は?

そう話しながら顔を上げると、目の前に上半身裸の三途が立っていた。

竜胆

っっっお前、服着ろよ!!!

春千夜

あー、脱衣所に服がなくて

顔に熱が集中していくのが自分でもわかる。 きっと俺の顔は耳まで真っ赤だろう。

ーー恥ずかしい‼︎ーー

春千夜

お、おい竜胆ちょっと待て!

竜胆

うるさいっ!

竜胆

早く服着てきて!!

近くにあったクッションや座布団を手あたり次第三途の方へ投げつけた。

春千夜

うおっ

春千夜

竜胆落ち着…

ゴトッ

ゴロゴロゴロ…

春千夜

あ゛?なんだこれ?

竜胆

ん?

春千夜

なんか落ちてきた。

春千夜

竜胆これお前の酒か?

竜胆

ううん

竜胆

初めて見た。

三途の手に握られていたのは瓶に絡みつくように真虫の意匠が施された酒であった。

そう、あの明司と望月が二人が両想いであるという吉報に気を動転させて買い集めた媚薬酒である。

特に明司の気合いの入りようは凄まじく、なんとしてでも三途の恋を成就させると息巻いて持てる全ての力を使い世界中から集めたため、不安に思った九井が鑑定したところ、中には本当に洒落にならないくらい効果の高いものもあったので処分が決定し隠されていたものもあった。

そして三途が今手に持つのは正真正銘の媚薬兼自白剤。最早酒の形をした薬といっても過言ではない代物だった。

竜胆

うわ…高そう。

春千夜

・・・これ、飲んでみねぇ?

竜胆

え?

春千夜

どうせ武臣あたりが一人でこっそり楽しもうとして隠してた酒だろ?

春千夜

こっそり全部飲んであいつに吠え面かかせてやろうぜ

竜胆

ふふっ、いいかも

竜胆

じゃあちょっとグラス持ってくるわ

春千夜

おー、ありがと

トクトクトクトク

オーロラ色に輝く透き通ったタンブラーに真虫酒がなみなみと注がれる。

真虫酒はまるで二人の想いが溶け出したかのように淡い桃色に色づいていた。

「「おお〜‼︎」」

二人の声が重なった。

春千夜

すげぇー!

春千夜

さっすが武臣の秘蔵っ子!

竜胆

めっちゃいい匂いする!

竜胆

ね!三途、飲んでみよ!

二人は一気に酒を煽った。

・・・

  

竜胆

(あれ…なんか、ふわふわしてきた…)

春千夜

う゛っ、なんだこれ。

春千夜

ぐらぐらする。

竜胆

三途、大丈夫ぅ?

春千夜

度数強すぎだろ…

春千夜

待て、確か酒弱いのって蘭の方じゃなくて竜胆だったか?

竜胆

(頭…回らない)

竜胆

(三途いい匂いする…)

春千夜

っあぁ、やばい。

春千夜

なんか、変な気分に…

春千夜

(竜胆って、こんな色っぽかったか…?)

三途の上半身に目が吸い寄せられる。風呂上がりの身体は程よく火照っていて、首筋の方から鍛え上げられた筋肉の間を通って雫が垂れる。髪はしっとりと濡れ、耳の先は赤く、瞳はとろんと蕩け始めている。

竜胆

(三途…)

春千夜

おい、竜胆本当に大丈夫か⁈

竜胆

三途ぅ…

三途が竜胆を介抱しようと伸ばした手を、竜胆の白い指が絡めとった。

春千夜

ちょっ、竜胆⁈

三途が一気に押し倒される。

竜胆の甘い香りがいっぱいに広がり、三途の脳を崩壊させていく。

竜胆

ねぇ。三途…

竜胆

しよ♡

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コメント

5

ユーザー

失礼しますッ‼︎ まぁ…なんか、願望…と言うか…⁇ 春千夜の武臣は一応兄弟だから…ね? お互い名前呼びだと、思うんですよ… 今度作る時は…名前にして欲しい…すね。はい。 無理なら大丈夫です!

ユーザー

続き見たいです! フォロワーの意地見せてやるぜえええ☆(((いいね1万なんて余裕じゃ☆

ユーザー

どっちが受けでどっちが攻めなんやろう...春千夜受けがいi((殴 続き楽しみです頑張って下さい!!!ヾ(●´∀`●)ノ

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