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街はクリスマスムード一色だった
きらびやかなイルミネーション、幸せそうに行き交う恋人たち
そんな中、僕は一人 デパートのおもちゃ売り場で真剣な顔をして悩んでいた
甥っ子のプレゼントだ 戦隊モノのロボットか、それとも知育玩具か
ふと、顔を上げた時だった
人混みの向こう、エスカレーターの方を見上げた視線の先に
学生の頃、恋焦がれていた女性によく似た横顔が見えた
小松
動悸が激しくなる
けれど、すぐに自分の中で否定した
あんな高嶺の花が、僕のことなんて覚えているはずがない
僕はただ目で追うだけで、声をかける勇気なんて持ち合わせていなかった
その時だ
ふと彼女がこちらを向き 視線が絡んだ
時が経っても変わらない、いや、昔よりも大人の魅力を纏った彼女に、「あ、今でも可愛いな」と素直に思った瞬間――
唯がハッと目を見開き、人混みをかき分けてこちらへ近づいてきた
唯
その声色、その笑顔 昔と変わらない 僕の好きだった唯だ
彼女は「綺麗」というよりは 「姉貴肌」で、少しやんちゃなところが魅力的だった
小松
唯
唯はニカっと悪戯っぽく笑いながら、僕の肩をバンと叩いた
小松
小松
唯
小松
恥ずかしさで顔が熱くなる 唯はひとしきり笑ったあと 「そっかそっか」と少しだけ声を落とし、ふっと表情を緩めた
唯
そう言うと、彼女は表情一つ変えず、背を向けた その背中が遠ざかろうとした時、僕の中で何かが弾けた このまま行かせたら、もう二度と会えない気がしたんだ
小松
裏返りそうな声で 僕は彼女を引き止めた 唯の背中がピタリと止まる 振り返らずに、彼女は少し間を置いてから答えた
唯
その声は、さっきまでの快活な彼女とは似ても似つかない、驚くほどか細く、女の子らしい響きだった
クリスマスが過ぎ、世間が慌ただしく正月休みに入ろうとしていた平日の夜 僕は唯と、こぢんまりとした居酒屋の個室にいた
お互いの近況報告、昔話…… そんなスムーズな会話ができると信じていた自分を殴りたい 実際は、想像を絶するほどぎこちない空気が流れていた
小松
唯
唯
唯
小松
唯
小松
会話が続かない ジョッキについた水滴がテーブルに落ちる音さえ聞こえそうだ
唯は手元の箸袋を意味もなく折り曲げているし 僕はビールの泡を見つめてばかりいる
唯
小松
唯
唯はそう言って、少しだけはにかんだように酒を煽った
唯は柄にもなく辿々しく 僕は不安だった
(またご飯来てくれるかな)
沈黙が多かったけれど不思議と、居心地は悪くなかった むしろ、言葉よりも確かな温度が、二人の間を満たしていた
店の外に出ると、冬の冷たい夜風が火照った頬に心地よかった 駅までの帰り道、僕は意を決して口を開いた
小松
唯が立ち止まり、こちらを見上げる 街灯に照らされたその瞳が 揺れていた
唯
彼女は小さく、けれど深く頷いた
それから、僕たちは季節が一巡するまで、付かず離れずの関係を続けた
春には桜を見に行き
夏には映画を観て
秋にはまた食事をして
唯を知れば知るほど その魅力に溺れていった やんちゃに見えて 実は誰よりも繊細で 困っている人を放っておけない優しさ 僕の情けない話も 茶化しながらも最後には真剣に聞いてくれる包容力
どうして学生の頃 僕は告白できなかったのだろう
高嶺の花だと勝手に決めつけ、傷つくことを恐れて 彼女の本当の優しさに触れようともしなかった過去の自分が憎らしかった
そして、再び巡ってきた冬
イルミネーションの下、僕は唯と並んで歩いていた
ポケットの中の手が汗ばむ 心臓が痛いほど脈打っている 今言わなければ、一生後悔する この関係に甘えていてはいけない
小松
呼び止めると、唯が「ん?」と白い息を吐きながら振り返る その無防備な表情を見た瞬間、僕の胸に熱いものが込み上げた
(好きだ、誰よりも、何よりも)
もう、過去の臆病な僕はいない 震える声を必死に抑え込み、僕は彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた
小松
小松
小松
小松
唯の目が大きく見開かれる
小松
小松
一瞬の静寂
やがて、唯の目から大粒の涙がこぼれ落ちた いつもの姉貴肌な彼女からは想像もできない、子供のような泣き顔だった
唯
泣き笑いのような顔で、唯は僕の胸に飛び込んできた
あれから3年
クリスマスを目前に控えた ショッピングモール
唯
小松
唯
唯が笑いながら、小さな、本当に小さなベビー服を手に取って僕を小突く
その左手の薬指には 僕が贈った指輪が光り
彼女の少しふっくらとしたお腹には 僕たちの新しい命が宿っている
小松
小松
唯
かつて甥っ子のプレゼントを一人で選んでいたあの場所で 今、僕は最愛の妻と、まだ見ぬ我が子のためのプレゼントを選んでいる
幸せそうに微笑む唯の横顔を見ながら 僕は心の中でそっとサンタクロースに感謝した
あの夜、勇気を出して呼び止めた自分に そして、僕を見つけてくれた彼女に
小松
唯
僕たちは繋いだ手を離さないまま、温かい家路へと歩き出した