俺には、好きな人がいた。名前はベニ。バスケ部のマネージャーとして入部してきた。
小柄でストートヘアーが似合う目のぱっちりしたふわふわ系女子。初めて喋った時、心の底からガッツリポーズしたのを覚えている。
でも、そんな俺のガッツリポーズと同じように親友のアキラもしていた。
アキラ
トシ
アキラ
トシ
アキラ
トシ
アキラ
親友の恋敵にはなりたく無かった。
俺は、その日から親友のアキラの恋路を手伝う事になった。
なるべく、二人の時間を作るように計らったり、アキラの良いところをベニに話すようにした。
ベニと話すのは無茶苦茶嬉しかったが、とても、苦しくて、切なかった。この笑顔が、俺自身に向けられたもので無いのを知っていたから。
1年半と時間はかかったが、アキラとベニは付き合う事になった。
その日、突如として現れたゾンビ。俺たち三人は、他の生徒を含めて、理科室へと逃げ込んだ。
理科室には、傾斜式避難袋がある事を知っていたためだ。
俺は、アキラたちの協力の元、傾斜式避難袋を降りて、避難袋の出口をペグで固定し、全員が降りられるように用意した。
トシ
ロープを3回ずつ引っ張るのは、設置完了の合図だ。もう、5分は待っている。だが、一人として降りてこない。
これ以上、ここにいるのは危険だった。正直、どこからゾンビが襲ってくるのか皆目見当がつかない。
その時、理科室の窓ガラスが割れ、破片が舞った。
トシ
その瞬間、俺は全てを悟ってその場から逃げ出した。
校舎裏へ逃げようと自転車置き場を突っ走る。別のところからまた、悲鳴が聞こえた。
息が上がる。それでも、走り続けた。
人だかりが見えた。あれは、どっちだ??ゾンビなのか??人なのか??
そう、思う暇もなく銃声が響いた。
トシ
生徒
俺は、近くの草陰に隠れ、校舎裏の様子を伺った。何十人という生徒がそこに集まっていた。
その先には、戦車で校門を塞ぐ軍人の姿があった。俺は、目を疑った。市民を守る軍人が何をしているんだ?!しかも、銃口を、生徒に向けている。
軍人
生徒
軍人
生徒2
再び、銃声が響いた。その音に、全員が静まり返る。
トシ
軍人
一人喚く軍人のそばで別の軍人が何かを囁いた。その途端、銃口が、生徒に向けらた。
あとは、簡単だった。その場にいた生徒は、全て真っ赤に染め上げられた。全て。全てだ。
その光景が信じられなかった。逃げ惑う者も容赦なく撃たれていく。校門裏は血の海と化した。
トシ
突然、胃液が逆流してくるのを感じ、止める暇もなく俺はその場に吐いてしまった。
トシ
この高校では、部室は、外にある。コンクリート性の部屋は、横並びになっており、扉も鉄で出来ていて何処かの独房かと見間違う仕様になっている。
中から施錠できる事もある上にグラウンドとは、少し離れている。俺は、慎重に部室へ向かった。
何人かのゾンビを遠目で見ては奴らが去るのを確認してから移動した。外は、すでに夜だ。
普段なら5分もかからない距離なのに、俺は一体何時間かけて移動しているのか分からなかった。
途中、誰かの生徒のカバンを拾い、中を漁った。教科書、ペンケース。ポッキーとスマホがあったので、それを握り締めた。あと、飲みかけのペットボトル。
お茶の入ったペットボトルを飲み干すと俺は生きているのを感じた。
俺は、まだ、生きてる。
スマホの時間を見ると22時だった。すぐに画面を閉じて再び部室を目指す。
ゆっくりと慎重に俺は部室へたどり着くことができた。
鉄の扉を慎重に開けるも音がどうしても鳴ってしまう。その時、近くにゆらりと揺れる影が見えた。
トシ
それは、一つ二つと増えていく。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!!
来る来る来る!!!
重い扉が普段の倍に感じる。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!!
横にスライドするだけだというのに、さっしに小石が引っかかって開かない。
ふざけんなよ!!!
急いで小石をどかそうとするが、硬い。
奴らのうめき声が耳元に聞こえる。
トシ
扉を少し浮かせて小石を外した。
その時、制服を引っ張られた。
あっという間に俺は、地面に倒れた。
月明かりの下、そこには、生気の無い生徒の姿があった。
ゆっくりと確実に自分を捉えようとする手が伸びる。
俺は、その手を蹴飛ばし、四つん這いになりながら、必死の思いで立ち上がろうとするも首根っこをつかまれた。
トシ
再び地面へと身体が沈む。
もう、ダメだ!!
全部、終わった!!
くそっ、何でこんなことになるんだよ!!
その時、拾ってきたスマホが鳴った。
母
通話
00:10
ゾンビの動きが止まった。
そのタイミングを逃さず、俺は部室へ滑り込んだ。
扉を閉めようとした時、俺の視界にお前がいた。
トシ
生気の無い顔、痛いほどに食い荒らされた身体は血で染まっり、片腕は失っていた。だが、その顔は、はっきりと分かる。
俺は、そのまま、扉を閉め、鍵をかけた。
俺は、その場に崩れた。
あれは、アキラだった。
ってことは、ベニは………もう………
俺は、その場でうずくまるようにして声を殺しながら泣いた。
コンクリートの床に涙がいくつもこぼれ落ちる。
トシ
俺は、いつのまにか寝ていたらしい。床に落ちたポッキーを拾い、一口食べた。再び涙が溢れてくる。
俺は、何でここにいるんだ?どうせ、外に出ても殺されるのに。それなら、いっそのこと、ここで死んだ方がいいんじゃ無いだろうか?
その時、コンコンと扉を叩く音がした。
心臓が跳ね上がるのを感じながら俺は、ただ、一人震えることしか出来なかった。
イツキ
その声には、聞き覚えがあった。
小学校の頃の同級生だ。中学で相手が引っ越したあと、高校で再び会う事になった奴。確か、イツキ。
トシ
少しの隙間を開けて、のぞくと確かにイツキがいた。彼は、逆に驚いた顔をしていた。
無理もない。俺は、アキラと一緒にコイツを虐めていたのだから
イツキ
トシ
イツキの目は、ゾンビ化したアキラと同じ青だった。
イツキ
トシ
見れば、イツキの制服は、血でところどころ染まっていた。しかも、ご丁寧に額に穴まである。
イツキ
イツキの足元には、さっき俺を襲ったゾンビが倒れていた。ピクリとも動かない。
イツキ
トシ
イツキ
イツキは何も言わずに首を横に振った。それだけで、十分だった。
それと同時に、俺の中で、ざまぁみろという感情が湧き上がってきた。
俺の恋路を邪魔し、常に俺の後をつけ回るアキラが嫌いだった。
俺には無いものをアイツはいつも横からかっさらっていく。やっと、やっと、俺は…………
イツキ
トシ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
その場で土下座し、俺は昔虐めていたイツキに懇願した。
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
その当時の俺たちは、自分たちが一番じゃなければダメだった。勉強もスポーツもありとあらゆるものだ。俺たちは、常にクラスで1、2を争っていた。
そんな時、同じクラスのイツキがカッコいいとクラスでもてはやされているのを二人で聞いてしまった。
アイツのどこが?
それが、俺たち二人の意見だった。
それから、イツキに対して徹底的に冷たくなった。イツキが、悪いせいではない。最初は出来心だった。
ちょっと、困ればいい。ちょっと、恥ずかしがらせてやればいい。
それが、エスカレートしてしまった。
結果、暴力行為が見つかるも親の権力を使い、イツキを転校させる事になった。
ざまぁみろ、俺たちには誰も勝てないんだよ!
それが、俺たちの考えだった。 自分たちのやってきたことが全て正しいと思っていたし、誰も止める奴なんていなかった。
トシ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
トシ
イツキ
イツキ
トシ
イツキ
トシ
イツキ
そう言って、イツキは笑っていた。
落ちたスマホを拾うと時間は深夜2時だった。夜明けまであと4時間。
俺は、部室の扉を閉め、イツキと別れた。扉の冷たさが身体に染みる。
この扉の先にアキラがいるのかと思うかと不思議な感覚だった。
トシ
アキラ
トシ
それ以上、アキラの声は聞こえなかった。アキラの声だったのかどうかもわからない。
小窓から陽の光が差し込むのが見えた。
トシ
軍人
俺は、その声に急いで扉を開けた。
その後、俺は、無事保護された。
俺は、生き残ったのだ。
俺は、まだ、生きている。
第4話に続く
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