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3月4日、午後11時
明人が中学を卒業する日が近づいてきたある日のこと
夏川愛
先輩
夏川愛
起きてますか？
高春明人
起きてるよ
高春明人
どうしたんだ？
夏川愛
先輩もうすぐ卒業しちゃうじゃないですか
夏川愛
だからその前に
夏川愛
一回だけ私とどこか遊びに行きませんか！？
高春明人
高春明人
いいよ
高春明人
でも、どこに？
夏川愛
それはまだ決めてませんけど…
夏川愛
どこか一緒に行けたらなあって！
高春明人
あと、いつ？
夏川愛
うーん、明後日の日曜日とかどうですか？
高春明人
明後日なら何も予定ないから平気だよ
夏川愛
やった！
夏川愛
じゃあ、明後日楽しみにしてますよ！
夏川愛
待ち合わせの場所とかはまた明日、私から送りますので！
高春明人
ああ、わかった
3月6日、午前10時のS駅前
高春明人
よう
夏川愛
あ、先輩！
夏川愛
10分遅れですよ！
高春明人
悪いな、信号機がぶっ壊れてて渡れなかったんだ
夏川愛
めちゃくちゃ嘘が下手ですね
高春明人
で、どこ行くんだよ
高春明人
結局待ち合わせ場所がここってだけで
高春明人
まだ決めてないよな
夏川愛
うーん
夏川愛
私はどこでもいいんですよね
夏川愛
先輩と一緒ならどこでも楽しそうですし
高春明人
(…もう鈍感の俺でもわかる)
高春明人
(こいつは俺を好きでいてくれていることが)
高春明人
(竜二の言葉を思い出しちまうよ)
高春明人
(付き合ってから好きになるってことを)
夏川愛
どうしたんですか？
高春明人
え！？
夏川愛
何か考え事してたような…
高春明人
い、いや！
高春明人
何もしてないよ！？
夏川愛
えー？
夏川愛
本当ですか？
高春明人
と、とにかくどこ行くんだよ！
夏川愛
んーと、それじゃあですね…
午前11時
夏川愛
わー！
夏川愛
子供の時以来だー！
高春明人
…………
高春明人
俺は初めて来たけどな…ここには
夏川愛
え、そうなんですか？
夏川愛
確かに先輩って遊園地似合わないかも…
高春明人
はあ！？
夏川愛
あはは！
夏川愛
冗談ですよ！
高春明人
ちっ
高春明人
ま、あんまり賑やかな場所には行かないからさ
夏川愛
なんでですか？
高春明人
んー
高春明人
俺はカフェとか静かな場所が好きなんだよ
高春明人
でも、来てみて思ったけど悪くないな
夏川愛
そうですよ！
夏川愛
来ると楽しいんだから！
高春明人
…………
高春明人
(夏川って結構はしゃぐんだな)
高春明人
じゃあ、ジェットコースターでも乗る？
夏川愛
先輩、大丈夫なんですか？
高春明人
え…？
夏川愛
何かあんまり得意じゃなさそう…
高春明人
い、いや…乗ったことないけど
高春明人
試してみたいっていうか
夏川愛
あはは！
夏川愛
じゃあ乗りましょう！
夏川は明人の手を取って、小走りでジェットコースターへと向かっていく
高春明人
お、おい…
夏川愛
あ…
夏川愛
手、握っちゃダメでしたか？
高春明人
い、いや…
高春明人
べ、別に…
高春明人
(他人から見たら俺達付き合ってるよな)
高春明人
(こいつはそういうの意識しないのか？)
高春明人
あ…
夏川愛
どうしたんですか？
明人の視界に飛び込んできたのは
コンビニの子とよく似た人物がひとりで歩いている光景だった
高春明人
…………
夏川愛
ジェットコースター怖いですか？
高春明人
いや…そんなことないよ
夏川愛
じゃあ、乗りましょう！
高春明人
(俺は…)
高春明人
(1ヶ月経ってもまだ思い出しちまうのか)
午後5時
夏川愛
あー楽しかった！
夏川愛
いっぱいアトラクション乗りましたね！
高春明人
ああ…
高春明人
ジェットコースターと観覧車はもう乗らん
夏川愛
先輩、高い場所怖がってましたもんね
夏川愛
意外だなあ！
高春明人
…………
夏川愛
夏川愛
先輩
夏川愛
あのですね
高春明人
ん？
夏川愛
私、先輩のこと好きなんです
夏川愛
ずっと前から
高春明人
…………
夏川愛
だから、こうして一緒にいられた時間は
夏川愛
私にとって宝物になりました
夏川愛
でも、気付いたんです
夏川愛
先輩は、私を見ていないことにも
高春明人
…………
夏川愛
きっと、前に話してくれた人のことが忘れられないんですよね？
高春明人
高春明人
ああ…
高春明人
お前、言ってたよな
高春明人
思い出はだんだんと美化されるって
高春明人
でもさ
高春明人
俺、それでもその人のことが忘れられない
夏川愛
…………
夏川愛
大丈夫です
夏川愛
そういうところが私、好きですから
夏川愛
付き合ってくださいなんて言いません
夏川愛
ただ、先輩はずっと先輩らしくいてほしいです
高春明人
…夏川
高春明人
お前の気持ちは嬉しい
高春明人
でも…
夏川愛
いいんですよ！
夏川愛
私は玉砕覚悟で言っただけですから！
夏川愛
だから先輩も当たって砕ける気持ちでその人に…
夏川の瞳から大粒の涙が零れ落ちていく
夏川愛
あ…
夏川愛
何で涙が…
高春明人
夏川
高春明人
泣かないでくれ
高春明人
悪い…今はそれしか言えなくて
夏川愛
…優しいですね
夏川愛
だから私は先輩が好きなんですよ、大好きです
高春明人
(俺は本当にこれでいいのか)
高春明人
(今日こいつといて楽しかったのは事実だ)
高春明人
(こんなに俺の事を好きでいてくれてるのに)
高春明人
(こんな簡単に…俺は断ってもよかったのか…？)
夏川愛
じゃあ、帰りましょう
高春明人
ああ…
夏川愛
先輩
夏川愛
今日は本当にありがとうございました！
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