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看護師が去ってすぐ、近くの木から悟の病室を見守っていた烏は、また窓のふちに立っていた。
烏
悟
烏が期待を込めた瞳で悟を見て問うが、悟はその意味がわからず首を傾げる。
烏
確かに誰しもが一度は考えるはずだ。『もし、超能力を手に入れたら何がしたいか』と。ただし、それは王道な瞬間移動や透明人間といった超能力の場合である。悟が得たものは、あまり派手な超能力ではないので唸《うな》りながら腕を組んで悩む。
悟
そして、ふと思い出したことがある。小さい頃に出会った野良犬、田んぼを散歩する蛇、しゃがんでようやく気づく働き蟻、夕方に聞こえる烏の声……彼らは一体何を考えているんだろうか、と。
悟
ぽつりと悟の口からこぼれ落ちた。
烏
悟
悟は今更ながらに自分の名前は教えたのに、烏から名前を聞いていなかったことを思い出す。
烏
悟
これから一緒に過ごすことを考えれば、名前がないと不便だなと悟は思う。
悟
烏
悟は思わず目を丸くした。それは、これから先何度も呼び続けるためのものだから、一緒に考えた方がいいだろうと思っていたのに丸投げされてしまったからである。
悟
悟
黒いから『クロ』というのは安直《あんちょく》な気がするし、烏は全員真っ黒だからなと悟は考える。烏といえば夕日だから『ゆうひ』にするのもパッとしない。悟は烏のイメージから一旦離れて窓ふちに立つ烏のことだけを考えてみることにした。
──おまえ、死ぬの? ──おまえ、生きてたんだな ──動物の取材……何かそれ、面白そうだな! オレもついてっていい?
悟
烏
悟
いまいちだっただろうか、と悟は烏の顔色を窺《うかが》いながら聞くが、悟には烏の顔色など分かるはずもない。
烏
悟
烏
名前の由来《ゆらい》に納得する好盛《こうせい》が威張っているように見えて悟は思わず吹き出し笑う。
悟
好盛
だが、心配性の両親は暫《しばら》く遠出を許してはくれず、結局は実行に移しはじめたのは三年後の冬であった。