TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

募集してます。

一覧ページ

「募集してます。」のメインビジュアル

募集してます。

3 - 誘拐犯とストックホルム症候群の少女【前編】

♥

446

2021年05月10日

シェアするシェアする
報告する

【監禁一日目】

タカト

やぁ、おはよう

久留島 奈柚

!!

久留島 奈柚

あ、あなた!

久留島 奈柚

だ、誰ですか!?

目が覚めて、

目の前に現れたのは

目出し帽を被った男。

タカト

タカト

タカト

そう呼んでくれ

久留島 奈柚

……

久留島 奈柚

こ、これはどういうこと!?

久留島 奈柚

どうして私

タカト

君に一目惚れをした

久留島 奈柚

タカト

だから、君を誘拐した

久留島 奈柚

そ、そんな!

タカト

大丈夫、悪いことはしないよ

タカト

大人しくしてくれればね

久留島 奈柚

そんなの!

ガチャンッ

手首に付けられた手錠が大きな音を立てる。

手錠は太い鎖に繋がれ、

太い鎖は壁に突き出た輪っかに繋がっていた。

久留島 奈柚

嘘…こんなところで…

タカト

心配しないで

タカト

食べ物はちゃんとあげるし

タカト

お風呂も

タカト

毎日は無理だけど

タカト

二日か三日に一回は入れるようにしてあげるよ

久留島 奈柚

嘘…

久留島 奈柚

いや!いや!!

タカト

大人しくしてくれれば

タカト

僕を愛してくれれば

そう言って近づいて来たタカトの顔を

思い切り叩いた。

久留島 奈柚

誰が!

久留島 奈柚

誰があんたなんか!!

タカト

そう……

タカト

残念

タカト

じゃ、今日はご飯抜きだね

久留島 奈柚

タカト

おやすみ

それだけ言うと、

あっさりと部屋を出て行ってしまった。

久留島 奈柚

嘘…

久留島 奈柚

嘘よ…こんなの

ガチャガチャ!

いくら手錠を引っ張っても

鎖を引っ張っても

壁から取れる気配も無かった。

久留島 奈柚

そんな……

フローリングの床に座り、

涙が零れて

落ちた。

大きな窓には雨戸が閉められ、

外は一切見えない。

広い部屋には

立派なベッドがあるだけ。

どれだけ頑張っても

扉に手が届くことはなかった。

窓ははめ殺しのようで

どうやっても開けることは出来なかった。

彼女が出来ることと言えば、

大きな声で助けを求めることだが、

いくら大声で叫んでも、

その声が誰かに届いている気配は無かった。

久留島 奈柚

どうして…

久留島 奈柚

誰か…

久留島 奈柚

助けて……

彼女の名前は久留島奈柚 (くるしま なゆ)

高校二年生。

吹奏楽部。

パートはクラリネット。

祖父母と同居しており、

両親は共働き。

一人っ子。

血液型はA型。

誕生日は7月23日。

中学生のときにクラスメイトの男子と

一度だけ付き合ったことはあるが、

現在彼氏はいない。

【監禁二日目】

タカト

やぁ、おはよう

久留島 奈柚

…ここから出して

タカト

うーん

タカト

それは無理かな

久留島 奈柚

どうして!

タカト

だって

タカト

君が好きだから

久留島 奈柚

好きだからこんなことをするの!?

タカト

好きだからこんなことをするんだよ

久留島 奈柚

どうして!?

久留島 奈柚

私はこんなことされて

久留島 奈柚

ちっとも嬉しくない

タカト

僕は嬉しいけどね

タカト

奈柚ちゃんが側にいてくれて

そう言ってタカトは、

ギリギリ彼女の手が届かないところに

朝食をのせたお盆を置いた。

タカト

僕のことを好きって言ってくれたら

タカト

ご飯をあげるよ

久留島 奈柚

そんな…

タカト

ほら、好きって言って

久留島 奈柚

……

タカト

……

久留島 奈柚

誰が…あんたなんか…

タカト

そう

タカト

残念だなぁ…

久留島 奈柚

あ!

ヒョイとお盆を持ち上げると、

タカト

そんな強気な奈柚ちゃんも好きだけど

それだけ言うと、

そのまま部屋を出て行ってしまった。

久留島 奈柚

ああっ……

しかし、

奈柚はぎゅっと手を握りしめる。

久留島 奈柚

ううん、これで

久留島 奈柚

これでよかったのよ

久留島 奈柚

あんな奴……好きだなんて…

久留島 奈柚

口が裂けても……

【監禁三日目】

タカト

奈柚ちゃん?

タカト

今日で三日、何も食べてないよね?

久留島 奈柚

……

タカト

お腹空いてない?

久留島 奈柚

……

タカト

好きって

タカト

言ってくれるだけでいいのに…

久留島 奈柚

……

タカト

でも、このままだと奈柚ちゃん死んじゃうからなぁ

タカト

……

タカト

あ!そうだ

タカト

ハグしていい?

久留島 奈柚

タカト

五秒間、ハグさせてくれたらご飯あげる

タカト

これでどう?

久留島 奈柚

……

タカト

よし、じゃあ近づくよ

久留島 奈柚

……

地べたに座り込んだままの奈柚を、

タカトはそっと

優しく抱きしめた。

タカト

タカト

タカト

タカト

タカト

久留島 奈柚

増やさないで

タカト

あはは…ごめんね

それで手を離し、

距離を取る。

タカト

ありがと

タカト

じゃ、はい

タカト

ご飯どうぞ

久留島 奈柚

……

タカト

食べないと元気出ないし

タカト

……逃げるとき

タカト

走れないよ?

久留島 奈柚

っ!!

それを聞いた彼女はスプーンを手に取ると、

お椀に入ったお粥を口に運んだ。

タカト

うんうん

タカト

ゆっくり食べてね

久留島 奈柚

……

【監禁七日目】

タカト

奈柚ちゃん、おはよ!

久留島 奈柚

…おはよ

タカト

ふふっ

久留島 奈柚

なに

タカト

おはよ、て返してくれた

久留島 奈柚

…それが?

タカト

嬉しいなぁって思って

久留島 奈柚

あっそ…

スルスルと奈柚に近づく。

久留島 奈柚

……

タカト

叩かないの?

久留島 奈柚

……

タカト

ふふっ、ありがと

タカトはそっと奈柚の頭を撫でた。

久留島 奈柚

っ!!

タカト

ん?

タカト

嫌だったら手を叩いてもいいんだよ?

久留島 奈柚

……

タカト

あははっ

タカト

また、ご飯抜きにされるって思ったの?

久留島 奈柚

うん……

タカト

そう、だから大人しくしてる?

久留島 奈柚

うん…

タカト

そっか

タカト

奈柚ちゃんは良い子だねぇ

そして、しばらく頭を撫でる。

久留島 奈柚

ねぇ

タカト

なに?

久留島 奈柚

もう、三日もお風呂に入ってないの

タカト

あ、そっか

タカト

じゃあ、今晩入ろうか

久留島 奈柚

うん

久留島 奈柚

え…一緒に入るの?

タカト

え、じゃあないと

タカト

奈柚ちゃん逃げるでしょ?

久留島 奈柚

……

タカト

だから、一緒に入るの

タカト

大丈夫、何もしないよ

確かに、タカトは何もしなかった。

お風呂場の隅に座り、

ただじっと彼女を見つめるだけ。

久留島 奈柚

は、恥ずかしいんだけど…

タカト

そう?

タカト

気にしない気にしない

久留島 奈柚

(…そう言われても…)

あまりにもジロジロ見られるので、

長湯も出来ない。

さっさと体と髪を洗うと

そそくさとお風呂から上がる。

部屋からお風呂場までは

何故か目隠しをされる。

部屋に戻ると目隠しを外され、

タカトはタオルで彼女の髪を拭いた。

今は、それ以上のことはしてこない。

しないのかと尋ねると、

タカトは恥ずかしそうに

”好きって言ってくれたら”とだけ言った。

久留島 奈柚

(そう)

久留島 奈柚

(私はまだ、この人に好きだと伝えていない)

久留島 奈柚

(それでも)

久留島 奈柚

(今のところ現状は維持できている)

久留島 奈柚

(このまま大人しくしていれば)

久留島 奈柚

(そのうち、手錠も外してくれるようになるかもしれない)

久留島 奈柚

(もう少し、自由が与えられるかもしれない)

久留島 奈柚

(そうすれば……)

久留島 奈柚

(逃げることも出来るはず)

久留島 奈柚

(だから、今は耐えるの…)

そう何度も彼女は自分に言い聞かせた。

【監禁十四日目】

タカト

奈柚ちゃん、こんばんわ

久留島 奈柚

こんばんわ

タカトはベッドに座っていた奈柚の隣に腰を下ろす。

久留島 奈柚

どうしたの?

タカト

タカト

好きな子にはいつだって会いたいもんでしょ?

久留島 奈柚

そう…だけど…

タカト

目的が無くても会いたくなる、それが愛だよ

久留島 奈柚

愛…

タカト

ま、奈柚ちゃんの顔が見たいなぁって思ったから来たんだけどね

久留島 奈柚

そう

タカト

……

久留島 奈柚

ねぇ

タカト

なに?

久留島 奈柚

私のどこが好きなの?

タカト

うーん…全部?

久留島 奈柚

え…

奈柚はあからさまに嫌そうな顔をして見せた。

タカト

え~!全部だよ

タカト

奈柚ちゃんの大きな目とか、形の良い唇とか

タカト

透けるような白い肌とか

タカト

絹みたいに細い髪とか

タカト

細い手足…

タカト

指も細くて…綺麗だよね

そう言ってタカトがそっと触れる。

一瞬だけ、手を引っ込めそうになったが

奈柚はぐっと我慢した。

タカトの指が

奈柚の指に触れ、

手の甲に触れる。

タカト

若いっていいなぁ…

久留島 奈柚

なにそれ

タカト

肌ツルツル

そして、腕に触れる。

指先でそっと、優しく。

久留島 奈柚

もっと良いモノ食べさせてくれないと

久留島 奈柚

お肌も髪もボサボサになっちゃう

タカト

あ、そっか

タカト

そうだね

タカト

じゃあ、タンパク質の多いモノ採らなきゃね

久留島 奈柚

…うん

肩まで触れた指先は、

奈柚の長い髪に触れる。

指先に絡ませたり、

解いたり、

撫でたりと

タカトは髪を弄ぶ。

久留島 奈柚

……

タカト

……

久留島 奈柚

ねぇ

タカト

うん?

久留島 奈柚

いつになったら

久留島 奈柚

顔、見せてくれるの?

タカト

好きって言ってくれたら

久留島 奈柚

……

タカト

ダメ?

久留島 奈柚

…顔を見たら

久留島 奈柚

好きになるかも

タカト

っ!!

タカト

そ、そうかな…

タカト

そんな、急展開ある?

久留島 奈柚

あるかも

そして、奈柚は微笑んだ。

タカト

…あ、でも、ダメ!

タカト

髭剃ってないから

久留島 奈柚

何それ

タカト

ダメなものはダメ!

久留島 奈柚

髭なんて気にしない

そう言って奈柚が目出し帽の下を掴むと、

タカトは大慌てで帽子を抑える。

久留島 奈柚

顔、見せてよ

タカト

嫌だ

久留島 奈柚

なんで

タカト

だって髭が

久留島 奈柚

別にいいじゃない

タカト

よくない!僕が良くない!

久留島 奈柚

いいから見せなさい!

タカト

うわっ

そのまま奈柚がタカトをベッドに押し倒す形となった。

久留島 奈柚

……

タカト

……

タカト

あっ…やるなら

タカト

優しくして…

久留島 奈柚

恥ずかしそうに言うな!

久留島 奈柚

やらないし!

奈柚は目出し帽から手を離すと

ベッドに座り直す。

タカト

え~~~

久留島 奈柚

……

タカト

残念…

タカト

じゃ、ハグで妥協します

久留島 奈柚

……

そう言って抱き締められることに

奈柚は抵抗を感じなくなっていった。

タカト

じゃ、もう、寝ます

タカト

おやすみ

久留島 奈柚

おやすみ

久留島 奈柚

(別に悪い人だとは思ってない)

久留島 奈柚

(変なことはしてこないし)

久留島 奈柚

(ご飯もちゃんと食べさせてくれる)

久留島 奈柚

(お風呂にも入れてくれるし)

久留島 奈柚

(頼めば暇つぶしの本を持ってきてくれる)

久留島 奈柚

(自由は無いけど……)

手を動かせば手錠が微かな音を立てる。

久留島 奈柚

(あの人は…)

久留島 奈柚

(私を悪いようにはしないっていうのが)

久留島 奈柚

(伝わってくる…)

久留島 奈柚

(あの人の愛情が…)

久留島 奈柚

(伝わってくるような…)

久留島 奈柚

(そんな気がする……)

久留島 奈柚

(私はあの人に)

久留島 奈柚

(愛されているんだ)

【監禁二十日目】

タカト

おはよ~奈柚ちゃん

久留島 奈柚

おはよ、タカトさん

タカト

!!

久留島 奈柚

なに?

タカト

やっぱいいなぁ~って

タカト

名前呼んでもらえるって

タカト

凄い嬉しい

久留島 奈柚

そう?

タカト

うん

タカト

もう一回呼んで!

久留島 奈柚

うん

久留島 奈柚

タカトさん

タカト

!!!

タカト

はぁ…最高…

久留島 奈柚

そんなので満足しちゃうの?

タカト

満足…は、しません

久留島 奈柚

好きって言ってないから?

タカト

うん

久留島 奈柚

……

タカト

奈柚ちゃん?

久留島 奈柚

隣に座って

タカト

え?

久留島 奈柚

早く

タカト

う、うん

久留島 奈柚

目出し帽取って

タカト

え…

久留島 奈柚

いい加減取って

タカト

そ、それは無理…だよ

久留島 奈柚

どうして?

タカト

顔は…やっぱり、見られたくない…

久留島 奈柚

…顔、見せてくれないなら

久留島 奈柚

好きって言ってあげない

タカト

!!

久留島 奈柚

顔を見せてくれたら

久留島 奈柚

ハグして

久留島 奈柚

耳元で

久留島 奈柚

好きって言ってあげる

タカト

!!!

久留島 奈柚

さ、早く

久留島 奈柚

目出し帽を取って

タカト

……

久留島 奈柚

タカトさん

タカト

…ご、ごめん

タカト

これだけは……

久留島 奈柚

タカトさん……

タカト

ご、ごめんね…

タカト

奈柚ちゃん

タカト

げ、幻滅した…よね?

久留島 奈柚

……はぁ

タカト

…ごめん

タカトは消え入りそうな声で謝り、

小さくなる。

そんな彼を彼女は

そっと抱き締めた。

タカト

え?え?

タカト

奈、奈柚ちゃん!?

久留島 奈柚

タカトさん

タカト

は、はひっ

久留島 奈柚

好き

タカト

えっ

久留島 奈柚

大好き

タカト

ええええええええ!!!

久留島 奈柚

声が大きいよ

久留島 奈柚

耳痛い

タカト

ああ、ごめん

タカト

も、も、も、もう一回!!

タカト

もう一回お願いします!!

久留島 奈柚

タカトさん…

久留島 奈柚

好きだよ

タカト

……

久留島 奈柚

タカトさん?

タカト

あ~~~ダメ

タカト

それ以上は……

タカト

腰にくる

久留島 奈柚

え?

タカト

……

久留島 奈柚

タカトさん?

タカト

……

久留島 奈柚

……?

タカト

ぼ、僕の

タカト

どこが…

タカト

好き

タカト

ですか?

久留島 奈柚

え?

久留島 奈柚

うーん…顔以外?

タカト

か、顔以外!?

久留島 奈柚

だって、顔見せてくれないんでしょ?

タカト

う、うん…

久留島 奈柚

でも

久留島 奈柚

顔以外は

久留島 奈柚

声も、喋り方も…

久留島 奈柚

ぜ~んぶ好き

タカト

!!!

久留島 奈柚

ねぇ、タカトさんは

久留島 奈柚

私のこと

久留島 奈柚

好き?

タカト

好き!!

久留島 奈柚

早いよぉ

奈柚が楽しそうに笑うと、

タカトは彼女をぎゅっと抱き締めた。

タカト

好き!大好き!

タカト

もう一生離さない!!

久留島 奈柚

うん

久留島 奈柚

離さないで

久留島 奈柚

私も

久留島 奈柚

一生、タカトさんと一緒にいるから

タカト

…うん

タカト

…うぅ…幸せ…

久留島 奈柚

うん、幸せだね

久留島 奈柚

……

その気持ちは本当?

それとも

解放されるための嘘?

この作品はいかがでしたか?

446

コメント

5

ユーザー

最初から歪んだ関係…最高です! めちゃくちゃゾクゾクってして癒されます!

ユーザー
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚