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朝。 蒼は、鏡を見なかった。 見なくても分かる。 もう、自分の顔はほとんど残っていない。
登校しても、 誰にもぶつからない。 机も、椅子も、 最初から「なかった」。 蒼は、 この学校から消えかけていた。
放課後。 校内放送が流れる。
「蒼くん、 旧校舎へ来てください」
静まり返る校舎。 誰も、不思議に思わない。 それが、この学校だった。
旧校舎の扉は、 最初から開いていた。 中には、 教師たちが立っている。 担任もいた。
担任
蒼
教師たちが、少し安心した顔をする。
蒼は、一歩前に出た。
「この学校が、 “問題を消してきた”ことも」
空気が、凍る。
担任
蒼は、うなずいた。 そして、 ポケットから一冊のノートを取り出す。 ――黒いノート。
蒼
ノートを開く。 そこには、 消えた生徒全員の名前。 そして、 最後のページ。 はっきり書かれた、一つの名前。
蒼
教室の影から、 黒ノートの男子が現れる。 いや―― 黒ノートの“少年だった存在”。 初めて、 輪郭がはっきりしている。
担任
蒼は、教師を見た。
蒼
蒼は、続けた。
蒼
教師たちの顔が、歪む。
蒼は、黒板に名前を書いた。 消えた生徒、全員分。 書くたびに、 校舎の灯りが一つずつ点く。
最後に、 蒼は自分の名前を書いた。 そして、 線を引いた。
蒼
眩しい光。 教師たちの姿が、 かき消える。
気づくと、 蒼は校門の前に立っていた。 朝だった。 制服を着た生徒たちが、 笑いながら通り過ぎる。 音が、戻っている。
校舎の掲示板。 そこには、 一枚の張り紙。
「旧校舎解体のお知らせ」
蒼は、 自分の胸に手を当てる。 ――ちゃんと、触れる。
背後から、声。
???
振り向くと、 見覚えのある少年が立っていた。 黒いノートは、持っていない。 普通の、生徒。
蒼
少年は、笑った。
こういち
二人は、 校舎へ向かって歩き出す。 この日、 この学校から消えたのは―― “いなかったことにされた過去”だけだった。
蒼
ーーーー[完]ーーーー