2021年9月12日 わたしはこの日を 永遠に忘れないだろう
その日も平凡に1日が終わるはずだった もうすぐ付き合って3年になるリクから 突然電話が来るまでは
リク
樹里
リク
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
樹里
リク
リク
リク
樹里
リク
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
樹里
電話はそこで切れた
あまりにも突拍子のない とつぜんの離別に
わたしは耐えられなかった
なによりもリクが自らの意志で わたしから離れたということに
わたしは耐えられなかった
このままじゃ終われなかった
わたしはなんとしてでも リクとの関係を終わらせたくなかった
でも結果として リクは離れた
リクなしでやっていける可能性は ゼロに等しい
これからどうやって 生きていけばいいのか
わたしは途方に暮れて ゆく宛もなくさびれた街路を歩いた
その時だった
眩いばかりの閃光が わたしの視界を覆い わたしを包み込んだ
樹里
目を覚ますといつのまにか 自室のベッドの上だった
わたしは慌ててスマホを手に取る
これまで見ていたものが すべて悪い夢であればと願いつつ
通話履歴を開いた
樹里
願いが通じたのか リクとの通話履歴は存在しなかった
時計を見る 2021年9月12日の朝だった
樹里
樹里
樹里
そうだ こんなに相思相愛なわたしとリクが
突拍子もなく別れるわけがないのだ
樹里
リクに電話しよう そうすれば完全に
あの悪い夢を忘れられるかもしれない
樹里
樹里
樹里
リク
リクの声 世界でいちばんやさしい声だ
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
リク
リク
樹里
樹里
樹里
リク
リク
リク
リク
樹里
泣きじゃくるわたしを リクはやさしくなだめてくれた
リクはきっと運命の人だ 別れるはずなんてない
平凡に終わるはずの今日だったが それは突然に暗転することとなる
夕方になって リクから突然電話が来たからだった
リク
樹里
リク
樹里
別れたいと言われたらどうしよう どう引きとめれば良いのだろう
リク
樹里
樹里
リク
リク
リク
リク
樹里
リク
リク
リク
樹里
リク
リク
リク
電話はそこで切れた
どことなく見覚えのある終わり方
そうか 夢の中だ
昨日見ていた夢とまったく同じ
疑問と焦燥が 熱になってわたしにめまいをもたらす
同じだ
昨日とぜんぶ同じ
なんでこうなることが分かっていながら どうしようも出来なかったんだろう
そんなことを考えていると
急に目の前が明るくなり
光がすべてを呑んだ
目を覚ますと 自分の部屋だった
急いで時計を見る
2021年9月12日の朝
わたしは大慌てで リクに電話をかける
リク
リク
樹里
樹里
樹里
昨日のままではいけない
繰り返すわけにはいかないのだ
リク
樹里
樹里
樹里
樹里
リク
リク
樹里
樹里
リク
樹里
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
リク
樹里
リク
ややあって電話が切られた
よかった もう昨日の夢を繰り返すことはない
リクはもう既に着いていた
ようやく安心できた 不安で不安で仕方なかった
樹里
樹里
リク
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
リク
リク
樹里
リクは突然わたしの手を握って わたしに身を寄せた
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
リクの顔を覗きこんだ でもリクは目を合わせようとしない
樹里
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
言いよどんだわたしの唇に
リクの唇があわさった
どうすることもできない状態が数秒経って
リクの顔が離れた
頬に暖かい滴が 流れたのがわかった
動けなくなったわたしを放るように リクは足早に公園を後にした
どうしてだろう
わたしはもう 悲しみから抜け出せないのかもしれない
気づいたらあの街路を とぼとぼと歩いている
樹里
なんの予兆もなく訪れた「終わり」
わたしはどうすれば この悪夢から救いだされるのか
いや
どうすればリクを 引きとめられるのか
延々とそんなことを考えていると またあの光に包まれた
気がつくと自室
2021年9月12日
リクに電話をかけようか
そう思ったがやめておいた
電話しても たぶん結果は変わらないからだ
なぜわたしは見放されるんだろう
そもそもこの悪夢は
どうすれば断ち切れるのか
この悪い夢の先に リクとの日常が待っている
いまはそう思うしかないのか
樹里
わたしは閃いた
なんの理由もなしにリクがわたしを 見すてることはない
つまり どこかに原因があるはず
それを片っ端から調べなくては
まずはリクと出会ったころから
大学時代の卒業アルバムを開く
リクとはおなじ学年で おなじ文学部だった
わたしから告白して 「おれでよければ」と言われたとき
人生で一番感動した
大学を卒業してから
お互い違う会社に入ったけど
毎日電話を欠かさなかった
電話越しの大好きという言葉は その次の日を生きのびるための パワーになった
休みの日には予定を合わせて いろんな場所に遊びに行った
リクはいつも奢ってくれた
わたしがプレゼントした財布を たくさん使いたいと言ってくれた
財布…財布… そうだ
リクの財布
いつもたくさん メモみたいなものが入っていた
なにかのカードだろうか
わたしの知らないメモ
そういえば
大学を出てから
なぜかリクはわたしと 会いたがらない日があった
最初のうちは 不安でしかなかったけど
不安だからこそ それを払拭しなければならなかった
なるべく忘れるようつとめた
でも もしかしたらわたしに 隠し事をしている?
ほかに好きな人ができたの?
そんなわけはない
でも
突然別れを切り出される
そこに真意があるとすれば?
きっとそうだ
リク
リク
樹里
樹里
リク
リク
樹里
樹里
リク
リク
樹里
樹里
やっぱりそうだった
リクはこれ以上ない沈痛な面持ちで 下唇を噛んでいた
リク
樹里
樹里
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
リク
樹里
いつまでも目を合わせようとしない リクの顔を
わたしは思い切り 平手で打った
リク
リクはなにか口ごもる素振りを見せて 身をひるがえし歩き去る
わたしはベンチに力なく座りこみ 声を上げてひとり泣いた
泣き疲れてそのまま ベンチでうたた寝をしていた
もしかしてと思って スマホの時刻を見るが
2021年9月12日午後6時12分
結局いつもと変わらない
でも今日だけは
いつもの場所に行けなかった
あの場所まで歩く元気もないし あの場所に行く意味もない
ここで静かに 時間が経つのを待とう
ゆっくりと 実にゆっくりと時間が過ぎた
少しずつ公園は暗くなり
わたしも闇に溶け込むように 眠くなってきた
樹里
目が覚めると ベッドの上だった
右足がやけに重く 呼吸がしづらい
誰かが電話をかけている
看護士
看護士
看護士
看護士
看護士
看護士
樹里
看護士
看護士
樹里
樹里
樹里
看護士
看護士
看護士
いかにも大喜びと言わんばかりに 白衣の女はわたしに笑いかける
樹里
樹里
看護士
看護士
彼女の目が丸くなった まるで何かを悟ったかのように
ちょうどそのとき 部屋のドアが開いて
お母さんが現れた
綾子
綾子
綾子
綾子
樹里
樹里
看護士
看護士
看護士
綾子
綾子
看護士
看護士
看護士
綾子
なにがなんだか 理解できないままだった
お母さんは苛立った様子で 不満げにため息をついた
綾子
綾子
綾子
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
綾子
綾子
綾子
綾子
綾子
綾子
綾子
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
綾子
綾子
2021年9月16日 あの日から4日経っていた
お母さんの話によれば こうらしい
リクは9月12日 わたしに別れることを告げた
それからすぐ お母さんに
わたしに宛てた手紙を 持ってきた
一方悲しみに暮れたわたしは そこで自ら死ぬことしか 考えなかった
わたしは道路に身を投げ トラックに轢かれた
重傷を負って意識を失った すぐさま救急車が駆けつけた
一命は取りとめたが 脚に後遺症が残るほどの大怪我だった
だからわたしは 4日間昏睡状態だった
でもいまのわたしには どれだけ怪我が酷くても 関係のないことだ
リクはもういない
その最期すら見届けることが できなかった
ただそれだけの事実で わたしは失意のどん底に 突き落とされた
見慣れたあの場所へ来た
もうあの苦しい時間を繰り返すことは ないだろう
今日 ひとつだけ分かったことがある
リクはわたしを遠ざけようと あんなことを言ったのではなく
わたしにリク自身を忘れて 生きて欲しいから
別れようと告げたのだ
それに気づかなかったわたしは
ただひたすら 愚かだった
でももう良かった
前方に白い光があった
わたしはその光に身を委ねて 瞼を閉じた
樹里
2021年9月12日 見覚えのある部屋
樹里
樹里
たしかに全ては夢なのかもしれない
けれど わたしにとっては
すべて実感をともなった 現実に他ならない
…あの時間が近づいていた もうすぐ電話が来る
来た リクからの着信
樹里
リク
樹里
わたしは泣き出しそうになるのを ぐっと堪えた
リク
リク
リク
樹里
樹里
樹里
リク
リク
リク
樹里
樹里
樹里
樹里
樹里
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
樹里
リク
リク
リク
リク
リク
樹里
樹里
リク
リク
リク
樹里
そして 電話は終わった
わたしはようやく あることに気づいた
いつの間にか 悪い夢だと思っていた9月12日たちは
ゆっくり ほんとうの夢へとすり変わっていた ということに
そして事実を認めた時 現実に戻れることにも
2021年9月17日
わたしはお母さんからもらった リクが書いた手紙を開封した
リクはずっと前から わたしにそれを望んでいたのかもしれない
このあと リクのお墓に行くつもりだ
最後に直接 リクにありがとうが言いたかった
人間はあまりに不条理で 納得いかない場に面したとき
その場を繰り返し生きる幻想を 見ることがあるという
リクとわたしは そこにとどまっていたのだろう
リクからもらった手紙 そこにはたった一言
こう書いてあった
進め、今日の向こう側へ
Fin. 最後までお読みくださり ありがとうございました この物語はフィクションです
コメント
4件
今回はいつもと少し雰囲気が違う作品でしたが、構成もお話もすごく良かったです!胸キュンしました✨もはや公式作家さんレベルですね…!