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ruruha
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もふ
いつものように事務所のデスクで動画の編集をしていた俺に、もふくんが神妙な面持ちでタブレットを差し出してきた。
画面に表示されていたのは、ここ数週間の動画に投稿された、ある一つのアカウントからのコメントだった。
『今日の5分42秒、じゃぱぱさんちょっと風邪気味?無理しないでね。』
『12分15秒の笑い方、いつもより少し元気がなかった気がする。』
そこまでは、よくいる熱心なファンのコメントに見えた。
しかし、スクロールするにつれて、その内容は異常な細かさを帯びていく。
『今日の動画の部屋、いつもとカーテンの折り目が違う。洗濯した?』
『さっき後ろに一瞬映った本棚、2冊目の位置がズレてるよ。』
じゃぱぱ
背筋に冷たいものが走る。
俺の部屋の、メンバーさえ気づかないような極小の変化を、画面越しにすべて見抜いている。
アカウント名は『jp_omajinai』
プロフィールのアイコンは真っ黒だった。
もふ
もふくんの忠言に、俺は
じゃぱぱ
と生返事をしながら、心の中で必死に恐怖を打ち消そうとしていた。
その日の夜。俺はいつも通り、メンバー全員とのコラボ動画の撮影を終えた。
じゃぱぱ
と賑やかに通話を切り、静まり返った部屋でふう、と息を吐く。
時計の針は深夜2時を回っていた。
パコン、とディスコードの通知音が鳴る。
メンバーの誰かからの連絡かと思い画面を見ると、
それは知らないアカウントからのDMだった。
送信者は――
『jp_omajinai』
恐る恐るメッセージを開く。
じゃぱぱ
そこには、1枚の画像が添付されていた。
写っていたのは、暗い部屋の中でパソコンに向かって作業をしている、一人の男の後ろ姿。
カラフルなパーカー。
少し癖のある髪型。
息が止まった。
それは、今まさにこの部屋で、パソコンの画面を見つめている
「俺自身」の後ろ姿だった。
撮影された角度は、俺の背後にあるクローゼットの方向から。
ガタ、と椅子を蹴立てて立ち上がり、振り返る。
暗闇の中、クローゼットの扉は完全に閉まっている。
意を決して駆け寄り、扉を勢いよく開け放った。
ガチャ!!
中は空っぽだった。ただ、衣装が並んでいるだけ。
幻覚か、悪質なコラージュ画像か。
混乱する頭でパソコンの画面に戻ると、新たなメッセージが届いていた。
指が震えて、文字がうまく打てない。
じゃぱぱ
必死に打ち込んで送信する。すぐに既読がついた。
メッセージと一緒に、先ほど終わったばかりの撮影の音声データが送られてきた。
再生する。
楽しそうなメンバーの声。
そして、俺が「お疲れ様ー!」と言って通話を切る直前。
メンバーの誰のものでもない、男の「声」が混ざっていた。
??
鳥肌が全身に立つ。
あいつは、俺たちの鍵付きの通話に、ずっと潜んでいた。
メンバー全員、誰も気づかないほど完璧に気配を消して。
スマホの画面に、新たなメッセージがポップアップする。
逆?
俺はゆっくりと、もう一度振り返った。
クローゼットではない。
俺の部屋にある、もう一つの
「隠れられる場所」
…
…
…
ベッドの下。
暗闇に包まれたベッドの隙間から、すうっと、
一本の青白い「人間の手」が伸びてきた。
その手には、俺が昨日失くしたはずの、部屋の合鍵が握られていた。
??
ベッドの底から、人間の歪んだ笑顔が、じっと俺を見上げていた