自分が普通じゃないって気づいたのは
6歳のときだった
通っていた小学校で開かれた学芸会での劇
王子様が出てくる話で
割り当てられた役は王子の家来
台詞は一言だけ
今でもはっきり覚えている
『王子様、行ってらっしゃいませ』
でもそのたった一言が
俺は言えなかった
みんなの戸惑う顔
聞こえてくるざわめき
今でも忘れられないし
たまに夢に出てくる
その時は俺の台詞をとばして劇が続けられ
大きな問題にはならずにすんだ
思い返してみると
それまでにも言葉がスムーズに出ないって感覚はあった気がする
でも、よくは覚えていない
覚えていないってことは
大きく困ることはなかったんだと思う
でもあの劇のあとから、変わった
多分あのときに
俺は自分が上手く喋れないって意識した
そして意識したことが
症状の悪化に繋がった
「言葉が上手く出てこない」
って言う経験は誰にでもあると思う
衝撃のあまり
感動のあまり
みたいな感じに
だけどそれらは
「言う言葉が見つからない」
とも言い換えられる
でも俺の場合は全く違う
言いたい
言うべき言葉は見つかっているのにそれが声にならない
そういう時に決まって言われるのは
落ち着いて話せ
ということ
だけど、違うんだ
落ち着いていないわけじゃない
だって
毎日顔を合わせる家族との会話でさえそうなるんだから
普通、家族に対して緊張なんてしない
それなのに声は出ない
例えば
『おはよう』
が、俺には言えない
朝、目が覚めて
部屋から出てキッチンにいるお母さんの後ろ姿を見た時
言うべき朝の挨拶が頭に浮かぶけれど
俺はそれを言えない
最初の『お』の音が出てこない
無理に言えば
『お、お、お、おはよう』
という格好悪い、つっかえた言葉になる
だから俺は大抵
家族に『おはよう』を言わない
そのうちお母さんが気付いて先に言ってくれて
俺はそれに『うん』とだけ返す
だけどたまに、すんなり『おはよう』って言える時もある
その時々によって違う
調子がいい時もあれば
悪い時もある
『うん』や『はい』という短い言葉でさえ出てこないこともあった
こんな調子だから毎日辛い
本当に、辛い
学校でもすごく苦労した
何しろ
クラスメイトとまともな会話ができないんだから
幸い、虐めと呼べる程の事をされた覚えは無いけれど
笑われたり
からかわれたりするのは日常だった
友達をつくるのもとても苦労して
だから小学生の6年間、楽しい思い出はあまりない
辛く苦労した思い出は、幾らでもあるのに
吃音。
俺が抱えているものは、そういう風に呼ばれるらしい
それを知ったのは
3ヶ月前
インターネットで何とか治す方法な無いのかと調べてみた時だ
その時初めて俺は、自分が抱えるものの正体を知った
更にはこれだけ発達した現代医学においても原因は分からず
そしてなにより
治療方法がはっきりと確立されていないことも知ってしまったのだった
コメント
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続き楽しみにしてます
吃音症的なやつかな、?
これも絶対神作品だぁ