朔
…よし。
携帯を見終えた彼は思いついたようにこちらを見た。
朔
まず、会社に電話しようか。
意気消沈していた私に
彼は軽く言い放つ。
朔
僕の言うことをちゃんと伝えてもらえるかな。
私
…。
朔
もし助けを求めたりすれば
朔
きっと僕は君を刺して、そして両親も殺しにいくよ。
!!!…っ!!
朔
…わかるよね?
急に冷淡な顔つきに戻る
そしてから彼は気を取り戻すようにまたフワッと軽く言い放つ。
朔
まず、君は今長野の実家にいる事にするんだ。
朔
そして母親が事故で緊急搬送されて実家近くの病院にいるんだと言い、意識不明のためいつ戻れるか分からない事、もしかしたら戻ってこれないかもしれない事。
朔
そしてまた連絡を3日後に入れると伝えて欲しい。
私
…。
どうやっても逃げる隙が見当たらない
勤めて3ヶ月の私を
心配なんてしてくれないだろうし
言葉の少ない私なんか…
朔
…わかったかな
朔
ちゃんとできる?
彼は持っていた包丁を
私の心臓へと差し向ける
強く脅すような鋭い眼光
私は
コクリとうなずいた。
私
もし…もし。
会社の上司
はい。株式会社〇〇です。
私
あ。〇〇さんですか…私です。
会社の上司
ああ!お疲れ様!
包丁が強く押し当てられた。
私
あ、あの。すみません。
私
実は…母が事故に遭いまして。
会社の上司
ええーー!大丈夫なの?
心臓がバクバクする…
私
き、緊急搬送で…意識不明で…
私
今、…長野の実家なんです。
私
それでいつ戻ってこれるかわからなくて…
会社の上司
そっかぁー。それは心配だよな。
信じ、るの?
会社の上司
いいよ!大丈夫!お休みして大丈夫だからお母さんみてあげてね!
私
…はい。
私
また3日後くらいに連絡します…。
会社の上司
みんなには俺から伝えておくから!
会社の上司
あんまり気を落とさないようにな!
私
…
気付いてよ…
違うの。今私大変なの!
大変なの!たいへん。
大変なのに…
朔
…切れ。
私
…では。
会社の上司
はーい!
心無い社交辞令の効いた言葉
言葉に心なんて篭ってない。他人事
きっと機械の必要のないネジが抜けたくらいにしか思っていないのだろう。
朔
いい子だね。よくできたよ。
彼は包丁を収めると
私の頭をポンポンと撫でた。
見下してるの?
それとも私をいいように利用するため?
もう訳が分からなかった。
彼はまた私の口元にタオルを巻き込み
ズルズルと椅子ごと私を引きづり奥の部屋へと連れていった。
二部屋しかない狭いアパート。
その狭い部屋のど真ん中に
置き物のようにして置かれた私。
これからどうなっていくんだろう。
近所の人もつながりがない。
会社の人も気にしていない。
知り合いも友達もいない…
もう、もう…
朔
…
朔
…大丈夫だよ。
彼は私を後ろからフワッと包み込んだ。
朔
…僕を守ってくれてありがとう。
朔
心配しないで…きっと
朔
きっと…大丈夫だから
子供を安心させるように。
冷たく硬い手が私をさすった。
それは私へ向けてなのか、
彼自身に向けてなのか…
…つづく。