青峰海
……
宝条椿
すー……すー……
青峰海
……
青峰海
お嬢様。
宝条椿
……すー……
青峰海
お嬢様。起きて下さい。
宝条椿
……すー……
青峰海
……
宝条椿
……ん…?なんか寒い…
宝条椿
!?
青峰海
お、起きられましたか?
宝条椿
青峰!!何ボタン外してんの!?
青峰海
このままでは遅刻なので、着替えをお手伝いしようかと。
宝条椿
ただのセクハラでしょう!?
宝条椿
でてけーー!!!
大財閥の娘だから、当然メイドや執事に囲まれる生活を送っている。
青峰海
それにしてもお嬢様…
宝条椿
なによ。
青峰海
その貧相な胸でその下着は引っかかりが無さすぎて合わないかと。
宝条椿
〜〜〜っ!!
宝条椿
さいってえええええ!!
まぁ、私は婚約者も決まっていて、窮屈な人生を送る身。
こういうやり取りで心を和ませないと、今にも潰れそう……
如月修太郎
あ、宝条さん!
如月修太郎
おはよう!
宝条椿
如月さん、おはようございます……
如月修太郎
今夜のパーティー無理に出席してもらってごめんね。
如月修太郎
次の日も平日なのに…
宝条椿
いえいえ、お兄様の小説が賞をとったんですし、
宝条椿
喜んで参加させていただきます笑
如月修太郎
いやぁ、ありがたいよ…
生まれた時から私と結婚することが決まっている人……
如月修太郎
じゃあ、夜また。
宝条椿
はい。
宝条椿
紳士…。
如月さんは無理やり迫ったりしないし、ルックスもいいし、断る理由が見つからない。
青峰海
お嬢様、着替えられましたか?
宝条椿
うん。できた。
青峰海
……
宝条椿
…なに?なんか変?
青峰海
はい。
宝条椿
!!
宝条椿
ど、どこが?
青峰海
……顔?
宝条椿
いや失礼ね!
宝条椿
?
宝条椿
なに?椅子に座らせて…
青峰海
……
青峰海
なんか元気ないですけど
青峰海
どうかしましたか?
宝条椿
……
宝条椿
別に。
青峰海
って、お嬢様は如月家に行く時はいつもそんな顔ですね。
宝条椿
……
青峰海
……メイクし直します。
宝条椿
は?
宝条椿
なんで?
青峰海
お嬢様の顔に全然あってないからです。
宝条椿
はぁ。
青峰海
気分が上がらない時は、まず身なりを変えるんです。
青峰海
明るい気持ちになるメイクをすれば、明るくなれます。
宝条椿
いやなんなの急に優しくなっちゃって…からかう気?
青峰海
静かにして下さい。
宝条椿
オレンジのチーク?
宝条椿
私あんまり使ったことないけど…
青峰海
お嬢様はピンクよりオレンジの方が似合います。
青峰海
それに今日のドレスは淡い黄色……オレンジの方が合うのでは?
宝条椿
それはまぁ、確かに。
宝条椿
今日メイクしてくれたの新人のメイドさんだったし仕方ないよ。
青峰海
……俺の方がお嬢様を分かってる、てことですね
宝条椿
そりゃ長いでしょう、あんたは。
宝条椿
口紅は?
青峰海
今日はリップグロスだけで仕上げます。
宝条椿
え?映えなくない?
青峰海
お嬢様は顔立ちがくっきりしてますからね、控えめなメイクの方が本来の美しさが引き立つんですよ。
宝条椿
…本来の美しさ?
青峰海
まぁ、訳すと、
青峰海
メイクで誤魔化してケバくなるより、いっそ正直に素の顔でいけということですね。
宝条椿
むっかっつっく…
宝条椿
終わった?
青峰海
はい…いかがですか?
宝条椿
はぁ。
宝条椿
(悔しいけど、メイクの腕はさすがね…)
青峰海
あぁ、ひとつ忘れてました。
宝条椿
ん?なに…って
宝条椿
ちょっと!!何手の甲に書いてんのよ!
宝条椿
これ口紅?ニコちゃんマークなんて書いて…
青峰海
どーせ手袋はめるんですしいいではないですか笑
青峰海
元気になれるおまじないです。
宝条椿
……
宝条椿
はぁ。
青峰海
ではそろそろ行きましょうか。
如月修太郎
宝条さん!
宝条椿
如月さん…こんばんは。
如月修太郎
よく来てくれたね…ドレス似合ってるよ。
宝条椿
ありがとうございます。
如月修太郎
それに綺麗だ。今日はメイクがいつもと違うのかな?
宝条椿
あ、はい…今日はこちらの青峰が……
青峰海
……
如月修太郎
……
宝条椿
…?
如月修太郎
あ、いや…
如月修太郎
いい執事さんだね、じゃあもう僕はいくよ…
宝条椿
何あの間…
宝条椿
青峰あんた挨拶くらいしなさいよ、無礼ね。
青峰海
……
宝条椿
青峰?
青峰海
いえ…さぁ、大広間まで行きましょう。
宝条椿
え?ええ…
宝条椿
(なんで大広間の場所知ってるの?)
宝条椿
はぁ…さすが如月家ね、料理がすごいわ。
青峰海
そんなに食べられて大丈夫ですか?
宝条椿
今日はお腹がすいてるのよ……
青峰海
……そうですか。
青峰海
おや
青峰海
誰かグラスを落としたようですね。
宝条椿
あ、小さい子がグラスに触ろうと……
宝条椿
そこの坊や、離れなさい、危ないわ!
青峰海
お嬢様はここに。
青峰海
大丈夫ですか?私が片付けますので、食事に戻られて結構ですよ。
宝条椿
……さすが。
宝条椿
ボーイ達が来る前に対応するなんて。
宝条椿
(これでからかってこなきゃあいい執事なのにねぇ…)
宝条椿
(まぁでも、今日はなんか優しかったというか…)
宝条椿
(不覚にもドキドキさせられてしまった…)
宝条椿
ダメね私も…あ、そこのボーイさん、飲み物をいただける?
青峰海
お嬢様、遅くなってすみません…
青峰海
……お嬢様?
宝条椿
…はれ?あおみねぇ?
青峰海
……?お嬢様?
宝条椿
あぉみねがぁ、2人にみぇる…なんでだろぉ…
青峰海
……これシャンパンだし……
青峰海
(こんな所で酔った姿見せたら宝条家の恥だな…)
青峰海
お嬢様、行きますよ…
青峰海
お嬢様、起きてますか?
宝条椿
んんー…頭いたぁい…
青峰海
お酒を飲まれたんです。誰から飲み物を?
宝条椿
ボーイさんに頼んだ…
青峰海
……未成年に見られなかったのか。
青峰海
ったく宝条家の娘の顔くらい覚えとけよ使えねえ……。
宝条椿
あぉみね……?怒ってるの…?
青峰海
ええ。
宝条椿
怒らない…で…
青峰海
え
青峰海
いえ、ボーイに怒っているだけでお嬢様には…
宝条椿
あおみね…が…いなくなっちゃったら私…
宝条椿
押し潰されちゃうよ…
青峰海
……お嬢様
宝条椿
いかないで…ぃかないで
青峰海
……
青峰海
どこにも行きません…ここにいます。
宝条椿
……
宝条椿
…すー…すー…
青峰海
……はぁ。
青峰海
ほんとこのお嬢様は…
青峰海
……参るなぁ。
如月修太郎
……あれ?宝条さん?
如月修太郎
寝てるの?
青峰海
!
如月修太郎
…海……どうしたんだ。
青峰海
シャンパン間違って飲んだんだよ。
青峰海
ったくお前のとこのボーイに注意しとけよ。
如月修太郎
それは悪かったね……。
如月修太郎
ところで…いつまでそんなこと続ける気?
青峰海
何がだよ。
如月修太郎
執事、なんて。
宝条椿
(……話し声?)
宝条椿
(青峰と…如月さんの声だ)
青峰海
何が言いたいんだよ。
如月修太郎
いい加減執事なんて回りくどいことやめてさ。
如月修太郎
ちゃんと宝条さんにホントのこと話したら?
如月修太郎
海だってホントは、彼女のこと…
青峰海
うるせえよ。
青峰海
だからこそ執事って形で生活してんだよ。
如月修太郎
……はぁ。
如月修太郎
まぁいいけど、好きにしなよ。
宝条椿
(ホントのことって…なに)
宝条椿
(あ…だめ、聞きたいのに…頭が……)
宝条椿
……あれ?
青峰海
お目覚めですか、珍しい。まだ5時ですよ。
宝条椿
頭痛くて……
青峰海
熱もあるようですね、昨日汗をかいたからでしょうか……
青峰海
かゆを作りましたけど、食べられますか?
宝条椿
……うん
青峰海
食べさせた方がよろしいですか?
宝条椿
普通に食べる自分で!
青峰海
それはいけません、病人なのに。
青峰海
ああ、口移しの方がいいですか?
宝条椿
……!!
宝条椿
ばか!もう食べさせて!
青峰海
かしこまりました笑
宝条椿
……あれ、おいしい
青峰海
それはよかったです。
宝条椿
なんか小さなこみたいだわ……
青峰海
かわいいですよ妹みたいで。
宝条椿
うるさいわねー…
宝条椿
(あれ、妹みたいでって言われた時…ズキってした)
宝条椿
(なにこれ。)
青峰海
如月さまも心配していらっしゃいましたよ?
宝条椿
…!
宝条椿
(そうだ、昨夜のこと聞かなきゃ……)
青峰海
ボーイにも指導してくださるそうで…
宝条椿
青峰!
青峰海
…?はい。
宝条椿
あ、あなた…その、
宝条椿
……昨夜…如月さんと口論してなかった…?
青峰海
!
宝条椿
私が寝てる時に……
青峰海
……夢ではないですか?
宝条椿
間違いないの、絶対夢じゃない!
宝条椿
なんか…名前で呼びあってたし……
宝条椿
青峰、敬語使ってなかったし…
宝条椿
何かあるならその…言ってほしい……
青峰海
……。
青峰海
ふぅ。
青峰海
お嬢様。
宝条椿
な、なに?
青峰海
失礼します。
宝条椿
…え、あ……
青峰海
さて……気絶してるあいだに手を打っとかないとな。
青峰海
……こんなに早く、別れが来るなんてな…
青峰海
さよなら、椿……。
メイド
お嬢様、お嬢様!
宝条椿
……あ、青峰…
メイド
青峰様ではございません……私です。
宝条椿
ああ…青峰は?
宝条椿
急に気絶させられたんだけど、あいつどこに…
メイド
……
メイド
青峰さまは…
メイド
この屋敷を去られました。
宝条椿
……え…?
メイド
なにか、事情ができたとかで……。
メイド
お嬢様には、俺のことは探すなと言っておけと、申し使っております。
宝条椿
いや、なんで…だって
宝条椿
(そんなに…聞かれたくないこと……?)
宝条椿
(そんな去り方ってないよ……)
メイド
あと、旦那様からの伝言で、
メイド
婚約式を挙げられるとのことです。
メイド
お嬢様と、如月さまの。
如月修太郎
……急に決まってしまったね…婚約式。
宝条椿
え、えぇ……
如月修太郎
……今日はあの執事さんは?
宝条椿
……辞めたんです。
如月修太郎
…え
宝条椿
急に……
如月修太郎
…そ、そうなんだ……
宝条椿
(このまま私……如月さんと婚約するんだ。)
宝条椿
(わかってた事だけど。)
宝条椿
(でもなに…?何か胸がもやもやする。)
宝条椿
(青峰の顔がちらつく…)
宝条椿
(あぁ……なんだか今すごく……)
宝条椿
青峰に……会いたい…
如月修太郎
え
宝条椿
会いたい…会いたい…っ!
宝条椿
青峰に会いたい!!
如月修太郎
……
如月修太郎
…クス。
宝条椿
え?
如月修太郎
宝条さんがそんなに大声で自分の感情を出したのは初めて見たね。
宝条椿
如月さん…
如月修太郎
そんなに会いたいならおいで。
如月修太郎
会わせてあげるよ。
宝条椿
……え…?
宝条椿
如月家…?
宝条椿
どうしてここに…
如月修太郎
まぁついてきて。
如月修太郎
きっとあそこにいるはずだから。
宝条椿
……うわ…薔薇がいっぱい…
宝条椿
綺麗な庭園…ここに青峰が……?
如月修太郎
そこのアーチをくぐって、テラスに入ってごらん。
宝条椿
……!青峰!!
青峰海
……え!?
青峰海
お嬢様…
青峰海
どうしてここに……今日は婚約式では…
宝条椿
あんたに会いたくてきたの!!
青峰海
え?
宝条椿
ろくに話もしないで気絶させるってどういうこと!?
宝条椿
なんで如月家にいるの!?
宝条椿
なんで…
宝条椿
なんでそばにいてくれないのよ……っ
青峰海
……
如月修太郎
……海
如月修太郎
もうこれ以上は意味無いんじゃない?
如月修太郎
話してあげなよ、全部。
青峰海
……
青峰海
…わかったよ。
宝条椿
……青峰
青峰海
……全部…話します。
青峰海
まず、俺の本名は青峰海ではありません。
宝条椿
え?
青峰海
俺の名前は……
青峰海
如月海斗。
宝条椿
き、さ…らぎ……?
青峰海
そこにいる如月修太郎の双子の兄です。
宝条椿
双子!?
宝条椿
だってそんな、顔似てない……!
如月修太郎
2卵生だからだね。
宝条椿
そ、んな……
青峰海
そして、お嬢様の婚約者も……
青峰海
本当は、兄である俺でした。
宝条椿
!?
宝条椿
ちょ…まって、え?
宝条椿
ならなんで……執事なんて…
青峰海
お嬢様は覚えてないかも知れませんが…
青峰海
俺と修太郎は幼い頃、あなたとよく遊んでいました。
宝条椿
え……
青峰海
その時、俺はあなたが好きだった。
宝条椿
……
青峰海
後に婚約者だと知った時、すごく嬉しかった……
青峰海
だけど婚約者ということは、一生かけて幸せにすること。
青峰海
あなたは俺にはもったいない…
宝条椿
そんなこと!
青峰海
俺より優しくて包容力のある修太郎といたほうが、あなたの幸せになると思いました。
青峰海
だから俺は身分を隠し、あなたのそばで修太郎との恋を応援していたというわけです。
宝条椿
そんな…
宝条椿
なんでそんなこと勝手に……!!
宝条椿
修太郎さんだって、本当に好きな人と…!
如月修太郎
僕もあなたが好きだったんだよ、宝条さん。
宝条椿
えぇ…?
如月修太郎
だから婚約の権利が移った時嬉しかった……
如月修太郎
けど君は…
如月修太郎
初めから僕のことなんて眼中になかった。
宝条椿
……そんなことは…
如月修太郎
いいんだよ、分かっていたから。
如月修太郎
君はずっと…
如月修太郎
海のことを…思っていたよね。
宝条椿
……
青峰海
……
如月修太郎
やっぱり僕も、自分より、
如月修太郎
愛する人が幸せな方が嬉しいんだよ。
宝条椿
修太郎さん…私…
如月修太郎
いいんだ。君が笑ってくれたらそれで。
如月修太郎
じゃあ…僕は両親たちに婚約破談の話をしてくるよ。
宝条椿
…え
青峰海
修太郎……
如月修太郎
相手は兄に変わりましたって……ね。
青峰海
……お嬢様…
宝条椿
執事じゃないんだからそんな呼び方やめて。
青峰海
ええと……宝条さん?
宝条椿
椿でいい。
青峰海
えと……椿。
青峰海
本当によかったのか?あいつの方が優しいことくらい知ってるだろ?
宝条椿
知ってるよ。
宝条椿
青峰が性格悪くてセクハラしまくることも。
青峰海
……だったらなおさら…
宝条椿
でも!
宝条椿
でも私は……
宝条椿
そんな青峰が好き……
青峰海
……!
宝条椿
優しいとかじゃない、私には青峰がいるの!
宝条椿
必要なの!
青峰海
……椿…。
青峰海
……俺でいいんだな
宝条椿
俺が、いいの。
宝条椿
ていうか青峰私の事好きなの?ほんとに?
青峰海
好きじゃなかったらここまで世話しねーよこんなわがまま娘……
宝条椿
あんった……敬語やめた途端口悪いわね……
青峰海
もともと俺はこーゆーのなんだよ。
青峰海
つーかお前こそ、海斗、って呼べよ。
宝条椿
海斗。
青峰海
…なんか
青峰海
恥ずかしがるとかさ…そーいうかわいらしーことできねーの?
宝条椿
恥ずかしくないから。
青峰海
はぁ……お前な…
宝条椿
だって。
青峰海
?
宝条椿
これからずーっと、
宝条椿
そうやって呼ぶんでしょ?
青峰海
……
青峰海
そうだな……