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存在(1.2.3.4)

第2話 - 存在~2~

2019年08月16日

#ミステリー

#不思議

#創作

#物語

ゑゐをる

※語り

ロイクの弟が18歳の誕生日を迎えていた。

※語り

ロイクが7歳の頃、彼には弟が誕生した。暗い家庭に差した眩しい光の様な出来事であった。

※語り

その頃のロイクは幾分かの明るさを取り戻し、普通の児童のように振る舞えていた。そのため、学校では決して多くはないが、数人の友達ができていた。真面目に授業を受け、教員からの評価も悪くはなかった。

※語り

しかし、ロイクの疲労感は治ったわけではなかった。帰宅するやいなや、すぐに自室に閉じこもり、ぼーっと窓の外を眺めていた。外からの同級生が遊ぶ声に魅力は一切感じず、ただずっと閉じこもっているだけで楽だった。

※語り

そのため、親はロイクからは何も聞かされない学校生活について心配で、特別に担任からの電話面談を毎日行っていた。そこから聞くロイクは普通の児童であったが、家での様子からはとても想像できなかった。

※語り

信頼関係がないままの毎日は家族間に溝を作っていた。その時に産まれた弟であった。目を覚ますような元気な泣き声、見るだけで自然と笑顔になるような笑い声、そしてどんなときにでも気持ちを癒す寝顔には、親は幸福を毎日感じていた。

※語り

それだけではない。ロイクもこの魔法とも言える弟に癒されていた。毎日の底知れない疲労感を回復してくれたのだ。ロイクは自分から徐々に笑うようになり、それにつられて家族全員が幸せな気分に浸っていった。

※語り

ロイクの弟は成長するにあたって、その元気さを失うことはなかった。それどころか周りのどんな子供にも負けない活発さを備えていった。近くの子供仲間ではリーダー格になり、どんな子供にも明るく接していた。家の中でもその勢いはおさまらず、家庭は賑やかであった。

※語り

一方ロイクは、そんな弟に羨ましさは一切感じていなかった。それどころか、静かな兄に明るい弟という組み合わせは見事に噛み合い、家族間における絆は一層深まった。

※語り

そのおかげで親の仕事ははかどり、家庭は特別裕福ではないが、それなりの経済力を持った。旅行の頻度も増え、理想的な家族として過ごしていた。

ロイク

「そういえば、今日はアイツの18の誕生日だったな。いや、昨日か。」

※語り

会社の残業を終えたロイクはふと呟いた。ロイクの弟はそのまま順調に進学し、ロイクはそれなりに大手の企業に就職し、弟も有名大学に入学した。

※語り

ロイクにはそのいつまでも続く疲労感の代償に、ある特別な能力が備わっていた。それは物事にすぐ対応することができるのだ。案外普通のことかも知れないが、彼は大学では一度学習したことから全てに応用し、課題をいち早く解決したり、自動車訓練でも、まるで毎日運転しているかのような手際の良さを見せた。この能力は実は小、中、高校でも発揮しており、成績はいつもトップクラスであった。就職してもその能力はいかされ、営業成績は良く、上司に可愛がられていた。

※語り

だが、その疲労感が故に、仕事のペースはあまり良くなかった。しばしば残業していた。

※語り

今日は特に疲れていた。頭痛がひどく、身体の節々が痛む。それでも今日は早退するわけにはいかず、上司に特別許可をもらい、深夜過ぎまで仕事をしていた。そして日付が変わった頃になんとか終わらせたところである。

ロイク

「アイツの誕生日ぐらいは祝ってやりたかったけどな、仕方ない。」

※語り

ロイクは会社を出て、駐車場に歩く。ビル群のネオンは弱々しくなり、道は暗くなってくる。小さなゴミに混じり、枯葉が風に煽られ流れてくる。コートの襟を立てたロイクは軽く身震いする。

ロイク

「しかし、今日の頭痛はやけにひどいな。風邪かも知れないぞ。」

※語り

脳が割れそうに痛むのをこらえ、なんとか車にたどり着く。くる途中エンジンを遠隔操作していたので、緩やかなモーター音が鳴っている。ドアを開け、運転席に乗り込み、一度切れたエンジンをかけ直す。車内は暖かい。光の無い駐車場は青く鋭いヘッドライトに照らされる。夜間走行用のメガネを掛け、ゆっくりと車を出す。会社の駐車場なので、カードをかざすだけでバーが上がる。

ロイク

「アイツに何か良いのはないかな。」

※語り

ロイクはふと思った。弟に何かをあげることなど滅多に無い。だが、今日は誕生日に祝ってやれなかったお詫びとして何かプレゼントするのも悪くない。今の時代、軽い店の接客はほとんど機械化したので、24時間営業しているのがほとんどだ。

ロイク

「そういえば、アイツのコートはもう古くなっていたな。コートにしよう。」

※語り

ロイクは車をしばらくの間転がし、紳士服店に入った。車から降り、機械の冷たい自動音声を聞き逃し、コートコーナーに入る。欲しいものは全て見つかった。弟とは性格が180度違う代わりに、服などの趣味や背丈がほとんど同じなのである。自分の気に入ったものを買えば良い。

※語り

会計をカードで済ませ、梱包機に入れる。数秒もかからない内に出てくる。それを大事そうに持ちながら、店を出る。急に吹き始めた冷風に縮こまりながら、車に駆け気味で戻る。

※語り

エンジンをかけて置かなかったため、少し冷えた車内に乗り込もうとしたとき、視界から自分の車が消えた。黒板を爪で引っ掻く音が身体中に響き渡る。次の瞬間、今度は頭の外側から来る激しい衝撃を感じた。